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【第11回】段取りの一:プロジェクトの目的を明確化する

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前回、段取りをしっかり立てておくことの重要性と、プロジェクトの計画をいつ、どのような単位で作るべきかについて説明しました。11回目となる今回からは、その計画の「中身」の作り方について詳しく見ていきたいと思います。

計画を立てるということ-面倒クサイのは、それが、とても、重要だから

プロジェクトの計画を立てるということ、それは実際には「プロジェクト計画書」という書類を作り、関係者の合意を得ることを指しています。
プロジェクト計画書とは、そのプロジェクトで取り組む範囲(スコープ)や作業スケジュール、体制、想定されるコストなど、主にプロジェクトの推進にあたって予定している事柄を記した書類のことで、プロジェクトメンバーはこの計画書に沿って作業を進めることになります。

大規模なプロジェクトではこの計画書が数百ページになることもありますが、小さなプロジェクトでは大体30ページくらいの書類をイメージしてください。それだけ書くのも結構時間がかかり大変な仕事ではあるのですが、計画をしっかりと練り込み、その内容を明文化しておかなければ、関係者とプロジェクトの進め方を正確に共有することができません。
プロジェクトの実際の作業に早く取り掛かりたい気持ちも分かるのですが、ここで計画書を丁寧に作っておくことで後の作業のスムーズさは断然違ってくるのです。特に、これまであまり一緒に仕事をしたことのないメンバー、つまり「あ・うんの呼吸」が通じない相手と共にプロジェクトを実施する場合、「アイマイでエーカゲンな計画書」が、往々にして無駄な作業や致命的なミスの原因となってしまうのです。ここはグッとこらえて「急がば回れ」を心掛けましょう。

また、プロジェクト計画書を作る際には重要なポイントがもう一つあります。それは、計画書をプロジェクトマネジャー一人ではなく、プロジェクトの主要メンバーに予定している関係者達をしっかり巻き込んで作り上げることです。プロジェクトの進め方を相談したり、一緒にアイデアを検討したりすることによって、計画の精度が上がるだけではなく、メンバーの参画意識を高めることができるのです。「プロジェクトマネジャーから与えられた計画」ではなく「共に知恵を出し合って作った計画」として、より主体的にプロジェクト推進に協力して貰える関係をここで築いておくべきなのです。

尚、プロジェクト計画書の書き方にもいくつかの流派みたいなものがあったりします。それによって計画書に含まれる項目やその呼び方、構成などが微妙に変わってきますが、この連載の中で特にどれかの流派に従ったり意識したりすることはやめます。この連載全般に言えることですが、どのような流派においても大概含まれ、また私自身のコンサルティング経験からプロジェクトを成功させるために重要と考える計画書の内容について、汎用性と分かりやすさを重視して説明をしていきたいと思います。

プロジェクトの目的を明確化する

プロジェクト計画書で最初に記載すべき内容は、そのプロジェクトの「目的」です。
プロジェクトを実施するからには、なぜそのプロジェクトをやるべきなのかという「ハッキリした目的」がなければなりません。しかし、その目的が不明確なプロジェクトがなんと多いことでしょう!
プロジェクトの目的は、そのプロジェクトの根本になるものです。目的があって初めて「プロジェクトで何をするのか」、「プロジェクトをどうやって進めるのか」をしっかり決められるのであって、根本がグラグラした状態でプロジェクトを行うと次のような重大な問題が起こってしまいます。

・ プロジェクトにおいて何を優先すべきで何を切り捨てるべきか、適切な判断ができない
・ プロジェクト終了時、目指すゴールが達成できたのか(つまりプロジェクトが成功したのかどうか)を評価できない
・ プロジェクトの関係者の意思統一ができず、メンバーのモチベーション(やる気)低下を招く

目的とは、プロジェクトによって「何を手に入れたいのか」、「何が嬉しいのか」を明らかにするものです。これによって、プロジェクトの母体となる組織(企業など)のベネフィット(便益)と、プロジェクトの活動を結びつけることができ、プロジェクトを行うことの必要性が説明可能になるのです。しかし、計画書に「目的」の項目自体はあっても、その内容が適切ではないケースが非常に多いのです。以下に、不適切な目的設定のパターンを3つ挙げましょう。

(1) 目的と手段を混同している

「AとBの情報システムを1つに統合する」という目的を掲げるプロジェクトを見かけることがあります。しかし、これだけでは「何を手に入れたいのか」、「何が嬉しいのか」がピンときません。システムを統合することは手段(プロジェクトで何をやるのか)であって、目的(何のためにやるのか)ではありません。情報システムの統合がゆるぎない方針として決まっているのであれば、そのことを目的の文章を含めることは否定しませんが、必ずそれによって得ようとしているものを明確化しなければなりません(例えば、「AとBの情報システムを1つに統合し、業務コストの削減と顧客サービスの向上を実現する」など)。

