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【第6回】 ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルについて。

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前回は、スキルの構成要素(テクニカル・スキルとヒューマン・スキル、コンセプチュアル・スキル)について解説し、テクニカル・スキルの育成についてお話しました。
今回は、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの育成方法についてお話する予定でしたが、その前に、これらのスキルがどのような物なのかもう少し掘り下げてみたいと思います。
育成方法を考える前に、スキルの性質を理解することは重要なのでご了承ください。

ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの獲得は難しい

冒頭から残念な話になってしまうのですが、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルは、獲得(向上)が難しいスキルです。
なぜ難しいのでしょうか。
マネージャの皆さんなら薄々感づいていると思いますが、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは、当人の性格や気質にとても強く影響されます。(特にヒューマン・スキルはその傾向が強くなります。)

例えば、内向的な人材に多少外向的な行動が求められる仕事を任せても、それだけでは外向的な人材に変わることはあまり望めません。もちろん例外はあるのですが、多くの場合は“自分には向かない仕事をやらされている”と、被害者意識を持ってしまうことも多いのです。そうなると、苦手な仕事に立ち向かうよりも、早くこの仕事から逃れたいという気持ちの方が強くなってしまいます。

内向的な人材が積極的に外向的な仕事に立ち向かうためには、まず自分の性格や気質を超えて行動しなければなりません。(もちろん逆の場合も同様です。)人は、自分の性格や気質を超えて発言、行動するのはとても難しいものであることはご理解いただけると思います。
ちなみに“性格や気質は、大人になってから変えることはできない”とよく言われます。だとすると、性格や気質に強く影響される行動特性を変えるのは、難しくてあたり前ですね。

マネージャもそのことを察していて、仕事がスムーズに進むように外向的な性格の人材には外向的な仕事(役割)を与えます。同じように、洞察的で分析的な人材には洞察と分析を求められる仕事を、挑戦的、改革的な人材には挑戦と改革が求められる仕事を与えます。
もちろんそのようなアサインは、何ら悪いことではありません。仕事に品質とスピードを求めるなら、人材の適正に合わせて仕事をアサインするのは当然の選択です。(そもそも品質もスピードも求められない仕事など、我々の身の回りには見当たりませんが)
しかし、そうなるとますます当人の性格や気質を超えてヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルを向上することが望めなくなるわけです。

そもそも技術者を志向する人材はテクニカルな仕事を志向しており、対人的な仕事はあまり(あるいは全く)興味がありませんし、苦手だと感じています。対人的な仕事が嫌だから技術者を目指す人材も多いのです。
告白しますが、実は私がそのタイプでした。内気で人見知りをするタイプで、アルバイトでも接客が必要な仕事を選んだことはありませんでしたし、多くの人前でプレゼンするなんて考えたこともありませんでした。
今、職場の同僚にそのことを話すと“それは嘘だ、そんなわけはない”と言われてしまいますが。

さて、問題はそれだけではありません。
人は仕事を覚えてゆく過程で、性格や気質による苦手意識を克服しながら、何とかヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルを少しずつ向上させて行くのですが、それもある年齢を過ぎるとほとんど変化が望めなくなります。
前回でも少しお話しましたが、私が提供しているIT技術者のスキル診断サービスから、少し興味深い統計情報をお見せします。
まずは、ヒューマン・スキルの中でも基礎的な項目である「コミュニケーション」に関するスキルの推移を示します。下の推移表は、中堅のSI企業の技術者を診断した統計情報で作成したチャートです。
受診企業は30社、受診者は約3,900名です。

Yokoo_chart100105_1

縦軸の評価点は6点満点で、数字が大きくなるほど仕事の中でのコミュニケーションに関する行動水準が高いことを意味します。
年齢を5歳間隔で区切っており、その年齢層ごとに平均点がどの様に推移するかプロットしています。 赤い折れ線が自己評価(自己採点)の結果で緑の折れ線が他者評価(日ごろ一緒に仕事をしている上司や同僚、部下などによる採点)の結果です。他者評価は3名から5名程度の人間に実施してもらいます。(360度評価とも言います)
50歳後半以降(55歳~59歳)は、技術者としてはやや例外的な事例ですのでそれを除いて見てください。
自己評価は、年齢が高くなるにつれて平均点が上昇します。(赤い折れ線)
30代以降はさすがに上昇のペースが鈍りますが、ほとんどの人材は、自分が年を取るに従ってコミュニケーション能力(行動)が向上すると考える(感じる)ということになります。
ところが周り人の目から見ると、30代中盤を過ぎるとコミュニケーションのレベルは、向上しないどころか逆に下がっているように感じるのです。(緑の折れ線)
ちなみに、コミュニケーションは、自分がどう思うかよりも相手に対してどのような影響を与えているかが重要な意味を持ちます。従って、いくら自分が高いと思っていても、周りがそう思わなければコミュニケーション能力が高いとは言えません。

もう一つの事例をお見せしましょう。

Yokoo_chart100105_2

これは、リーダーシップに関する統計です。
リーダーシップはやや獲得が難しいスキルですから、コミュニケーションよりも自己評価が上昇するペースが遅くピークも低いのですが、それでも自己評価は50歳前半までなだらかに上昇を続けます。
ところがこの項目でも周りの目から見て、30代中盤以降はほとんどリーダーシップが上昇していないと感じています。
リーダーシップもコミュニケーションと同様、相手にどのような影響を与えているかが重要ですから、いくら自分がリーダーシップを発揮していると思っていても、周りがそう感じていなければリーダーシップを発揮しているとは言えません。

次は、コンセプチュアル・スキルに関係する項目として分析と問題解決に関する診断項目をお見せします。

Yokoo_chart100105_3

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いかがでしょうか。
成長のスピードやピークの高さなど微妙な違いはありますが、他者評価の結果を見ると、どうやら企業において人材(技術者)のヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは、概ね30代中盤を過ぎると周囲の目から見て成長が停滞するように見えるようです。

もちろん、どんな組織にも例外的な人材はいます。実際に、40歳を過ぎても実に柔軟に自分を変えようとする人材にも出会っています。しかし、ある程度の人数規模で見た場合、平均的にはこのような結果になってしまうのです。

診断サービスを実施した企業で、マネージャに結果をフィードバックした後に、“この結果について違和感があるか”と質問をすると、ほとんどのマネージャから、“概ねこの結果に違和感は無い”と言う答えが帰ってきます。また“人はそもそも年齢を重ねるに従って自分を変えようとしなくなるものだ”ということも言われます。私も同感です。

すこし強引ですが、人は30代中盤までに獲得したヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルでその後の仕事をこなして行くと言えるかもしれません。
人材育成の観点で言えば、30代中盤を過ぎた人材に対してこれらのスキルを向上させようとしても努力があまり実らないということになります。(だからといって諦めるわけにも行かないのですが)
どうせやるなら“鉄は熱いうちに打て”ということですね。(実はイギリスのことわざらしいと最近知りましたが)

さて、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは、とても扱いの難しい(面倒くさい?)スキルと言うことはご理解いただけたかと思います。
“そもそも性格や気質を超えて仕事をさせようとすることに無理がある”と思ったりもします。
コンピュータが相手なら、相当難しい仕事でもこんな苦労は感じたことはありません。
ここまで言っておきながら、やはりマネージャはそれを育成する責任から逃れられないようです。
前途多難です。ほんとにそんなことが出来るのでしょうか(かなり暗い気分になりましたか)

次回こそ、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの実践的なトレーニングや仕事の中での育成について紹介したいと思います。
頑張りましょう!

(つづく)

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