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【第7回】 ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの育成事例。

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さて今回は、いよいよヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの実践的な育成についてお話します。
“実践的”というところが肝心ですので、私が今までに経験した事例を中心に解説したいと思います。

ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの習得

前回、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは育成が難しいスキルというお話はしましたが、とりあえず、世の中には様々な啓発本や教育研修などが存在します。(例えば、リーダーシップに関する研修や書籍などは良く見かけますよね)

実は私も過去に幾つか、リーダーシップ研修を受講したことがあります。
その時のことを思い出してみると、講義を受けた後の数週間(数日?)は、講義で教えられたリーダーシップの原則や理論に強い感銘を受けて、周りの人間に接する態度や発言が変わるのですが、やがて時間が経つといつの間にか受講前の状態に戻ってしまいます。
だからといって、原則や理論が間違っていたと感じているわけでもありません。“今まで気がついていなかったことを知ることができた。”という思いは変わっていません。
誤解が無いように申し上げておくと、私は、そのような研修や書籍が無駄なものだと言うつもりはありません。
それらは、日ごろの仕事ではなかなか気付くことができない本質を深く洞察し、分かりやすく解説していて得るものが非常に多いと思います。

では、せっかく得たものがどうして長続きできないのでしょう。
どうやら、理屈の上では正しいと分かっていても、それだけで自分の態度や行動を大きく変えることは難しいようです。自分が長く築いてきた生活(仕事)習慣は、自分の気質や性格に影響(支配)されています。そんな習慣を理屈だけでは、なかなか変えることができないわけです。
また、周囲の人から理解(評価)が得られない場合も行動を続けることが難しいようです。
実は私も、周りが少し(かなり?)引いている状態だと何となく感づいていました。
後から周りに聞いてみると、“研修から帰ってきて暫くの間、いつもの横尾さんと様子が違うので違和感がありました。”とか言われる始末です。これにはかなりガッカリです。
とまあそんなわけで“世間一般にありがちな研修や自己啓発本では、人の態度や行動を根本的に変えるのは難しいな。”などと漠然と思ってしまうようになりました。

そんな時にある案件で、どうやらヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルが、はっきりと目に見える形で向上できたのではないか、しかも、どうやらそれは、一時的な状態ではなくその人のスキルとして定着しているのではないか、と思えるような効果が確認できたものがありました。
とりあえず理屈は後にして、その時の事例をご紹介しましょう。

プロジェクトマネージャを育成するプログラム

ここで紹介する事例は、ITのプロジェクトマネージャを育成するプログラムとして実施した事例です。実は、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルのみを育成する目的で実施したものではありませんでした。
この連載の読者はお分かりだと思いますが、IT組織でもプロジェクトマネージャという職種は結構な上級職であり、一朝一夕には成ることができないものです。
ある程度経験を積んだエンジニアが、マネージメント面でもそれなりの実力が備わったと認められてから担当できる職種といえます。
しかもこの案件では、やや上級のプロジェクトマネージャを育成するための活動として企画されたものでした。
依頼を受けた当社は、ITのプロジェクトを数多く支援してきた実績を基に、4ヶ月の期間で候補者を実践的に教育するプログラムを企画し、実施しました。
プログラムは大きく次の2つの内容で構成しています。

  1. ワークショップを積極的に盛り込んだ実践的なトレーニング研修
    プロジェクトマネージャ(候補者)向けの研修は多くあるのですが、座学で概念や理論を学習する研修だけでは、中々スキルが定着しません。せっかくですから、より実践的な「ノウハウ」や「勘どころ」を会得してもらえるように、演習の時間を多く取り、チームに分かれてディスカッションやプレゼンテーションを繰り返しながら、体験的にプロジェクトマネージャとしての行動を実践できるプログラムとしました。
    2日間のコースを5種類用意し、全10日間のトレーニングを約2ヶ月の期間中に、仕事の合間をぬって参加してもらいました。
    ちなみに、マネージメント対象となるITのエンジニアリング・プロセスの教育も若干組み込んでいます。
  2. 大規模プロジェクトの計画立案OJT
    大規模プロジェクトで、プロジェクト計画書を作成するというOJTプログラムです。
    本物の大規模ITプロジェクトの現場にうかがい、先に実施したトレーニングで獲得したノウハウを駆使し、インタビューなどを行いながら計画書を作成します。
    あくまでも仮想の計画書ではありますが、本気で計画を実施するつもりで作成します。
    最後にその計画書を、自分の上司や審査員の前で発表してもらうまでが一連のプログラムとなっています。

さらにこのプログラムでは、プログラムの有効性を評価するために、実施前後でスキル診断を行い、どのような変化が現れるかを測定しました。
前回紹介したスキル診断サービスを使い、360度評価も行って、受講者の周りの人たちの目から見た変化も測定しています。

ちなみに、受講者は8名で平均年齢は34.6歳です。前回の記事にも書きましたが、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルが向上しやすい年齢は30代中盤までですから、私としては、どちらかといえばテクニカル・スキルの向上の方を期待するプログラムと考えていました。
それでは、診断の結果を見ながらどのようなことが起こったか解説しましょう。

Yokoo_chart100119

このチャートは主にテクニカル・スキルを対象に、自分がどの程度の水準で経験を獲得しているか、自己評価結果(8人の平均点)をレーダーチャートにしたものです。診断では、プロジェクトマネージメント以外のスキル項目も網羅的に評価しています。
ちなみに、プロジェクトマネージメントに関係する項目の中でも、特に中心となる3つの項目はアンダーラインを引いています。
評価点数の0点が未経験、1点が指導を受けながら実施した経験がある、2点が独力で遂行した経験がある、3点が後輩を指導した経験がある、4点が社内外でリーダーとして活躍した経験がある。です。

青い線が実施前の自己評価で赤い線が実施後の自己評価ですが、なんと!かなりの項目がプログラムを実施した後の評価点が下がっているという結果になってしまいました。(向上した項目も若干見受けられますが)
特に「情報システム計画策定」が大きく下がっているのが目に付きます。この項目はいわゆる「プロジェクト計画」に相当する評価項目です。
これはさっそく、育成プログラム失敗という事でしょうか?
そもそも、過去に獲得した経験が低くなってしまう、などということが起こるものなのでしょうか?

実は、このプログラムでは、ベテランのコンサルタントが自らの長い経験の中で獲得した様々な気付きやノウハウを教えているのですが、そのノウハウに接し実践してみた受講生は、自分たちが今まできちんとやっていたと思っていたことが、実は大事なことが幾つも欠けていたと気付いたのです。(これは、受講者のアンケート結果からも確認できています)
そのため、診断設問に解答する時の考え方や評価基準がやや厳格になり、本来なら下がるはずの無い経験値が下がってしまう、という結果になって現れたわけです。
それはそれで大いに結構です。結果は意外でしたが、どうやら失敗というわけではなさそうです。
冒頭からやや波乱含みの結果となりましたが、さて、本来の望ましいやり方に触れて考え方が変化したことで、他に何が変わったでしょうか。

と思ったら7回目の記事はここまでとなってしまいました。
もちろんこの後で、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルについても詳しくご紹介していきますが、プログラムの全体像をご理解いただくために、もう少々お付き合いください。

それでは、また次回。

(つづく)

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