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【第31回】禁断の裏マスタースケジュール

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前回は、マスタースケジュールがプロジェクト・リスク・マネジメントの要(かなめ)であるということを考察しました。しかし、私が以前携わったプロジェクトでは、承認された正式なマスタースケジュールとは別に、「裏マスタースケジュール」を作って、プロジェクトの実行管理を行うことがありました。本来、ダブルスタンダードは好ましく無いはずですが、「裏マスタースケジュール」を作った時の方が、うまくプロジェクトをコントロール出来ていたと思います。。。

 

【 裏マスタースケジュールは許されるのか? 】

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――― プロジェクトマネジメント研修を受けてきたばかりの新人P子さんは、またまたすっかり困惑している様子です。

<新人P子さん> : 「やっぱり私にはよくわかりません!なんで、表のスケジュールと裏のスケジュールなんて、二重管理が必要なんですか?そんなんじゃステークフォルダー間で進捗状況が正しく共有できずに、いろいろな判断を誤ることになりますよね?」

<ベテランPMのM男氏> : 「いやいや、裏スケジュールは必要なんじゃ。まじめに進捗の遅れを報告したって、やれ原因はなんだ、再発防止はどうするんだとか、余計な資料作成が増えて、かえって現場が混乱するんじゃ。だから、余計な突っ込みをされないように、少しぐらい遅れがあっても何事も無かったように見せかける必要があるんじゃ!ただ、自分たちはちゃんと遅れを管理する必要があるから、表のスケジュールとは別に裏のスケジュールが必要なんじゃよ!」

<新人P子さん> : 「そんなのお客様をだましてるだけじゃない!どうして男の人は、そうやって平気でうそをつけるのかしら?裏と表のある人なんて、大嫌いだわ!」

<ベテランPMのM男氏> : 「大人の世界にはなあ、必要悪ってものがあるんじゃ!全体を丸くおさめるためには、少しぐらいうそをつくことは仕方ないことなんじゃ。最後には帳尻をあわせるから、少しぐらい目をつぶってくれよな!」

おやおや、いつもそんなに簡単に帳尻が合わせられるのであれば良いんですけどねえ。たいていの場合は、小さな遅れがいつの間にか大きな遅れにつながって、取り返しのつかない事態を招くことになるでしょう。プロジェクトにおける問題の早期発見、早期対策がどれだけ重要なことか、言葉ではわかっていてもなかなか行動に移すことができないようです。M男氏の言っていることは、単に進捗状況をごまかして、プロジェクトの問題を意図的に隠しているにすぎません。これでは確かにP子さんの言うように、お客様をだます行為であり、絶対にやってはいけないことです!

では、プロジェクトをうまくコントロールするための「裏マスタースケジュール」とは、いったいどんなものでしょうか?

 

【 裏マスタースケジュールの3つのポイント 】

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「裏マスタースケジュール」を活用したことによる私自身の成功体験を振り返り、そのポイントを整理してみました。それぞれのプロジェクトを進めている中では、それほど明確にそのポイントを意識していたわけではありませんが、今あらためて振り返ってみると、実に理にかなったものであることに気づきました。かれこれ20年以上も前から実施していたことです。先人の知恵って、本当にすばらしいですよね!

それでは、「裏マスタースケジュール」の3つのポイントを紹介していきます。

1.スケジュールを1ヶ月前倒しして、リスク発生時対策用のバッファを確保!

これが「裏マスタースケジュール」の最大のポイントです。正式なマスタースケジュールに対して、1ヶ月程度前倒ししたスケジュールを組むのです。あまり短い開発期間の場合は適用できないので、概ね1年以上のプロジェクトに適用します。その目的は、スケジュールバッファの確保です。開発期間中は、さまざまな問題が発生するので、スケジュールバッファが無いと、必ずプロジェクトは遅延することになります。

小さな遅延は大きな遅延の兆候である可能性があるため、早期に手を打つ必要があります。そのこと自体は間違いではないのですが、プロジェクトはその独自性ゆえに、計画通りに進まない場面が必ずいくつかあるものです。そのような場合に、遅延解消のために無理を重ねることで、どこかにしわ寄せが行くこととなり、結果としてプロジェクト全体としてはかえってマイナスになる可能性も出てきます。

スケジュールバッファが十分確保されていれば、少しぐらい遅延したところであわてずさわがず、バッファ内で吸収しさえすれば、何事も無かったようにプロジェクトを進めることが可能になります。ちなみに正式な進捗報告としては、スケジュールバッファを食いつぶさない限り(1ヶ月の遅延とならない限り)、常にオン・スケジュールとして報告をすることとなり、毎週の進捗報告会議も余裕をもって臨むことができます。このようなスケジュールバッファの使い方は、TOC/CCPMとも通ずるところがあると思います。(※1)

2.パイロット開発によるテクノロジー検証で、マイナスの影響を与えるリスクを排除!

