DX(デジタルトランスフォーメーション)推進コンサルティング 株式会社アイ・ティ・イノベーション

menuclear
ホーム > ブログ > 林衛の記事一覧 > 未来のITをデザインする - 「人」を中心に考えてこそ強い「IT」が生まれるのです -


未来のITをデザインする - 「人」を中心に考えてこそ強い「IT」が生まれるのです -

Pocket

さあ、僕らの未来をデザインしよう。

 私は、真摯に未来をデザインしたいと考える。未来のことを、実際には、どのように考えてゆけばよいのだろうか?未来を考える場合に、前提となる大切なことは、未来をでっかく、ポジティブに考えることである。それを前提として、以下の3つの観点で未来を考えてみた。
一つ目は、「社会的なトレンド」という観点である。二つ目は、「ITの未来」という観点である。三つ目は、「新たな原理による行動」という観点である。
では、それぞれについて検討してみよう。

<観点1> 社会的なトレンドを読む

 BBCが昨年、視聴者からの意見をまとめ、発表した未来100年予測を見ると、実に興味深い。今後の100年間に、社会的な認識の変化が確実に起こると予測されている。
(関連ブログ:30年後を考えよう ‐ 1900年の未来予測を参考に ‐
従来の未来予測では、新たに出現する技術という観点で語られる未来が多かった。確かに、IT(情報技術)、バイオテクノロジーなどのハイテクは依然として社会的に大きな影響力を持ち続けていくことは間違いない。一方で、今後数十年の間に、家族や結婚観、仕事と社会の関係、社会や組織と個人の関係、自然、環境の維持・保護の考え方、国やお金の概念、人種や言語の使われ方や感じ方といったような、今まで我々がもっていた社会常識の感覚が相当変化するのではないか、ということが予測されている。

 例えば、近代の歴史を見ると、組織が重要視されていた時代から、個人が重要な時代に変わりつつある、という歴史の大きな流れについては読者も首肯のことと思う。また、組織と社会とのかかわり方で云えば、従来は組織として社会に貢献するという発想が当たり前であった。しかし、現在では、個人も組織も社会貢献に参加するという発想が当たり前に感じられる。しかも、その社会貢献の方向性は、工業社会の時代のそれと異なり、地球の環境・自然を守ること、といった観点が重要になってきている、ということも当たり前に感じられる。このように、実はこのトレンドは我々の周りのあらゆるところで地滑り的に始まっているのである。

 組織から個人へという流れが大河となるなら、個人の権利を保護する形態もまた変化しなければならないのはある意味当然であろう。世界という視座で個人が社会に貢献する、個人が中心になっていくという考え方が主流になる一方で、同じ割合で個人の権利の確保が重要になっていくということだ。
あらゆるデータが、コンピュータ、ネットワーク上で共有できる時代は、個人が中心になっていくというトレンドを産みだすが、このような技術の高度化という時代がもたらす利便性は引き続き追求されていく一方で、むしろそれに先立って、プライバシー、情報保護、セキュリティ、ガバナンスが重要にならなければならない。
個人と組織や社会との関係、あるいは関係に対する認識が大きく変化していくという観点に至ったのであれば、以下の認識へ到達したのも同然である。即ち、私たちは、どのような組織に所属すること欲し、何を目的に、どのような活動をするのかについて、自ら根本的に見直し且つ自己決定していかなければならない。また同時に、プライバシー、情報保護、セキュリティ、ガバナンスも、どのような保護を選択するかについて、自ら決定していかねばならない、そのような時代が到来したのである。そして、それを支える社会的な仕組みが必要になることもまた間違いない。そして、特にITは、この社会的仕組みのベースとして世界全体に普及し、あらゆる「もの」、「こと」を変化させる力があるという点を我々は認識しておく必要があると思う。

ポイント1 今後30年間に予測できる認識の変化と技術的な変化を捉えること

<観点2> ITの未来を考察する

 今後、ITは世の中でいっそう必要不可欠になり、あらゆる情報がネットワークにより統合化されるだろう。現状、ITは、業務系、エンジニアリング系、AI、組み込みソフトウェアなど様々な領域に分かれているが、今後は、すべてを統合して全体をデザインする時代になる。
例えば、自動車のITSを使った自動運転を含めた新たな交通システム、気象情報、交通情報などとビックデータが結びつき、桁違いに利便性が高まるといったように、様々な社会システムが高度化していくとか、統合化された医療情報を使って、誰でも、何処でもいつでも安心して暮らせる世界が実現するというようなことである。

