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サイバーエッセイ 第6回

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今回からは、プロジェクトマネジメントの側面から見たカルチャー・チェンジについて語って行きたいと思います。

システム開発・精神と物質について

五感のみを信ずる開発は失敗します。なぜならば、人の意識、目標への執着、意志の強さなど、心の問題にプロジェクトは大きく左右されているからです。このことを理解しなければなりません。

我々が活動を行っていると思っている領域は、実体として見えている領域(物質的領域)と精神面の支配している見えていない領域(メンタルな領域)の2つに分けることができます。これらは、いわば、水面上と水面下にまたがっている氷山のような形にたとえることができます。我々が見ているシステム開発プロジェクトは、水面上の領域にすぎないといえます。この水面上に見えている領域は、五感で捉えることができます。

一般的なプロジェクトメンバーの行動は、この水面上の領域で判断を行い、プロジェクトの進路が決まります。水面化は無意識の世界ですが、人間の行動のおよそ80~90パーセントまでは、この無意識の活動を行っていると言われています。多くのプロジェクトメンバーは、この領域の存在を認識していません。また、水面上の視野も、メンバーごとにさまざまで、情報の十分な共有化が図られるのは稀なようです。

一方、水面下の領域には、プロジェクトの背景となる組織文化・風土やカルチャー、さらに、プロジェクトリーダーを中心とするメンバーのやる気やチームワークの力、モチベーション、モラルの高さ、危機管理のあり方などがあり、これらがプロジェクトの成否に大きく影響します。

プロジェクトでの活動の結果は、メンバー全体の無意識の世界の総和に大きく左右されています。プロジェクトメンバーの多くの人がプロジェクトに不快な感情を持っているとすれば、全体への影響は相当なものでしょう。

プロジェクトの成功にとって何よりも重要なことは、プロジェクトのメンバーが、共通の成功イメージを持ち、プラス思考でチームワークを強力に発揮できるようにすることです。また、プロジェクトの開始時点でのチームの運営方法も、その後のプロジェクトの生産性や進捗に大きな影響を与えます。つまり、プロジェクトの最初の段階で、良いリズム(波動)に乗って弾みをつけてしまうことが大変重要なのです。

よく、これらのことを無視して、技法やツールのことだけを話題にすることがありますが、大前提を無視した技法の適用は効果がない、といっても過言ではないと私は考えています。(これが、一般の企業が陥りやすい間違いです)人は、自分が、興味のある方向へ活動を偏らせる傾向があります。この事も、精神に支配されているといえるのではないでしょうか。

IBMが過去に行った調査からもCASEや開発言語などの技術の要因よりビジョン(共通のビジョンを持つ)、モチベーション、イノベーション(革新的なことに挑戦すること)などのプロジェクトメンバーの精神面に関係する要因が、納期と品質により強く関係していることが証明されています。

要するに、成功するためには、カルチャー・組織・マネジメント・人材(人間)について学び、準備をすることが重要であるということです。物質面(ハードウェア、ソフトウェア、データベース、ネットワーク、CASEツール、技法)と同様に、精神面(カルチャー、風土、人材、モチベーション、チームワークなど)が大変重要な要素となるのです。

近代のスポーツでは、技能の向上とともにメンタルトレーニングの効果も認められています。私は、このメンタルトレーニングをプロジェクトチームに適用することを試みようと考えています。ここでは、私の体験から確信している真実を、精神文化を前提におきながら広く述べてみようと思います。

失敗するプロジェクトの要因

私の今までの体験から分かってきたことに、次のようなものがあります。

「失敗したプロジェクトの原因は、非常に単純な事柄にある」
失敗するプロジェクトに共通している問題点の多くは、次のように整理することができます。

「ユーザーサイドと技術者サイドのどちらにも明確にリーダーと分かる責任者がいない場合、プロジェクトは、推進力と進路を失い、しばしば座礁する」 プロジェクトの計画段階に初歩的な問題点・課題が見つかります。これらの問題を放置することにより問題が問題を生み、最後には、修復不可能なところまでプロジェクトを追い込むことになります。

具体的には、

  • プロジェクトの目標が不明確である
  • プロジェクトの対象範囲が、大きくなりすぎる
  • プロジェクトに対する過大な期待がありすぎる
  • ユーザーに対してのイエスマンが存在する
  • プロジェクトの体制や役割をはっきりさせたがらない
  • プロジェクトリーダーが、ユーザーと事前に過大な約束をしている
  • 組織内に、派閥争いがある
  • 最初から無理な納期のコミットをしている
  • プロジェクトの方針がころころ変わる

など、非常に基本的な問題の処理方法の間違いに起因することが多い、と考えることができます。いかに、プロジェクトの発足段階が重要で、手を抜くなんてとんでもないことかが分かっていただけると思います。多くのプロジェクトにおいて、初期の段階の問題点や課題を重大であると認識できるかどうかは、プロジェクトの実行者の認識レベルによります。プロジェクトリーダーの力量があるかどうかが問われる段階です。

強力なモチベーションと成功イメージの共有化こそが、プロジェクトの出発点です。これにより、プロジェクトの方向性と推進力が決まってきます。したがって、魂の入っていないプロジェクトはうまくいきません。また、形式にこだわったりメンバーの立場から入っていくプロジェクトも失敗します。根回しの多い裏表のあるプロジェクトも要注意です。

心配性で意思決定ができない人がキーマンとなっていたり、プロジェクトメンバーに任せることができないで、あれこれと事あるごとにチェックを入れて、プロジェクトを混乱に導く場合が、よく見受けられます。チェックの入れすぎにより、各メンバーが嫌気をさし、プロジェクトの推進力が低下します。

適度な自由度と自主性の確保が必要です。誰もが、プロジェクトを楽しいと感じなくなれば、プロジェクトの達成能力は落ち込んでしまう結果となるでしょう。

また、技術的な内容のみに関心が向いていて、マネジメントや組織上の問題に対する認識が薄い場合も問題です。

新技術の導入とプロジェクトの対象アプリケーションやプロジェクトの体制上の問題が同居する場合も、大きな問題へと発展してしまうことになります。この理由は、プロジェクトメンバーの技術スタッフ、ユーザー部門の責任者、プロジェクトリーダーの思惑がお互いに異なっているために、調整の結果として、いろいろな高い目標が同居する、複雑で目標の絞り込みにくいプロジェクトになってしまうためです。

私は、このタイプのプロジェクトを数多く経験してきました。目標が明確でサイズの小さいプロジェクトが、本当は理想なのです。小さなプロジェクト複数を効率的に定義して、大きな結果を出せるように方向づけすることが大切です。

システム開発成功のために必要なキーファクターは、カルチャー作りにあると言えるのではないでしょうか。プロジェクトの目標を何度も何度も確認すること。単純な事柄を着実に約束とおり実行すること。この2点は、今から実行しましょう。

次号からは、私が、経験した様々なタイプのプロジェクトについての精神面、物理的な面での問題課題とそこから学んだ教訓についてを語って行くことにします。

2000年4月3日

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Profileプロフィール

林衛
林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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