(2)なぜそのような目的を設定したのか、理由が説明できていない
「目的」はプロジェクトの根本を成すものですから、当然プロジェクトマネジャーは「目的自体が適切であること」が関係者に説明できるようになっていなければなりません。設定した目的について問われて「いや、だって部長がこれをやれって言うからやっているのさ~」と開き直りたい場合もあるかも知れませんが、それではプロジェクトマネジャー自身も、プロジェクトメンバー達もやる気が出ません。
設定した目的が適切であることを説明するには、プロジェクトが立ち上がった「背景」を捉えておくが必要になります。つまりプロジェクトの母体となる組織が置かれている状況やその組織が向かおうとしている方向性、そしてそのために今課題となっていることなどを、プロジェクトの目的と関連付けて理解しておくということが必要なのです。
いっそ、プロジェクト計画書にもその「背景」を整理して書いておきましょう。それによっていつでも明確に説明することができますし、プロジェクトメンバー達の目的意識も一段と深いレベルで共有できるはずです。

(3) 具体性に欠けており、達成を判断できない
プロジェクトが成功したかどうかを評価できるよう、目的は具体的であるべきです。数値目標(例えば、1年間で業務コストを30%削減するなど)はプロジェクト計画書の別の項目で設定することになりますので、目的の項目ではそこまで詳細化しなくても構いませんが、プロジェクトのゴールとして「どのような状態を実現するのか」が分かるようになっていなければなりません。
ただし、多くの場合プロジェクトのゴールを明確化するためには、複数の状態を定義しなければならず、それらを目的として一連の文章にすると逆に分かりづらくなってしまいます。オススメとしては「目的」を簡潔かつストレートな表現で書いた後、「目標」としてゴールの状態を箇条書きで定義していくことです。

「目的」・・・プロジェクトによって「手に入れるもの」や「嬉しいこと」の、「方向」
「目標」・・・その方向性に向かってどこまで走ればゴールなのかをあらわす、「状態」

と考えていただければ分かりやすいかと思います。

例えばこんな感じです

1.プロジェクトの目的
1.1.背景
近年、国内の少子高齢化によって○○の市場は年々縮小しており、今後もその傾向が続くものと予想されている。そのような状況の中、当社が属する○○業界では生き残りをかけた競争が苛烈になってきており、高品質なサービスによって業界最大手の地位を獲得してきた当社のシェアが低価格を武器とする新興企業に脅かされる事態となっている。
当社では、これまでのブランドイメージを守るためにサービスのさらなる向上を図りつつも、コスト削減による価格競争力を確保することが最優先の経営課題となっており、特に昨年の○○社との経営統合によって非効率やサービスの低下の原因となっている業務および情報システムの改革を進めることが急務となっている。
こプロジェクトは、その改革の一環として顧客管理業務とそのシステムの見直しを行うために実施するものである。

1.2.目的
AとBの情報システムを1つに統合し、業務コストの削減と顧客サービスの向上を実現する。
1.3.達成目標
・ 顧客管理業務のオペレーションコストを大幅に削減する。
・ 顧客管理システムの運用・メンテナンスに必要なIT部門のコストを削減する。
・ お客様の満足度低下に繋がる誤発送の発生頻度を低減する。
・ お客様からの問い合わせに対する回答リードタイムを短縮する。
・ セキュリティの向上によりお客様の個人情報の漏洩を防止する。

いかがでしょう。上の例のような構成で書かなければならない、という訳ではありませんが、計画を立てる際にはこのような視点をしっかりと意識してみてください。

次回も引き続きプロジェクト計画書の作り方について考えていきます。どうそお楽しみに!

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弘中 伸典
1994年、徳山工業高等専門学校情報電子工学科を卒業。 SIベンダーに入社後、数々のシステム開発の現場で活躍。そこで得た多くの経験に感謝しつつも、IT業界における構造的問題に一石を投じるべく株式会社アイ・ティ・イノベーションに参画。問題の原因は、プロジェクトマネジメントの欠如にあると考え、日々のコンサルティング業務を通じてその必要性を訴え続ける。 専門領域は、プロジェクトマネジメントおよびシステム開発プロセスの標準化、PMOの設置と運営、IT投資マネジメントなど。 責任と誠意を持って問題解決に取り組む姿勢を大切にしている。 PMP(Project Management Professional)資格 保有

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