ポイント2 あらゆるIT技術を統合して考え社会システムとしてデザインする

 さて、全体ポリシーを持ってデザインするためには、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の導入が不可欠であり、そこには本物のデザイナーが必要となる。そして、デザイナーは、本物のデザインとは何か、を既存の枠組みを越えて追求していくのだ。注意したいのは、情緒的なものをより重視しなければならないという点だ。現実に社会を構成しているのが人間である以上、人間の尊厳と権利を尊重することを前提とする設計思想でなければならない。
確かに、統合システムでは、ビッグデータを活用し、今では思いもつかないようなことが、分析されるようになり、より高度なマーケティングや生産活動が可能になるだろう。しかし、人間の尊厳と権利を尊重することを前提せず、ただただ技術の高度化を目指すというのであれば、人の権利、組織の統制、犯罪防止、セキュリティなどの守りの技術体系はどうでもいいということになる。観点1で述べたとおり、そのような方向性は現代においては有るはずもなく、技術の高度化に同期を取って、守りの技術も高度化しなければならないのは自明である。
 
ポイント3 統合システムは、人類の尊厳と良心を尊重し、倫理に従ったポリシーでデザインする
 
<観点3> 新たな原理で行動すること

さて、新たな原理で行動するための指針を検討してみよう。

原理その1) 倫理と正義
社会における倫理観や正義感をはっきりさせたうえで、人の権利と尊厳を守り、尚且つ人間としての成長が伴う活動をする。

原理その2) ビジョン
関係者から周知を集め、ビジョンをはっきりさせ、明確に文書と図・絵で示す。

原理その3) 枠組み
社会の仕組みをどのような枠組みで考えるか明確にする。
(これは認識の変化ということでもある)今までの枠組みに捉われず、将来を見据えた枠組みを大胆に決める。プロジェクトの進行によって枠組みは、組み替えても良い。

原理その4) ことばと概念の統一
ことばと概念を統一するための辞書も用意する、辞書は重要な役割になる。
ことばと概念にこだわり、関係者に徹底する。 

原理その5) ソリューションとデザイン
クラウドコンピューティング、モバイルやネットワーク、組み込みなどのITの要素技術の進展によってITによる社会的な変革を達成できる分野が多く出現する。今後は、往々にして技術構造が、ビジネスモデルを生み出すきっかけになる。
仕組み創りに着手する前に、ユニバーサル思考(世界に通用する概念)で、デザインのデザインを決定する。デザインとは、アート・アンド・サイエンスであり、情緒的な部分も含まれる。

原理その6) プライバシー理論導入
個人と組織を守るための洗練されたプライバシー理論を導入し、顧客から信頼の獲得と適正なガバナンスの実現を行う。

原理その7) 公表
ビジョンの明確化と文書化を行う。関係者にビジョンを公表し共有する。

原理その8) リーダーシップとイノベーション
リーダーシップとイノベーションをどのように組み込むかを計画する。
成功するチームには、良好なリーダーシップが必ずあり、プロジェクトを推進していくその中でもイノベーション活動が行われている、そのように計画する。

原理その9) チャレンジ
多様なソリューションの中から適切な選択をするには、チャレンジが伴う。選択時には、100%の成功が、見えるはずがない。リスクを適切に取ることで成功に導いてゆく。

原理その10) 育成
様々なテクノロジーを活用して社会システムをデザインするための本物のアーキテクトの養成が必須になる。本物が、そうそう居るはずがない、要は、イノベーションを進めるのに合わせて、学習・育成していくことが必要である。

 あらゆるシステムのデザインは、人を中心に置いてなされなければならない。そもそもシステムは「人のため」のものであり、「組織のため」だけには存在し得ない。ましてや、複数の組織をまたがって存在する仕組みは、洗練され、シンプルな考えでデザインされるべきである。誰かが、最初から分かっているわけではない。リーダーが中心になって、知恵を絞って考え抜いて創られる。それが、我々の目指すシステムである。

blog_hayashi150407
2015年3月5日知働化フォーラムで、「ソフトウェアの未来」と題して講演した際の資料を抜粋。

| 目次
Pocket

採用情報
PM-waigaya
PM-WaiGaya
コンサルタントのトーク動画
PM Weekly Talk
PM Weekly Talk
コンサルタントが語る「PMBOK®12 の原理・原則」

Profileプロフィール

Avatar photo
林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

Recent Entries最近の記事