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デザインと設計の違い

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先日、都内でダビンチ&ミケランジェロの素描展を見てきた。下調べもせず何気なく入った美術展は、絵画や彫刻の素になる素描(デッサン:イタリア語でDisegno)がほとんどであつた。一般に素描は作品の下絵として描かれる物だが、ダビンチやミケランジェロは、それ自体が完成品のケースも多く、ルネッサンスにおいては芸術的発想の第一段階として最も重要視されたらしい。

私は展示された線描画による人物の構図取りの試行錯誤の様子をみて、この作業(デッサン)が、偉大な作品を産み出すデザインの本質である事をあらためて実感した。デザインの語源はデッサンと同じく、”計画を記号に表す”と言う意味のラテン語Designareとのこと。つまり、人間の考えを表したものという事がポイントである。ダビンチが「輪郭は本来ぼんやりしたもので、人間の創造物である」と言っている事も興味深い。

芸術・美術から生まれた”デザイン”、今では衣服、建築、工業製品にとどまらず、なんと人生設計にまで及んでいる。まさにダビンチが建築、数学、解剖学、天文学といった万能人である理由もこのデザイン能力によるところが大きいのかと妙に納得した次第である。

この”デザイン”、もちろん現代の”コンピュータシステム”にも同様の工程が存在する。これが、いわゆるアーキテクチャ設計に他ならない。その中でも絵画同様に最初のスケッチに相当する部分が最も重要である。そして、その次に後工程の(絵画で言うところの)彩色等の仕上げが施されて行く。

ここで残念なのが、”デザイン”が日本語に訳されると漠然と”設計”と訳されるケースが多いことだ。そしてなぜか、日本発のシステム開発方法論では、このアーキテクチャ設計に相当する部分が欠けているものが目につく。代わりに、”方式設計”という言葉をよく目にする(まだ”様式設計”であればニュアンスは近いのに)。

これは、建築や工業製品で言うところの意匠設計(いわゆるデザイン)を飛ばして、構造設計や設備設計のみを行うに等しい。唯一、この意匠設計を省略してよいのは、システム開発ではなく、既存システムの保守のケースに限られる。

システムのアーキテクチャ設計では、最初に、現状の問題と将来の課題を解決する為に、対象システムがどのような機能を保有し、各機能がどのような関係に配置されるのがよいかといった”構図”をデザインする必要がある。次に、分散/集中、密結合/疎結合、オンプレ/クラウド、パッケージ/スクラッチ、PG言語等の方式設計が続くことになる。

私は上記の構図をデザインする為に、以前から”アプリケーション鳥瞰図”なるものを描くようにしている。これはまさしく全社システムのデッサンである。現状の様々な問題や将来の課題を全て洗い出しこれをミックスして幾つかのポイントを書き止めておき、これを解決するシステムの構成や配置を、いっきに、ほぼ一日で荒削りに描画する。描画に用いる線や図形のルール(凡例)は予め決められたものを使う。

その後、これを数日かけてブラッシュアップした後に、次工程に展開するようにしている。次工程以降の方式設計を担当する人間には勘所だけを伝える事で、設計作業をバトンタッチすることも可能である。もちろん時間が許せば、ダビンチのように自分自身で後工程の設計も行えれば、それに越した事はない。

今回は ルネッサンス時代の素描(デッサン)をヒントに、ITアーキテクチャ設計の“入り口“に触れてみた。Wikipediaには「デザインとは具体的な問題を解決するために施行・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現することと解される」と書かれている。まさに”考えて組み立てるもの“であり、”仕様書を記述するもの“とは一線を画すものである。

さて、本ブログで連載95回目となる。100回目に向けて残り少なくなってきた。残りの回も引き続き、初心に戻りアーキテクチャの本質とは何か?に迫ってみたいと思う。
 


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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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