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【第2回】PM+BAでどのような価値を創造できるのか?

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“創造”は「新しいものを初めてつくり出すこと。(大辞泉)」、英語だと“creation”。「お客様の要求を、開発標準に従いシステムを構築することがITのプロジェクトなのだから、“創造”というよりは“構築(building)”に近い」と思われている方もいらっしゃるかとは思います。例えば業務改革・改善を伴わない、IT基盤であるハードウェアの更改のみを目的としたプロジェクトに従事したとすると、現場の方は“構築(building)”と感じられるかもしれません。しかし企業が何らかの投資をする場合、その投資が企業活動によって何らかの付加価値を全く生まないとしたら、無駄金と言わざるを得ません。しかし現実的には、付加価値を生まない(?)ITのプロジェクトを見かけます。

 なぜでしょうか?

 PMとして仮に完璧にプロジェクトをマネジメントとし、ITプロジェクトを成功させたとします。しかしそのプロジェクトの目的が、企業活動にとって何ら価値を見出さないものだったとしたら、プロジェクト活動によってIT人財が成長したという価値はあるものの、企業から見るとその成功は、IT部門の自己満足としか捉えられません。つまりプロジェクトの目的には真の価値がある必要がある、ここでBAが重要になります。

BAの重要なミッションの1つに、プロジェクトを実施するか否かを構想・企画する段階において、その企画を実施することの意義である魂(=Why)を価値あるものとして定義することがあります。

 例えば次のようなことです。

 あなたはユーザ企業の情報システム部門に所属しています。あるとき経営者から「企業の意思決定スピードを限りなく早くすることによりビジネスの機会損失を低減するような仕組みを検討して欲しい」と、指示を受けたとします。早速あなたは数名の社員とチームを組み、情報システム部門としての解決方法を検討することにしました。
 『意思決定スピードを限りなく早くする』ために、『ワークフローを導入し、電子的に処理を行なうことで処理を早く行なう。さらに滞留している承認を見える化し、滞留している人に催促メールを送信する機能を付ける』と方針を決め、早速ワークフローツールの選定を始めました。またワークフローを導入するために現行業務の洗い出しを行い、紙で行っている現行業務を如何にワークフローに乗せるのか、その具体的な方法を検討し始めました。検討期間は2ヶ月、システム企画書としてまとめ、経営者の決裁を仰ぎました。しかし結果はNG。

 なぜ経営者はNGと判断をしたのでしょうか?

 NGとなった最大の理由は、「企業の意思決定スピードを限りなく早くすることによりビジネスの機会損失を低減するような仕組み」という経営者からの指示が、いつの間にか「ワークフローを導入すること」が目的になってしまっていたためです。数名でチームを組成したところまでは良かったのですが、いきなりワークフローツールの選定に入った最初の段階で、この企画は頓挫する運命にありました。

 もしこのときチームにBAが入っていたら? もしくはBA的な発想をする人がいたら?

最初にやっていたことは、経営者からの指示の真意を汲み取る作業です。そのためには、経営者や現場などのステークホルダーに「意思決定スピードを阻害している要因」をヒアリングし、それを解決に導くための要求を整理し、その中から最も効果的な要求に絞り込むことです。BABOKⓇの知識エリアには、ステークホルダー(今回のケースは経営者)から要求を引き出すことを「引き出し」と定義しており、次のようなテクニックを挙げています。

  • ブレーンストーミング
  • 文書分析
  • フォーカスグループ
  • インターフェース分析
  • インタビュー
  • 観察
  • プロトタイピング
  • 要求ワークショップ
  • 調査とアンケート

 ここではこのテクニックの内容については触れませんが、「引き出し」を実行する際に重要なことは、「自分は情報システム部門の人間だから、ITを使って・・・」という発想をまずは捨てることです。この発想があると、ステークホルダーに対する質問もIT寄りの内容になってしまいます。このようなバランスを欠いたヒアリングを何度繰り返してもIT化、つまりワークフローを導入することを目的で検討しているため、結論も「ワークフローを導入」になってしまいます。しかしIT化の発想を捨てバランスよくヒアリングできていたならば、「IT化よりも、まずは組織の階層をフラット化することで、意思決定を迅速に行なうことが経営者の指示を実現するために最も効果的」という結論に至ったかもしれません。

 このケースはグループウェアが流行り始めたころに、私が実際に取り組んだ企画でした。最初は「ワークフローを導入したい」との思いで企画書作成のための検討に取り掛かりました。しかし実際に現場に出かけて行き様々な立場の方にヒアリングをしたり、またある時は半日以上じっと座り現場の方々の仕事の様子を見たりしているうちに、仕事のやり方を伴わないワークフローの導入は、現場の混乱を単に来たすだけであるということに気がつきました。
現場に頻繁に出入りしているうちに、また現場の方々と仲良くなるうちに、自分が情報システム部門の人間であることの意識が希薄になり「迅速な意思決定をするためには」というテーマに集中できていたのかもしれません。この時の最終結論は、「ワークフローの導入は見送り」でした。

今回のテーマは「PM+BAでどのような価値を創造できるのか?」でした。創造できる価値は、業界や業務、また国や地域、はたまた年齢や性別などによって異なるかもしれません。しかし現場に出かけ、何らかの企業戦略もしくは経営課題を解決するための要求を「引き出し」する際、あなたが所属する部署を超えて、かつ現場の現状に捕らわれずゼロベースで解決のための要求を追い求める、そんな思考や行動をすることが『価値の創造』につながると思っています。

では価値を創造するためには、現場に出かけるだけで良いのでしょうか?現場からは、現場の仕事をより良くするための改善事項は見えてきます。しかし現場ありきの発想が基点になるため、ブレイクスルーを伴うような改革案はなかなか発想できません。BAが真の価値を創造し定義するためには、経営戦略を実現した時の将来像(To Be)を描くことが重要になります。

次回は「将来像(To Be)を描くことの意味」をテーマにお伝えします。

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竹内博樹
1991年 筑波大学卒業後、三和銀行のシステム子会社である三和システム開発株式会社(現、三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社)入社。同社にて銀行業務のリテール、法人、国際の各分野において、大規模プロジェクトにおける企画・設計・開発に、主にプロジェクトマネジメントを実行するマネージャとして携わる。また開発後の保守にも従事するなど、幅広い業務でマネージャとして活躍。2004年より当社にて、大規模プロジェクトにおけるPMOの運営およびプロジェクトマネジメント支援や、IT部門の組織改革等、幅広くコンサルティングを手がける。 保有資格:情報処理 プロジェクトマネージャ、PMPほか。PMI会員、PM学会会員。

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