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【第9回】 ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの育成事例 その3(ベテラン社員の育成)。

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前々回、前回と、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの向上に成功した事例を紹介しました。
この2つのスキルは、「慣れること」を通じて向上が可能でした。
では、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルの育成が難しい30代中盤を過ぎた社員にもこの方法は利用できるのでしょうか。

種を明かしてしまうと、先に紹介した事例は、実は必ずしも若い人材ばかりが参加したわけではありませんでした。
特に若い参加者が3名混じっていたために平均年齢は30代中盤ということになっていますが、参加者10人中7名が36から40歳までの人材です。(この業界では、30代中盤を過ぎた社員は、ベテランと呼んで差し支えないでしょう)
せっかくですから30代中盤以降の人材が、どの程度他者評価が向上したかご覧いただきます。

Yokoo_chart100215_1

いかがでしょうか。
前回ご覧いただいたチャートが、そもそも30代後半の人材を多く含んでいたので当然なのですが、分析力が微増であること以外はほとんど同じです。
さすがに、元々高かった分析力はそれほど変わっていませんが、それ以外の項目はかなりの向上が見られます。
連載6回目の記事で、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは、30代前半から30代後半にかけて他者評価がほとんど向上しないという統計をご紹介しました。
参考までに、この7項目のヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの評価平均点が年齢に応じてどのように推移するのか、統計情報をご覧いただきます。

Yokoo_chart100215_2

いかがでしょうか。
少なくとも他者評価は30代前半を過ぎるとほとんど向上していないことがお分かりいただけると思います。従って、この年齢層で他者評価がここまで向上するのは、実は、大変な出来事と言えるわけです。しかも、たった4ヶ月ほどの間で。

どうやら、「慣れ」を利用してヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルを育成することは、ベテラン技術者にも通用する育成方法ということになるようです。
私はこの結果を見た時に、長い間思うような解決方法が見つからなかった課題に対して、かなり明るい兆しが見えてきたように感じました。
実践的な体験と行動の機会があれば、そしてそれを繰り返し習慣化するまで粘り強く続ければ、後から向上することが難しいと思われた、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルを育成することが可能だと分かったのです。

さて、せっかくですので、この教育プログラムがどのような内容だったのか、簡単にご説明します。
まずは、ワークショップの構成です。

Yokoo_chart100215_3

ITのプロジェクトマネージャを育成するプログラムですから、当然、プロジェクト管理に関する内容が中心ですが、マネジメントの対象となるITのエンジニアリングに関するプロセスに対しても、振り返りと気付きが得られるようにコース全体が構成されています。
また、基礎知識の習得2コースと実践的トレーニング3コースで構成されていますが、どちらもワークショップを行い、ディスカッションやプレゼンテーションは必ず実行するように構成しています。

OJTは、前々回でも説明しましたが、大規模プロジェクトで、プロジェクト計画書を作成するというプログラムです。
ほとんどの受講者は、大規模プロジェクトの経験がないため、実際の大規模プロジェクトを利用して、OJTの機会を設けました。

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計画立案作業そのものに集中できるように、テンプレートや情報共有システムを提供したところも工夫の一つです。

“さてそれでは、同じことを皆さんも実践してみてはいかがでしょうか。”と言うのは簡単ですが、これだけの教育プログラムを皆さんが実現するのは大変ですね。
自分の仕事を抱えながら、その合間でこれに相当するようなものをやってのけるのは不可能としか言いようがありません。
この教育プログラムは、長年蓄積してきたトレーニングのノウハウがあり、かなりの準備作業を行った結果実現できた内容です。だとすると、皆さんがこのような人材育成を実現することはやはり難しいのでしょうか。

ちょっと待ってください。
せっかく育成のヒントを手に入れたのですから、何もこんなに大げさなことをしなくても、日ごろの仕事の中で育成を実践する方法を考えて見ましょう。

さて、皆さんの会社では、報告会や発表会などでプレゼンを行う機会はあるでしょうか。
私が今まで、人材育成のアドバイスをしてきた会社でも、そのようなことを全くやっていないと言う会社はありませんでした。
ところがせっかくそのような機会を設けても、内輪の関係者だけ集まって事務的に済ませてしまっている事例が多いようです。
説明が多少わかりづらくても聞く方が内容を汲み取ってしまったり、事情を良く知っている関係者が聞くので特に質問も出なかったり。
説明する側も、良く見知った仲間内で話すので特に緊張もしない。
時には、わかりきった内容なので報告書だけ提出して終わらせたり、やってもせいぜいレビュー程度で終わらせたり。
そのようなやり方だと、いくら回数を重ねてもヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルが向上するなど望みようもありませんね。
勿体ないとしか言いようがありません。

どうせやるなら、もっと多くの社員に参加してもらいましょう。
仕事やプロジェクトに直接関係のない他部署の社員でも、興味のある方には自由に参加を呼びかけてはいかがでしょうか。
そうなると、いきなり報告や発表のハードルが上がります。
普段あまり会話したことがない社員、仕事の内容を良く知らない社員が聞きに来ますから、説明自体をきちんと構成しなければなりません。説明資料も簡潔で分かりやすく、かつ具体的でなければいけません。
自由に質問して良いことにしましょう。
これはかなり緊張します。勢い準備にも慎重になります。
先に紹介した事例では、経営層やお客様にも聞いてもらっていますが、そこまでしなくとも、普段あまり話をしない上役を呼ぶだけで更に緊張が高まります。

と、ここまでやってしまうと、さすがにハードルが高すぎますね。
本来内向的な性格の多い技術者は、そんな晴れ舞台に立つのが嫌で、できるだけ逃げようとしたりします。(私がそうでした)
ここで大事なのは、ちゃんと“慣れて”もらうことです。ですから、最初は少しハードルを下げましょう。
初めのうちは、直接仕事に関係しないけれども同じ部署内で参加者を集める程度が良いかもしれません。
集める人数も少し少なめにしましょう。
ハードルを下げたと言っても、内容を知らない人達が聞く前提で説明を構成し、少し緊張する状況で発表するようにします。
その代わり、そういう機会を多く設けて、慣れるに従って徐々にハードルを上げていくのです。
できれば、他のベテラン社員が皆の前で堂々と発表する様子も見せると良いでしょう。
時には同じ世代の社員が、自分より堂々とわかりやすく説明し、質問に的確に答える様子を見ることもあるかもしれません。そんな場面に立ち会うと、自分も、もっと堂々と説明したいと感じるでしょう。(私がそうでした)

最初は、皆の方を見ずにスクリーンの方を見て自信がなさそうに、ぼそぼそ話していた社員も、繰り返すに従って態度が変わっていくと思います。(私がそうでした)

どうでしょう。
実は、このような機会は、プレゼン能力を向上するだけではありません。文章を構成する能力を高めたり、他の社員が聞いて“ためになった”と感じるような“気付き”や“洞察”、“改善や工夫”を仕事に求めるようになったりもします。

これは、良いことずくめの育成方法のように思います。ですが、これだけでは中々効果が出ないことも多いのです。
何が足りないのでしょう?

次回は、もう少し育成効果を高めるために、お勧めすることを説明しようと思います。
それでは、また。

(つづく)

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