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プロマネ・スーパーコラム 第4回 ~ITプロジェクトにPMBOKを導入する~

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ここ2、3年の間にプロジェクトマネジメント手法に関心が高まりIT組織に浸透し始めているが、「プロジェクトマネジメント手法を導入活用して成功している」という話は一向に聞こえてこない。IT組織やマネジメント方法の変革に成功した事例は、ごく少数であると言える。

今回は、PMBOKについて考えてみたい。

PMBOK(ProjectManagementBodyOfKnowledge)とは、PMI(プロジェクトマネジメント協会)が定めた、汎用のプロジェクトマネジメントの知識体系であり、国際的に価値が認められた大変素晴らしいものであると言える。私が多くのお客様と対話する中で分かってきたことは、PMBOKに対する理解が、誤っていることである。さらに間違った理解の後に間違った期待と行動を行っていることである。

あるお客様から、「PMBOKについていくら教育をしても定着しないのでどうしたらよいのでしょうか?」という相談をされた。このお客様だけではなく多くのIT企業が、PMBOKの導入に取り組み、プロマネ候補の社員に対してトレーニングをかなりの規模で実施した。いわゆる概念教育である。

しかし、概念教育を座学で行っただけで実務での成果を期待することの方が誤っている。プロジェクトマネジメントの実務は、概念教育を実施しただけで変革できるほど甘くないということだ。プロジェクトの変革を望むのであれば、変革に繋がるまでの視野でトレーニングも含めた変革の計画を実行に移すべきである。概念教育を否定しているわけではない。概念教育は、重要で新たな分野に取り組み場合には必須であるし、いきなりの実務訓練は、詳細に入り込み、「木を見て森を見ず」になりやすくなる。また、実務経験を積むと概念は後から分かってくるものだ。

私の手元にPMBOK2000がある。PMBOKは、1969年に米国でPMIが、設立以来PMIの活動の中で体系化してきたもので、集約された内容は、プロジェクトマネジメント全般に渡る知識を分かりやすくまとめたものである。84年にドラフト版、87年に初版が出て96年に大改定、現在のものは、2000年にEVMSの強調、PMOの追記、リスクマネジメントの分野が補強されて素晴らしいものになった。PMIの活動は、製造、エンジニアリング、建設、プラントなどに加えてIT分野も含めたあらゆる領域を含む。その活動の中で共通の知識を整理・統合したことがPMIの成果である。PMBOKでは、ほとんどのプロジェクトに共通する39のプロセスをスコープ、タイム、コスト、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達という特定の分野に特化した8つの知識エリアに加え、全体の統合をとるための統合マネジメントという計9つの知識エリアに分割、整理している。

私は、PMBOKを以下のように理解している。

PMBOKは、抽象的な汎用のプロジェクトマネジメント全般に渡る知識体系である。

  • PMBOKを特定分野に適用する場合は、カスタマイズが必要である。
  • PMBOKには、CMMIやITSSに見られるような規模の概念は無い。規模に応じて行動を変えなければならない。
  • PMBOKを勉強しても知識は整理されるが、そのままでは行動には落ちない。
  • PMBOKの体系は国際的に通用する基準であり、概念と用語の統一が可能になり複合的なプロジェクトで効果を発揮する。
  • ITプロジェクトへのPMBOK適用を考えると次のことを考えて適用する必要がある。
  • ITプロジェクト向けのカスタマイズと詳細化が、必須である。
  • ITプロジェクト特有分野が存在する。品質管理、構成管理、変更管理組織管理などについてIT特有の実行可能なプロセスを定義する必要がある。
  • ガイドラインと事例などにより利用者が理解できる内容を補足しなければならない。
  • 対象とするIT組織のカルチャーと成熟度により適用範囲をコントロールする。

一般的なITエンジニアがPMBOKの知識を得たとしても、プロジェクトマネジメント領域の知識と経験が少なすぎて行動に移せるだけの応用はできない。また、経営者や管理者は、プロジェクトマネジメントを必須事項と理解せず、短期間に経営数字や生産性の変化を期待する事も残念な事である。そんな簡単に体系的なマネジメントを理解して成果が出せる筈が無い。もしそれが可能だとしたら次々とプロジェクトマネジメントを競争力とする組織が現れて世の中が急速に変化するだろう。本当の競争力とは、なかなか実現できないことを苦労して自分のものにした組織のみが獲得できる。

この事実を経営者が理解して、強靭な態度で変革を実施する意思決定をしなければならない。過去の成功した企業は、例外なく他者よりも常に努力し続けた企業である。

変革を実現できる企業は、次のような行動を実施している。

  • 社員が納得し経験の輪を広げるために能力測定を行いショックを与える。(自らの実力を知るということ)
  • トップ自らが勉強し変革目標を掲げる。(トップがお手本を示すことが大切だ)
  • 小グループでの成功体験をさせる。(小さな成功を創り大きな成果へ繋げる)
  • 足元の効果を期待せず2年後の成功に向けて我慢する。

読者の皆さん、プロジェクトマネジメント変革を、是非一緒に成功させましょう。

第5回につづく

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Profileプロフィール

林衛
林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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