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プロマネ・スーパーコラム 第8回 ~日本のITエンジニアのかたち その3~

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前回は、コンピテンシー強化についてかなり詳しく解説した。組織を構成する人々の意識を変革することは、何よりも重要である。前回のコラムでは、打つべき手として以下の5点を示した。これらの5点は、当社がスキル診断、組織診断を実施した30社のデータと何社かへのコンサルティングを提供した結果から日本のIT組織に共通の課題として纏めている。

  1. コンピテンシーを鍛え上げること
  2. ビジネス能力強化(営業力、企画力、マーケティングなど)
  3. IT戦略強化(情報戦略策定、ビジネスモデリングなど)
  4. IT人材戦略強化(人材モデル、教育体系)
  5. プロジェクトマネジメント強化(計画、コントロール、評価、リスク管理、品質マネジメントなど)

ビジネス能力強化(営業力、企画力、マーケティングなど)

日本のIT産業は歴史的に営業活動をしなくても恒常的に人材不足であったためにこれといった営業やマーケティング活動を行わなくても仕事を確保することができた。このために、他の産業に比べて営業系のスキルは、低いし、努力もされていない。

特に今後必要なIT組織の能力は、次のようなものである。

  • 顧客の真のニーズを理解し提案を生み出すこと
  • 顧客の意見を取りまとめ調整し意思決定を促すようにすること
  • 提案を伝える能力(プレゼンテーション力)

これからの時代は、顧客が正しく欲しい物を判断できないので、営業は、創造力、企画力、そして実績を積んで顧客の信用を勝ち取ることが、必要である。また、複数案から最も有効な案を選択し顧客へ提示できなければならない。

夢、ビジョン、目標を顧客と共有し前向きに議論できる力が、事業を左右する。IT企業の営業は、いわゆる営業職と経営者、上級の管理者が担うが、顧客企業を動かすような教養、ビジョン、信頼、実績を示すことができる人材は、殆ど見かけない。根本的に営業というものを見直さなければならない。

IT戦略強化(情報戦略策定、ビジネスモデリングなど)

私は、IT事業が成功するためには、2つの条件が必須であると考えている。一つは、顧客に対してそもそも何を提供する会社であるかを伝えているかどうかである。多くのIT企業は、何でも提供します式の売り込みが多く特徴(何が得意分野か)が、見えない。

もう一つは、IT事業運営により「何を(What)どの顧客(Who)にどのように(How)提供するかが不明である。4半期レベルでの行動計画は無いだろう。週次、日々営業ミーティングを実施している企業が多いだろうが、手数・訪問の管理は実施されているが、提案の質という点が、欠けている。いくら訪問しても顧客をなかなか動かすことができない。もっと経験者や新たな発想ができる人材を提案段階に投入して質の変革を図ることである。

信用と実績がついた後には、顧客との計画策定、企画段階に参加しお互いの事業を創造できるようになれば、さらに事業は、強固なものになるだろう。

IT人材戦略強化(人材モデル、教育体系)

IT企業の戦略も不明確であるが、もっと不明確なのが、人材に関する方針と戦略である。多くのIT組織で重要なのは、戦略上重要な仕事を定義して、組織として必要な能力、スキルをどのように獲得・醸成するかを決めることである。

最近プロマネ強化を方針にしている企業が多いが、人材戦略と事業戦略と現状のスキルの同期が取れていないケースを良く見かける。実際に戦略に則り仕事を行うのは組織を構成している人なのだから、ギャップが大きければ戦略は絵に描いたもちになる。こういう戦略のことを、私は、“希望的”戦略と呼んでいる。

また、人事モデル(ここでは、職務職能定義とキャリアパス)についても現実に機能しにくい場合が多い。今後は経済産業省の推奨するITSS(ITSkillStandards)などを参照モデルとして各社各様の人事制度が再度整備されていくことになるだろう。私は、本年ITSS協会の理事をお引き受けすることになりスキルに関するアセスメント手法を担当することになった。スキルのモデルが有効に適用するためのガイドラインを開発することになっている。人事モデルに関して言えば、これまでに何社かのモデル作成のお手伝いしてきたが、どの会社も詳細度の高いモデルを資格や待遇と連動して一気に開発しようとする傾向がある。これらは、うまくいかないだろう。

失敗のポイントは、いくつかある。

  • 全ての役割を満たす詳細度の高い緻密なスキル定義を行い複雑で運用ができない仕組みができる
  • 自社の実施している業務と今後実施予定の業務から役割定義を行わずITSSなど側からの視点で自社へのカスタマイズをしようとし、実際の仕事の実態、社員能力の実態と合わないモデルになる。
  • 実施する仕事そのものに焦点をあてずスキルを待遇と連動しようとするために仕事の成果とスキル評価とが、結びつかず機能しなくなる。この結果、儲かっていないのに評価の上がる社員が出てきてしまう。

これらは、私が、真剣に顧客の方針や要求を聞いた結果であり、最初から失敗する人事方針となっているケースが少なくない。

プロジェクトマネジメント強化(計画、コントロール、評価、リスク管理、品質マネジメントなど)

プロジェクトマネジメントが重要であることは自明であるが、現在の日本のIT業界のレベルは、かなり低い。当社の30社のベンチマークによるとプロジェクトの計画、評価が弱く、満足できるスキルを保有している企業は、皆無である。

次号以降は、プロジェクトについていくつかのテーマを書いていく予定であるが、私の感じている大きな問題を何点か示しておこう。

経営者と上級管理者が、プロジェクトとプロジェクトマネジメントに対する認識が甘いため、能力アップを棚卸し、部下任せにしている。

  • プロジェクトマネジメント手法の基礎力不足は、明確である。
  • 実務能力向上の視点でPM強化が行われていないために現場での効果が出てこない。
  • プロジェクトマネジメント能力向上は、プロジェクト活動を通して獲得するもの(80%までの能力)で、座学で得られる部分は、20%であることが分かっていない。
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Profileプロフィール

林衛
林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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