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時代を読み、本流を見分ける

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今回のブログは、EAにおける”時間軸”の捉え方についてお話したい。変化の激しい現代のEAには時間軸(ビジネスやITの変化)を加えた奥行きが必要である。前回ブログ[アーキテクチャ・マネジメント・オフィス(AMO)]でAMOが作成する”アーキテクチャ・ロードマップ”の具体的な作成過程としての続編でもある。多少、抽象的な話になることをお許しいただきたい。

まず、向かう方角性を定める要素には大きく2つあると言えよう。要素の1つは社会やビジネスを取り巻く環境の行方である。EAで言うところのBAが起点となるケースである。ビジネスのグローバル化、経営ガバナンスの強化、現場のワークスタイルの変革などがこれに相当する。もう1つはその対岸にあるITの進化の行方である。EAで言うところのTAが起点となるケースである。最近で言えば、第三のプラットフォームとしてのモバイル、ソーシャル、ビッグデータ、クラウド等がこれに相当する。

%ef%bd%85%ef%bd%81%e3%81%ae%e8%a8%ad%e8%a8%88%e9%81%8e%e7%a8%8bそしてBAとTAの間に位置するDA(データアーキテクチャ)とAA(アプリケーションアーキテクチャ)は、この両端の方向性に影響をうけて論理⇒物理設計されることになる。通常は、ビジネスが求める要件(BA)に基づき、それを満たすデータ資源のあり方(DA)とそれを生成するプロセス(AA)が仮決めされ、これが実装技術(TA)に基づいて補正された結果、現場において実現可能な業務(BA)への修正フィードバックが決定される(図1左側の「各層の決定過程」を参照されたい)。基本はビジネスありきである。但し近年、TAが先導役となりBA内の新規ビジネス創設に至るAMAZONのようなITビジネスのケースもあることを付け加えておく。

話をもう少し深堀してみたい。まずはBAのデザインについて。ここで“ビジネスのグローバル化”の例を取り上げてみたい。グローバル化によりシステムのスコープ拡大や多様性への対応が必要となることは当然として、問題はいかなる構造をもってしてグローバルで多様化した組織体を“統合運営”するか?である。今やその答えが、少し前のグローバルスタンダード(実はアメリカンスタンダード)に全て従うという単純なものではうまく行かない事が分かったりする。中央集権型、連邦型、自律分散型等のいずれの組織的アーキテクチャを目指すのか、真剣に考えなければならない。このビジネス・アーキテクチャがDA、AAの設計のもとになるのだから。

次にTAのデザインについて。この特徴は何といっても進化の速さからくる先読みの難しさにある。マスメディアがIoT、NonSQLDBによるBIGデータ活用がすぐ目前に迫っているかの如く騒いでも、それが自社の実用に供するのがいつ頃なのかは正直、分からないのが本音であろう。それでも、その時期を仮置きしないことにはロードマップ作りがはじまらない。IT-SEEDSは様々な可能性を秘めている。幸か不幸か、新たなITサービスは欧米が数年先を行っているので、彼らの事例を参考にする事で一般的な進化の過程は知ることができる。

そしてDA、TAについて。これらは“BA(やりたい事)とTA(できる事)の交点“になっている点が特徴である。特にAAはTAに隣接することからその傾向が色濃く、論理設計に物理的制約を加味して”落としどころ“を見出すことになる。進化の早いTAに連動してそのデザインも変わり易いという特性から、将来に向けてAAを如何に柔軟性あるものにしておくかが鍵となる。近年、大規模、複雑系の課題解決に際して、このAAが果たす役割は大きく、疎結合化なども1つのキーワードとなっている。かつてのERP一色で統一するAAも直近のBAの要求とTAの実装手段をもとに再考する余地もありそうだ。

さてここで、汚れた大規模企業システムのDA、AAの変革には長期間を要するという現実に目を向けてみる。前述したようにBA、TAから、DA、AAが導かれることに変わりはないが、これらの変革に時間軸が伴うことを前提にすれば、そのインプットとなるBA、TAも、これに合わせた時系列での将来予測を立て、DA、AAとの整合性を図ることが必要となる(図1右側の「時間軸とEA層の関係」を参照されたい)。

この両者の予測が大きく外れているとDA、AAの設計もやり直しせざるを得ない。しかし、BAは企業経営の側面、TAはITの技術的側面に精通した有識者を集めて議論を重ねれば、向こう1~3年程度の直近は大きく外れることなく実行可能なものが描けるはずである。そして4~7年先の部分については不確定要素が多く予測違いも生ずるが、それは判明した都度、修正をかけて行けば良い。1つだけアンチパターンを言うならば、4年先のTOBEの方向性と直近1~3年の計画が真逆なのはいただけない(例えば、将来、分散方向に進むのに、直近は一時的に集中するとか、脱ホストなのに、最後のホスト増強とか)。

どうであろうか。ITを取り巻く環境の進化が速い現代において、時系列を伴ってEAをデザインするには、“時代の変化を読む“ことが極めて重要であることがお解かりいただけたであろうか。その為には社内アーキテクトは自社の経営方針と、世の中のIT動向の両方に日頃からアンテナを張って精通している必要がある。そして、経営スタイルもIT製品も一過性の流行りものか、長続きするものかといった”本流を見分ける“力が必要である。決してメディアやベンダーの言いなりではなく自社として腹落ちするものとして。

 

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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