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《09》 日本はなぜインドのスタートアップに乗り遅れたのか? いまからでも遅くない成長4分野

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スタートアップのホットスポットとして、インドはいまやシリコンバレー以上に注目されています。iSPIRTの調査によれば、現在インドには19,400社のスタートアップ企業が事業を展開しており、その数は6年前の2.7倍に増えました。これらに対する2015年時の投資額は80億ドル。過去10年間の累計投資額は500億ドルを超えています。

投資する側の中核は米国系VCですが、興味深いのはグローバルIT企業によるインド・スタートアップへの積極投資です。グーグル、マイクロソフト、HP、シスコなどのグローバルIT企業はスタートアップ投資をインド事業の重要な柱に据え、ソフト開発・アウトソーシングと並ぶ〈事業〉に位置付けているわけです。

 

◆インドのスタートアップ投資に乗り遅れた日本

こうした流れに対して日本企業の対印投資はどうか? 残念ながらITに関わるスマートな投資はここ四半世紀、頭打ちというのが実情ではないでしょうか。80年代、90年代から始まったスズキ、ホンダ、トヨタといった自動車メーカーのインド事業は着実に拡大し、さらなる展開を進めています。官民共同でのインフラ部門もメトロや新幹線計画などで大いに盛り上がっています。しかし、ITに限っていえば、日印連携の成功例はほとんど見当たらない。まるで90年代から堂々巡りを繰り返しているようにも思えます。

では、日印ITビジネスが伸び悩んでいる原因はなにか? インド側に問題があるのか? といえば、そうは思えません。過去20年間、インドのIT産業それ自体は着実に成長・進化してきたからです。グローバルITの世界でいえば、マイクロソフトもグーグルもアドビも米本社のCEOをインド出身者が占める時代になっているほどです。そう考えると、日印ITが伸び悩む主因は日本側にあるように思えてなりません。言葉や文化の違いうんぬん以前に日本企業の姿勢や意識がなかなかグローバル化できない──。それが日印IT停滞の基層にあって、結果、インドのスタートアップ投資でも日本は出遅れてしまっているのかもしれません。

とはいえ、いまからでも遅くはないのが巨大市場インドの凄さです。そこで今回はスタートアップ投資における金融、クラウド、医療、教育の4分野の現況と可能性を紹介します。これらは〈インド×IT〉で今後も確実に成長が約束されている分野です。

 

◆フィンテック──庶民金融のデジタル化

日本でも今後急速に成長が期待されるIT分野がフィンテックです。この分野でインドではここ数年、多数のスタートアップが生まれています。インド国内の需要でいえば、スマホの普及でe-コマースの急成長と同時に小口金融決済の需要が高まりました。しかもインドには銀行口座を持っていない層までもスマホを手にしたことで電子決済や小口ローンのニーズが激増しています。

NASSCOM(インドソフトウェア・サービス協会)によれば、インドのフィンテック市場は2016年には330億ドル規模となり、今後5年間は年率22%で成長し、2020年には730億ドル市場に拡大すると予測されています。インドでは現在、小口金融の決済市場だけでも1兆2,000億ドル規模ですが、これらに占める電子決済は5%未満です。そこに目下のスマホ・ユーザー激増ですから、決済、小口ローン等の金融デジタル化へのニーズは高まるばかりです。

【表01】フィンテック系スタートアップへの投資額推移(単位=100万ドル)

2014年 2015年 2016年(上半期)
28社(17.65) 71社(103.34) 19社(35.66)

≪2015年投資先企業トップ5社≫
[1]BankBazaar (チェンナイ)
[2]Capital Float(ベンガルール)
[3]Lendingkart(アーメダバード)
[4]NeoGrowth(ムンバイ)
[5]Faircent(グルガオン)

≪2016年投資先企業トップ5社≫
[1]Capital Float(ベンガルール)
[2]Faircent(グルガオン)
[3]CreditVidya(ムンバイ)
[4]ePayLater(ムンバイ)
[5]KrazyBee(ベンガルール)

[出所]The New Cool(『Business Today』2016年7月31日号)

 

◆SaaS──クラウド×アプリ・サービスに強いインド

クラウド・サービス分野でインドはすでにZOHOなど有力企業を生み出してきた国ですが、スタートアップでもインドのSaaS(サービス型ソフトウェア)分野は有望株。今年3月にグーグルが発表したレポートによれば、2025年までにインドのSaaS市場は100億ドル規模に拡大する見込みです。

たとえば、2010年にチェンナイで設立されたFreshdeskは創業時の社員数は4人でした。それが6年後の現在は5社の企業を買収し、630人超の企業に成長しています。同社に限らず、SaaS系スタートアップは数と質の両面でインドITの強みを活かしながら、グローバルな展開が図れる分野です。

