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メープルシロップの如く再構築せよ!

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本年最後のブログは、X’MASも近付いてきたので美味しい香りのするものをお届けしたい。といっても、このタイトルだけではITアーキテクチャといったい何が関係するのか見当がつかないだろう。話の内容は、その味のことではなく、これの抽出過程がシステム再構築のヒントになるというお話である。

私はここ数年、モンスター化した企業システムの再構築手法について色々と模索してきた。その結果、”データHUBを介したアプリ間疎結合モデル”に到達した。しかし読者の方々にしてみれば、最終的アーキテクチャもよいが、巨大な密結合カオスの塊を前に、いったいどこからどのように手をつけたらよいかわからないというのが本音ではなかろうか。今回はその“最初の一歩の踏み出し方”をご紹介したい。写真は、樹液を取り出すために楓(かえで)の幹に刺さった蛇口と樹液をためるバケツである。右上は家の食器棚に眠っていたカナダ土産。伝統的な製法では、蛇口から溢れる樹液はバケツに蓄えられ、これが加熱濃縮などの製造工程に回される。本ブログでは、メープルシロップの樹液を”データ”に、それを取り出す楓の木を”巨大なレガシーシステム”に例えて考えてみたい。ちなみにレガシーシステムには”こてこて”にカスタマイズされた巨大ERPも含まれる。

ブラックBOX化した既存の密結合システムは、うっかり無防備な再構築を企てると大炎上しかねない。そこで私はかねてからスモールスタートを推奨してきたが、その最初の一歩の踏み出し方について、なかなか的を射た説明に苦慮してきた。「主要なマスタや、基本的な取引イベントを、再利用性の高いものから順にHUB上に外出しし、これを各業務アプリケーションへ配信する。」と説明されても、そもそもHUB内へ取り込む以前に、これらの重要データはいったいどこからどのように抽出したら良いかよく分からないというのが読者の本音ではなかろうか。

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既存のレガシーシステムからデータを抽出する様は、まさに写真の”楓の幹に差し込んだ蛇口から樹液を取り出す様子”に相通じるものがある。レガシーシステムはまだ機能しており、かつてのホストとしての名残で基本的なマスタや取引データの宝庫である。ここから最も濃いデータを継続的に取り出すには、図の蛇口に相当するインターフェースを構築しなければならない。問題はこのインターフェースの取り付け箇所である。

メープルシロップのケースは蛇口の差し込み場所にさほどノウハウは必要ないかもしれないが、  企業システムの場合はこの場所の特定がときに難解を極める。何しろ相手は超大盛りスパゲッティなのだから。はたして「どのシステムの、どのデータベースから、どのタイミングで取り出せばよいか?」という問いに対して、即答できる社員がどれだけいるだろうか。いたとしてもリタイヤ直前の社員であったり、でなければ保守ベンダーや孫請けベンダーのベテラン担当者だったりするのではなかろうか。そして、これら職人が多重請負の下流に位置するほど解決に時間をすることになる。さらに、これが密結合ERPであれば蛇口の差し込み口がどこでも良いというわけには行かないし、予想外にコストがかかったりする。

何れにしても、放っておけば事態は悪化するので、この蛇口インターフェースから企業活動の基本マスタ、トランザクション(樹液)を抽出し、データHUB(バケツ)を経由して他システム(シロップ製造工程)にデータを送り込む仕掛けを、上記のレジェンド社員がいなくならないうちに構築しておく事が必至である。この工法をもってすれば、まずは主要データを逐次レガシーシステムから取り出し、これをHUB上に一旦蓄えておく事ができ、時間差で他システムへシンクロナイズさせることが出来る。その後、新システム(新しい楓の木)から主要データ(樹液)を採取することができるようになった段階で、インターフェース(蛇口)を旧から新へ付け替える。蛇口を引き抜かれた古い楓の木はその時点で役割を終えることになる。

主要データを別プラットフォームのHUB上に同期させるという、この一見、冗長に思える仕掛けは、再構築時のフェールセーフとして機能しつつ、レガシーシステムのHUB的な機能を徐々に薄れさせ、最後はただの業務処理サーバーへと導くことができる。ここまで来ればあとは止めを刺す事は容易である。繰り返しになるが、まずは”主要データ(濃い樹液)の抽出から”始めることをお勧めする。どんなに手強いモンスターでも小さな傷口からエキスを吸い出す事は可能である。(傷口を探し当てるのに要する時間はケースバイケースだが)

本年最後のブログは、“おいしい”再構築の手順を、メープルシロップの採取をメタファーとして表現してみました。本連載も早いもので80回を迎えました。100回を目指して来年も継続したいと思いますので引き続きご愛読よろしくお願いいたします。ちょっと早いですが、皆さんにとって来年も良い年となりますように!

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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