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ITアーキテクチャと美しさ

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今回は、最近「アーキテクチャは機能を満たすだけでなく美しくなければいけない」、「アーキテクトの持つべきスキルはアート&サイエンスである」などと言われる中での、アーティスティックな部分のお話をしたい。少し前までは、情報システムの世界で“ART(アート)”などと言うと、少し気恥ずかしい感じがするとともに、ビジネスシステムにはアート感覚は不要だと思われてきた。しかし、ITアーキテクチャを論じるにあたって美しさは必要である。

このシリーズでは何度かお話ししているように、近年のシステムは1980年代初期の頃の単機能でシンプルなものとは比べ物にならないくらい巨大で複雑になっている。様々な要素が組み合わさって機能する複合体である以上、その組み合せた姿にはある一定のまとまりを有した“理路整然さ”が求められる。ただ、エンタープライズ・システムは目に見えないソフトウエアなので美しさの定義はあいまいである。ポイントはあくまで全体の形がどうかであり、個々の部品のロジックが正しいがどうかといった左脳的な積み重ねではなく、右脳的な直感によるところが大きい。なんとなくしっくりこないとか、何となくかっこ悪いとか、ことばで言い表しにくいバランスを欠いたものに対する嫌悪感がアート的なバランス感覚である。

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では目に見えないものを、どうやれば「イケてるか?」と評価できるのか。本シリーズの読書はもうお分かりと思うが、エンタープライズ・システムを可視化する手法は、今のところ多面的な切り口で描画したそれぞれの”モデル図“以外にはなく、そこに描かれたモデルが美しいかどうかということになる。データモデル、業務プロセスモデル、UMLにおけるクラス図、ユースケースモデルなどがこれに相当するが、注意したいことは、全体感が描かれているかどうかである。話はそれるが、最近ITを専門とする法律家の先生と話す機会があり、先生曰く「30年法律を専門としてきたが、最近やっと“正確さ”と“分かり易さ”の違いを意識して教えるようになった」とおっしゃっていた。つまり細部の正確性にこだわるあまり、全体の輪郭が不鮮明になってはダメということである。

話を戻して、モデルの“美しさ”の定義はどのようなものになるだろうか。これを定めたものはないが、いくつかのヒントを挙げることができる。1つは、シンメトリー(左右対称)の観点である。(アシンメトリー(左右非対称)な美しさは意図的に狙う場合のみ可)。例えば概念データモデル図において、購買と販売の業務を表そうとする際に裏返しと仮定すれば、片方に不足しているエンティティが見えてきたりする。もう1つの観点に、柔軟性の美しさがある。これはソフトウエア特有のものであるが、モデルが適度に汎化されており、今後のビジネス上の変化要求に対して小気味よく適応できる状態にあること。この事はプログラムソースが短いシンプルな記述で書かれている美しさと相通じるものであり、最も本質的な事と言える。

そして最近、複雑系モデルのお手本になると気が付いたものに、“人体のメカニズム”がある。MDMでも取り上げたが、マスタHUBのメカニズムが人体の隅々まで血液を送り出す心臓の役割に酷似していたり、同じ臓器が2つある理由が1つが機能しなくなった際のバックアップの為だったり、無駄なものは何1つない削ぎ落とされたシステムとしての美しさがそこにある。

美の追求に際限はないが、企業システムの形(エンタープライズ・アーキテクチャ)にとって、美しさは一見、関係ないように見えて実は重要なファクターである。輪郭や骨格のはっきりしない歪(いびつ)なシステムは美しくないばかりか、それはシステムではなくカオスでしかない。

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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