ここでいうパイロット開発とは、プロジェクトの独自性による不確実性のうち、技術面のリスクをつぶす目的で行う先行開発と考えてください。既に要件定義段階で、どのようなテクノロジーを採用するかは概ね決定しているはずなので、できるだけ早いうちにそのテクノロジーによる実現性や性能をある程度評価してしまいます。テクノロジーの検証が主目的のため、まだ仕様が十分固まっていない段階でも先行着手が可能です。

要件定義や外部設計段階では、エンドユーザーも含めた要件や仕様決めで時間がかかることが多いので、そのアイドリング時間を有効活用します。そして、例えば、性能的に問題がありそうな要件に対して、検証済みの代替え案を早めに提案することも可能です。よく行われる画面のプロトタイプの場合は、ユーザーからの要望がなかなか収束せずに長期化することが多いのですが、テクノロジーの検証目的のパイロット開発は、ユーザーの要望に左右されることは無いので、手戻りも無くスピーディに進めることができます。パイロット開発により実証済みのテクノロジーに基づいて内部設計以降を進めることができるので、とても安心して開発を進めることができます。

3.生産性向上施策により、プラスの影響を与えるリスクを強化!

3つ目のポイントは、プログラム作成やテストの自動化による生産性向上などのプロジェクト推進施策です。当ブログの 【第16回】プラスの影響を与えるリスクの具体例 を思い出してください。プロジェクトを成功させるためには、プロジェクト目標にマイナスの影響を与えるリスクとプラスの影響を与えるリスクの両方にバランス良く取り組むことが必要です。プラスの影響を与えるリスクを強化するためのプロジェクト推進施策を「裏マスタースケジュール」に組み込んで積極的に推進するのです。

個々のプロジェクトによって、これらの推進施策がどの程度効果があるかは一概に言えませんが、うまい方法が見つかったときには、見積り時に設定した生産性よりも高い生産性を実現することができ、プロジェクトの成功にダイレクトにつなげることができます。

ここまでの説明を読んでいただいてお分かりの通り、「裏マスタースケジュール」の3つのポイントは、どれもプロジェクト・リスクへの対応策です。つまり、「裏マスタースケジュール」とは、プロジェクト・リスクへの対応策を組み込んだマスタースケジュールのことだったのです。

「裏マスタースケジュールは、リスクへの対応策を組み込んだマスタースケジュールだ!」

プロジェクトマネジメントに関する知識やノウハウがまだ浸透していなかった当時は、これらのリスク対応策は受注側の内部努力として「裏マスタースケジュール」に組み込むしかありませんでした。しかし、プロジェクトマネジメントに関する知識やノウハウが広く発注側にも浸透した現在では、発注側と受注側の双方が協調してリスクへの対応策を検討する環境が整ったと思います。今回取り上げた「裏マスタースケジュール」の3つのポイントの考え方やメリットを共有し、合意した上で、正式なマスタースケジュールに反映するべきでしょう。そうすることで、裏も表も無くなり、発注側と受注側の間でWin-Winの関係を築くことができるようになるはずです!

それでは、次回もお楽しみに!          < 前回 | 目次 | 次回 >

工藤武久

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※1 TOC/CCPMについては、「ITの達人」井阪宣之氏がわかりやすく解説しているので、そちらも参考にしてください。
「サルでもわかるTOC/CCPM」

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Profileプロフィール

工藤 武久
工藤 武久
■株式会社アイ・ティ・イノベーション  ■コンサルティング本部 - 東日本担当 ■学歴:早稲田大学 - 第一文学部卒業 ■メーカー系のシステム子会社にて、主に官公庁向け大規模システム開発プロジェクトに、SE、PMとして携わる。立ち上げから運用保守フェーズに至るまで、システム開発プロジェクトの幅広い実務経験を重ねた。 ■2007年より株式会社アイ・ティ・イノベーションにおいて、大規模プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント支援や品質管理支援等のコンサルティングを手がける。 ■PMP、情報処理技術者試験(プロジェクトマネージャ、システム監査技術者他)など。 ■Twitter:https://twitter.com/iti_kudot  ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ ■ ブログランキングに参加しています! ◆人気ブログランキングにほんブログ村 ↑是非応援(クリック)お願い致します↑ ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ ■主なタグ:統合, スコープ, タイム, コスト, 品質, 人的資源, コミュニケーション, リスク, 調達, ステークフォルダ

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