【表02】SaaS系スタートアップへの投資額推移(単位=100万ドル)

2014年 2015年 2016年(上半期)
121社(159.2) 167社(470.0) 68社(64.22)

≪2015年投資先企業トップ5社≫
[1]Practo(ベンガルール)
[2]Freshdesk(チェンナイ)
[3]RateGain(ノイダ)
[4]Capillary Tech(ベンガルール)
[5]Indix(チェンナイ)

≪2016年投資先企業トップ5社≫
[1]Helpshift(プネ)
[2]Boomerang Commerce(ベンガルール)
[3]KartRocket(デリー)
[4]GretHR(本社不明)
[5]Locus(ベンガルール)

[出所]The New Cool(『Business Today』2016年7月31日号)

 

◆ヘルステック──13億人の医療・健康ロングテール

ヘルステック(医療・健康)分野でのスタートアップは参入社数、投資額の両面で2015年に急拡大しました。14年時に282社だった投資先企業数は15年時に509社に増え、投資額も14年時の3,700万ドルから一気に8倍増の3億ドル超にまで増えています(Tracxnによる調査)。国内のヘルスケア市場全体は現在1千億ドル超で、2020年には2,800億ドル規模にまで拡大が見込まれている巨大市場です。

13億の人口を抱えるインドにとって医療と健康へのニーズは極めてロングテールです。今後も都市部の富裕・中間層の間では健康ブームがより高まり、農村部の庶民層の間ではより手軽で合理的な医療サービスが求められており、それらのニーズとサービスに応えるツールがスマホをプラットフォームとしたヘルステック分野になるわけです。

なお、ヘルステック分野では現在、ベンガルールのスタートアップが有力ですが、新たなスタートアップのハブとしてプネが注目されています。現地報道によれば、プネはIT企業と医療機関、大学・研究機関が集積しながらもベンガルールほど人件費や地価が高騰していない。それゆえ、ヘルステックのスタートアップにはプネが最適だという潮流が生まれつつあるようです。(『Economic times』7月14日付記事=Pune is new hub for health-tech startups)。

【表03】ヘルステック系スタートアップへの投資額推移(単位=100万ドル)

2014年 2015年 2016年(上半期)
282社(37.69) 509社(300.80) 71社(41.0)

≪2015年投資先企業トップ5社≫
[1]Practo(ベンガルール)
[2]NetMeds(チェンナイ)
[3]Portea(ベンガルール)
[4]MedGenome(ベンガルール)
[5]GOOi(本社不明)

≪2016年投資先企業トップ5社≫
[1]Img(本社不明)
[2]HealthifyMe(ベンガルール)
[3]Curejoy(ベンガルール)
[4]Care24(ムンバイ)
[5]MedECube(ベンガルール)

[出所]The New Cool(『Business Today』2016年7月31日号)

 

◆エデュテック──これから始まる「すべての人に教育を!」

ヘルステックと同様にインド全国民から今後ニーズが絶えない分野が〈教育×IT〉のエデュテックです。オンライン教育市場だけでもインドは現在200億ドル規模で、これが来年の2017年中にも倍増すると見込まれています。エデュテック系スタートアップへの投資額は14年時に2,850万ドルでしたが、15年時には1億2,000万ドルに増えました。

エデュテック分野の特徴は技術面以上にコンテンツが重視される点です。この点でもインドは多様で高度な教育コンテンツの宝庫です。言語面では英語のみならずマルチリンガルの人材が多い。教育面ではサイエンスを中心にグローバル水準の高等教育機関が揃っている。出版コンテンツでもオックスフォード大学出版、ペンギンブックスといった英系の学術出版社は実質インドが第二の拠点となっています。さらにここ数年はトムソン・ロイター等の通信社も本社人材を減らしながらインドで人員を強化しており、インドは英語圏での知識産業の知られざるハブに成長しています。

インド国民の教育ニーズに応えつつ、グローバルな展開も図れるという点でインド以上にエデュテック系スタートアップの成長可能性がある国はないかもしれません。

【表04】エデュテック系スタートアップへの投資額推移(単位=100万ドル)

2014年 2015年 2016年(上半期)
342社(28.5) 480社(120.32) 77社(90.05)

≪2015年投資先企業トップ5社≫
[1]Byju’s Classes(ベンガルール)
[2]Simplilearn(ベンガルール)
[3]UpGrad(ムンバイ)
[4]Toppr(ムンバイ)
[5]CultureAlley(ジャイプル)

≪2016年投資先企業トップ5社≫
[1]Byju’s Classes(ベンガルール)
[2]Cuemaths(ベンガルール)
[3]Flex Class(デリー)
[4]CollegeDekho(グルガオン)
[5]flipClass (ベンガルール)

[出所]The New Cool(『Business Today』2016年7月31日号)

    [執筆:田中 静]

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