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アジャイルへのエール

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今回のテーマは開発方法論を取り上げてみたい。そもそもITアーキテクチャについて綴ってきた当ブログシリーズで、あまり触れてこなかったのも意外な気がするが、先週末に”エンタープライズアジャイルの集い”なるものに参加した際に思うところがあり、書いてみる事にした。

今日、企業システムの開発方法論はウオーターフォールとアジャイルに大きく二分される。そして、我が国のプロジェクトで採用される数で言えば、圧倒的に前者が多く後者はまだ少数派であろう。ちなみに米国ではアジャイルが主流であると聞く。そもそも開発方法論は、要求する品質、コスト、納期を満たしてシステムを構築するための手段であり、それ自体が目的ではない。では、何に基づいてその手段が採択されるのだろうか?素直に考えれば、”作ろうとするシステムがどんなものか”によるという事である。

アジャイル的数年前まで私は、ロジックに定石があるもの(会計、人事、SCM、調達、生産管理など) は比較的ウオーターフォール向きで、定石のはっきりしないトライ&エラーを必要とするもの(営業支援、製品開発、過去に事例がない新規システムなど)がアジャイル向きと言ってきた。おのずと両者における品質の捉え方も異なり、前者ではロジックが定まっていることからバグがなくレスポンスが良いこと、即ち非機能要件が主体となり、後者ではビジネスへのケイパビリティ向上に照準を当てた、機能そのものが品質のポイントとなる。大雑把に言えば、そこにはプロジェクト重視か、プロダクト重視かの違いがある。

さて、上記の解釈はここ数年でどのように変化したのであろうか。バックナンバー2015.9.13「企業システムのスコープ拡大」にも記載したように、ここへ来てかなりの勢いでビジネスのグローバル化、企業間コラボレーション等が進展し、これに追いつくためのシステムが必要となっている。従来の基幹系システムにおけるデータエントリーは、よりサプライチェーンの下流に位置する顧客からのものとなり、究極はデバイス仕込みのIoTへと変わろうとしている。また、取り扱うデータは従来の構造化データに加えて文書、画像等の非構造化データに拡張されてきている。さらには、世の中の大きな潮流として、企業の商品そのものがハードウエア主体からソフトウエアサービスへと移り変わろうとしている。

このように、既に企業システムは1企業の枠を越えたものへと対象範囲の拡大が必至となっており、従来の”ERPシステム”では賄えなくなってきている(バックナンバー2016.1.10「BEYONDエンタープライズ」を参照)。ひとたび広い世界に乗り出しそこでの最適解を考えると、従来の狭いスコープでの定石はもはや”全体最適解”ではなくなる。そう言った意味では、全てではないにしろ、従来のセオリーは通用しなくなり、新たなビジネスルールを模索し定義せざるを得ないことになる。そして、このようなシステムの”探索”においてこそ、アジャイル手法が活きてくる。また、そこでのシステム品質には、新たなビジネスモデルを支える”魅力的な”という形容詞が評価尺度に加わってくる。企業システムや社会システムという人間の手によるシステムは、まだ始まったばかりの創世記にある。今後、いかようにも変化しうるのだ。「これで終わり」などないのだ。ERPは第一弾の踊り場と捉えた方がしっくりくる。

ところで、どうも我が国の現状はウオーターフォールとアジャイルの二極化が激しすぎるきらいがある。ターゲットとするシステムも、プレイヤーの年齢層も文化も。前者は未だに大規模密結合システムと格闘しデスマーチを続け、後者は未だにど真ん中の基幹系に切り込んで行けてはいない。気のせいか一時の破壊的な勢いが薄らいでいるような気もする。今まさに、両者の得意とするノウハウを融合し次世代システムに備えたいところだ。そのやり方としては、密結合システムに大きさの限界が訪れた今日、次のようなシナリオで実施するのがよいだろう。①ウオーターフォール陣営はレガシーシステムの定石をきちんと伝承すべくアーキテクトとともにモデル図に落とし込む。②アーキテクトはその現行モデルを疎結合に転換し、TOBEモデルを描く。③アジャイル陣営は、適度な大きさに切り刻まれた小さなユニット毎に、小回りの効く体制で最適なシステムを創出する。④新規システムのリリースは週単位、月単位で運用担当とともに実施する。

どうだろうか。次世代のビジネスモデルが現状のまま推移しない事を前提とすると、新たな付加価値創造にはモデリングに加えて、それを実装に落とし込むアジャイル手法が重要な役割を担う。その為にアジャイル陣営は、従来ビジネスの定石を一通り吸収した上で、持ち前の柔軟性、創造性を発揮するのが良い。これにより、ビジネス企画と一体となった既成の概念をブチ壊すシステムを構築することが可能となる。ぜひとも、チームワーク等による”プロジェクトの成功事例”だけでなく、切れ味の良い”プロダクトの成功事例”が待ち望まれる。

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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