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【第3回】 どうやってスキルを身に付けさせるのか。

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前回、“どうしたら誰にどのような育成を行うべきか分かるのか。を考えてみました。
さて、次は“どうやって(そのために必要な)スキルを身に付けさせるのか。”を考えてみます。

この連載の第一回目に “勉強だけでは本当のスキルは身に付かない。”と良く言われる一方で“仕事をやり続ければスキルが獲得できるのかと言えばそうとも言い切れない”とも書きました。
きちんとスキルを身に付けさせるためには、もう少しこのことを掘り下げてみる必要がありそうです。

ではなぜ、勉強がスキル獲得につながらないことが多いのでしょうか。
自分の経験を振り返ってみると、仕事を経験する前に仕事に関係する知識の勉強などをしていると、ある程度までは興味が維持できるのですが、やがてそれも続かなくなってしまいます。
実際に手を動かしてみて「自分が何をやらなければいけないのか」「何がうまく出来ないのか」などを体験せずに知識だけを蓄積することには、どうやら限界があるようです。

仕事の中でどうしても避けられない問題に直面したり、うまく成果に結びつけられないもどかしさを感じたりしたら、それを何とかしたいというモチベーションが上がるのは当然です。そんな時に状況を打開してくれる「気付き」を与えてくれる勉強は大変ありがたいと感じます。
また、仕事を延々と続けていても、本人が気付いていない問題が発生していることがあります。
「本来なら、もっと良いやり方があるのに気付かない。」「そもそも仕事の目的から考えると間違った方向に進んでいるのに気付かない。」なんていうことは良くあることです。そんな状態で仕事を続けても、その人間の成長は止まったままになってしまいます。
その時、本人が気付いていない問題に気付かせてくれる勉強も得るものが大きいわけです。

では、勉強は仕事を経験した後にするものなのでしょうか。
私はかつて、始めて経験する仕事をいきなり実践して、迷路を手探りするような状態で仕事を続けた挙句に、きちんと仕事をするなら「こう考えろ」「こう行動しろ」と言う助言?を後からもらった事があります。 その時は、助言にありがたみを感じるよりは、「そんなことなら最初からそれを教えておいてくれれば良いのに」と思ってしまったものです。
仕事をする上で知っておくべき最低限の知識やノウハウなどを予め教えることもまた必要なことです。 ただしその時に、経験したものでなければピンと来ないようなことを延々と教育されても「興味が持てない」状態におちいってしまうのです。
要は、教える内容とタイミングが重要ということですね。
多分皆さんは今、“言うのは簡単だよ。”と感じられたと思います。
では、タイミングの話しは少し後回しにして、教育の内容をもう少し具体的に考えて見ます。

教育の内容を考えてみる

実際に自分が部下や後輩に与えられる教育を考えた時にどのようなものがあるでしょうか。
一般的な技術者向け研修として世の中で提供されるものは、製品やテクノロジー、技法の解説などがかなりの部分を占めます。
一方で、もっと大きな視点で概念や理論を教える教育もあります。しかし、この手の教育はよほど動機付けが強くないとやはり興味が続きませんし、少し時間がたつと何を教わったか忘れてしまいます。
もちろんそれらは大切な勉強です。でも、実際の仕事の進め方、やり方を実務に沿って具体的に教えてくれる研修はあまり有りません。
実務を効果的に教えてくれる研修が少ないということは、教わる側が実務にどうやって役立てるか、目的意識を持って研修を受講しなければ得るものが少ないと言うことになります。これは、若手の技術者にはちょっと難しい要求です。
では、どうやって実務を効果的に教えれば良いのでしょうか。
“ちょうど良い教育が無ければ作るしかない。”これが私の結論です。(今、皆さんはがっかりされたでしょうか。)
別に、何もかも作らなければならないと言うわけではありません。しかし、自分たちの仕事のやり方を効果的に教える教育は、一般的に提供されている教育の中ではあまり見つからないことも事実なのです。

それでは、我々はどのような「教育」を作る必要があるのでしょうか。
まず、教育を作るときに一番大事なのは「教材」です。ですが、皆さんは多分、教育開発のプロではありませんから「教材」を作れと言われてもどうして良いか分からないと思います。
ここで重要なのは、いわゆる研修の「教材」を作るのではなく、「自分たちの仕事の内容をきちんと説明する文書」を作るということです。(少し安心しましたか。)

実はこの「自分たちの仕事の内容をきちんと説明する文書」を持っている組織は意外と少ないのです。
“私の組織では、既にそのような文書を持っている。”と思われる方もいらっしゃると思いますが、一度振り返ってみましょう。
我々はこの「仕事の内容をきちんと説明する文書」の形を「方法論」と呼びます。時には「標準」と呼ばれることもあります。呼び名は多少違いますが中身は同じだと考えてください。

方法論の形

よくありがちな「方法論」の形はこうです。
始めに、仕事の「プロセス」が書かれています。プロセスが更に細分化されて「タスク」のレベルまで書かれている場合もあります。
その次に、プロセスあるいはタスクの中でどのような成果物を作成するのか書かれています。具体的に成果物のテンプレートまで提供されている場合もあります。
実は、ここまでで終わってしまう「方法論(標準)」がかなり多いのです。時には、成果物のテンプレートだけが提示されている場合もありました。
私は、方法論は、上記の2つに加えて成果物(あるいは効果)を生み出すための「ノウハウ」が必要だと考えています。「ノウハウ」とは少し抽象的な表現ですが、概ね以下のようなものが含まれます

  • テクニック
    技術者にとっては一番興味のあるところです。技術的なテクニックだけでなく管理的なものや「勘どころ」と呼ばれるようなものも含めることができます。
  • ルール/規約
    ルールや規約はそれ自体が目的ではなく、過去の経験などから「やってはいけないこと」「やった方が良いこと」を示したものです。
    あまりルールや規約が多いと堅苦しく感じるものですが、その背景には、先輩としての助言が含まれています。
    ルールや規約の文面だけ見るとその思いが伝わりづらいところに工夫の余地があるようです。
  • ガイドライン
    指針や目標、指導方針という意味ですが。テクニックやルールなどよりも少し大きな目で、仕事の中での判断基準や進め方などを説明したりします。概念や理論から説明して、指針や指標の根拠に説得力を持たせる場合もあります。
  • 事例集
    ノウハウの話をすると、多くの人は事例集に強い興味を示します。つまり「手っ取り早くどうやるのか知りたい」時には、事例集が一番なわけです。
    概念や理論の話をしている時に“事例を教えてください”と言われると少し寂しい気もするのですが、逆の立場だと、私もやっぱり言ってしまいます。(概して日本人は事例好きなようです)

その他にもう一つ大事なのは、「仕事の目的」です。そもそも目的を達成できなければ、いくらプロセスを遂行しても意味がなくなってしまいます。しかし、仕事に慣れてしまった人間は、目的を省略してしまうことが多いようです。
私は、目的がきちんと伝わっていないために社員がテクニックに没頭してしまった事例を多く見てきました。
特に技術職にはありがちな傾向なのですが、そもそも、教える側がテクニックに没頭してしまっていることも多かったように思います。

私の考える方法論を図にするとこんな感じになります。

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もちろんこの形にこだわる必要は無いのですが、仕事のやり方を具体的に知ってもらうためには、それなりの説明が必要であるということです。

さて、第3回目はここまでです。
「どうやってスキルを身に付けさせるのか。」というテーマは、もう少し振り返らないといけないことがあります。
次回は更に踏み込んで、スキルを身に付けるために必要なことを考えて見ます。

(つづく)

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