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【第4回】 スキルを身に付けるために必要なこと。

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仕事に立ち返る

前回は、スキルを身に付けるための重要な道具として、方法論について説明しました。
方法論は仕事のプロセスに沿って構成されます。この連載の第二回でも人材像を描くために、仕事の振り返りを通じてプロセスを明らかにしました。
私は、人材育成に責任を持つ多くのマネージャが、自分たちにとって最も身近な題材(自分たちの仕事)を振り返ることを後回しにしてテクノロジーやスキルに真っ先に取り組んでしまったために、人材育成の方向性を見失ってしまった事例を多く見ています。
テクノロジーや製品、技法などは、あくまでも仕事を遂行するための道具です。道具をいくら見つめても、自分たちが到達すべき人材像や仕事のありようを知ることはできないのです。
人材育成は仕事に立ち返ることがとても重要なのです。

方法論の効用

さて、話を戻しましょう。前回に引き続き、スキルを身に付けるというテーマをもう少し掘り下げて考えます。
前回説明した方法論は、ある程度仕事を経験した人間でなければ書くことができません。その上で、先輩としての大事な助言やノウハウを盛り込むためには、単に仕事のやり方をまとめるだけでは足りません。
仕事で体験した失敗や成功について振り返り、そもそもなぜ失敗したのか、失敗の原因を取り除くためには何をすれば良いのか、成功の確率を上げるためには何をすれば良いのか、などを洞察し助言やノウハウとして盛り込む必要があるのです。
これらは、自分たちの提供する製品やサービスの性質、企業文化や仕事の進め方によって異なります。従って、一番肝心な部分、つまり自分たちが仕事に込める思いのようなものは、自分自身で書く必要があるのです。

実は方法論を作成するのは、それ自体が非常に良い人材育成活動になります。
できれば、中堅クラスの経験を獲得した社員に方法論を作成させること、作成したならば必ずその内容を部下や後輩に説明することをセットで実行することがお勧めです。
我々が方法論(標準)の作成をお手伝いする時は、方法論と同時にそのトレーニングも作成し実施します。更に、トレーニングを実施した後に、必ずアンケートを取ります。
そこまでやるとなれば、方法論を書く時に何を助言しどのようなノウハウを書くべきか、かなり真剣に洞察しなければならないと感じます。きちんと筋道を立てて文書を構成しなければなりませんし、表面的で根拠の曖昧な説明では、教えられる側が納得できないからです。
このようなプレッシャーを感じながら自分たちの方法論を書くのは、書く側の人間にとっても大変な勉強になるのです。下手な研修を受講するよりもはるかに仕事に対する洞察を繰り返すことになります。
このことによって、方法論を教える側と教えられる側の両方が、非常に濃密な「学習」の時間を得ることができるのです。

キャリアパス、教育体系

多くの方が教育体系を作成する時に、いきなりテクノロジーやスキルの体系を作成しようとしますが、これも失敗し易いやり方です。
ここまで、人材育成の道具として人材像や方法論に取り組むことを説明して来ましたが、これに取り組むことで、ようやくテクノロジーや技法、製品、資格、更にスキルなどを体系的に考える準備ができたということになります。
方法論がまとまれば、仕事の中のどの場面でどのようなスキルが必要か考え易くなります。また、どのようなテクノロジーや技法、製品の知識が必要になるか、資格はどのような場面で役に立つのかなども説明し易くなります。ですので、方法論の構成に沿って必要となるテクノロジーや技法、製品、資格などを対応付ければ良いわけです。
ここでは、人材像にスキルを関連付けた事例を紹介します。

職種 役割・責任 スキル
システムアナリスト ビジネス上の課題を解決するために、業務の本質を理解し、新しいビジネスモデル(ビジネスの構造)を定義する。 ・ビジネス上の課題を解決するために、実現可能で採算性のある新しいビジネスモデルを定義する。
・ビジネスモデルにとって妥当なシステムを調達するために、システムに対するビジネス上の要件を明らかにする。
・業務上の課題を整理する能力
・業務の現状とあるべき姿を明らかにする能力
・ビジネスの仕組みや構造をモデルとして抽象化する能力
・ビジネスモデルを社内外の関係者に提示し、理解させる能力

テクノロジーや技法、製品、資格などは、この表の右側に記載するということになります。
方法論では職種ではなくプロセスに関連付けることになります。
このように、スキルを人材像(職務定義など)や方法論と関連付けることで、誰が何をする時に何を学習すれば良いのか分かるようになります。
人材像では、それぞれの職種をレベル分けし、職位等級が向上するに従ってどのように役割が広がり責任が重くなるのか示されていれば、いつ(どのようなタイミング)で何を学習すれば良いのかも分かります。しかも、自分がそれを学習すべきかどうかは、人材像や方法論に書かれた仕事がきちんと遂行できているかどうかで判断できるわけです。

人物像が、職位等級に応じてレベル分けされた形は、キャリアパスということができます。どのレベルまで到達したら、どのように職種変更できるのかを示すこともできます。
そして、その構成に合わせて必要なスキルとテクノロジーや技法が整理されている状態は教育体系と呼ぶことができます。もちろん、教育体系は方法論に関係付けることもできます。
人材像では、人材の成長に沿って教育体系を示し、方法論では、仕事の流れに沿って教育体系を示すわけです。
また、一人ひとりの技術者に合わせて、どのようなパスをたどってどのようなゴール(人材像)にたどり着くのか想定し、そのためのローテーションや教育のシナリオを考えると、それはキャリアプログラムと呼ぶことができます。

ここで使ったキャリアパス、キャリアプログラム、教育体系などの言葉はいずれも抽象的な概念です。
多くのマネージャは、抽象的な概念をいきなり具体的な言葉で構成しようとして、行き詰ってしまうのです。
この連載の中で解説しているように仕事を軸にして整理していくことで、説得力があり実行可能で揺るぎのない内容にすることが出来るわけです。

方法論とは何か

こうして振り返って見ると、方法論は、技術者にとってとても重要なものであり、技術者が後輩にものを教えるためには、方法論がとても大事なことがお分かりいただけるでしょうか。
方法論が無ければ、先輩は後輩の前で実際にやって見せたり、口で伝えたりするわけです。しかし、そのようなやり方は技術の伝達というよりは技能伝承に近い姿です。
もちろん、技能伝承が悪いというわけでありませんが、我々は技術者だということを忘れてはいけません。
そもそも、技能と技術の違いは何でしょう。
広辞苑などを読んでみると、どうやら技能とは、人物が技を発揮している状態であり、技が人から分離して人に伝えることができる形になったものを技「術」と呼ぶようです。
従って、口伝や手ほどきなどの形で技を伝えるのが技能伝承であり、何らかの「術」の方にして技を伝えるのが技術の伝達なわけです。
IT技術は、他の産業と異なり未だに自動化が非常に難しい分野であるため、技を人から分離するためには、方法論のような文書が非常に重要な「術」であるといえます。(もちろん方法論が全てではありませんが)
つまり、方法論のような「術」を持たない組織は、技術者組織と言えないことになるのです。
皆さんの組織では、後輩にきちんと技術の伝達を実現できているでしょうか。技能伝承ではなく。

さて、第4回目はここまでです。
実は、この連載は4回目で終了する予定だったのですが、書いてみると、とても4回では終われそうにありません。何となく予感はしていたのですが、人材育成やスキルというテーマは、実に奥の深いテーマですね。
次回は少し視点を変えて、スキルの中身と更に具体的な人材育成方法について考えて見ます。

(つづく)

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