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ユーザ企業がおかした3度の過ち

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今回のテーマは、企業の情報資源管理の重要性についてである。何を今さらデータ中心?目新しいパラダイムでもないのに…と思われる読者が多いだろう。本ブログでDOAを語るつもりはない。言わんとする所は、EAは多面的であり一部が欠けては成り立たないということ。あー、ザックマンね…と言われるかも知れないがフレームワークの話でもない。「DA(Data Architecture)をないがしろにしてはならない」という、ちょっと辛口の話である。

幸か不幸か私は1982年から33年間、ひたすら姿、形が見えない企業システムの全体像と向き合ってきた。今振り返ってみると、日本のユーザ企業は、自社の情報資源管理を軽視する3回の重大な過ちをおかしたと言える。そしてその事が既存システムのメンテナンス課題に直結していると言っていいだろう。なお、最初にお断りしておくが、“過ち”とは書いたもののソフトウエアは時間をかければ修復可能な特性を持っているので決して絶望的ではない。

最初の過ちは、1990年代後半のメインフレーム・ダウンサイジングの潮流とともに勃発した。きらびやかなGUIを備えたPCを主体とするオープンアーキテクチャに誰しも薔薇色の期待を抱き、テキストベースの地味な画面に別れを告げる事に必死になった。そして、こともあろうに80年代に築き上げたREPOSITORYをメインフレームと同様のレガシー資産として扱い、やがては捨て去った。少なくとも私の知る限り、当時の先進的な大手企業はメインフレーム上に何らかのメタデータ*辞書(IRM、AD/Cycle等)を保有していたが、CASEツールと称するプログラムの自動生成としての用途に気を取られ、当該企業の情報資源管理としての重要な存在意義を軽視していたのだ。今になって考えれば、メタデータがプラットフォーム非依存であることぐらい当たり前なのに。

データ中心アーキ2度目の過ちは、2000年直後のERP導入ブームとともに到来した。企業のITガバナンスや内部統制を向上させる目的と、長年のアプリケーション保守から解放されたい思いが相まって、大企業はこのオールインワン・システムに新たな活路を求めた。これを保有しない企業は恥ずかしいと錯覚させる程その勢いは止まるところなく、またたく間に日本の大企業の基幹系システムはERP一色に染め上がった。そして、こともあろうに長年保有してきた自社の情報資源管理の中核にあるデータモデルをERPのモデルに置き換えた。確固たる自社のデータモデルが存在していない場合は、ERPとともに手に入れたデータモデルをその後の自社モデルとすればよい。しかし、既に自社モデルが存在している場合は、モデルを変換することをまずは考えるのが自然である。今になって考えれば、ビジネスモデルの写像としてのデータモデルが細部にわたってERPと等しいハズがないのに。

そして3度目の過ちは、2010年前後から盛んに世間で取り沙汰されているSOAアーキテクチャを取り巻く誤解である。粒度はともあれ「業務処理で必要とされる各種の機能をサービスと定義し、これをネットワーク上で連携することでシステム全体を構成する」こと自体に異論はない。クラウド環境にもマッチする疎結合アーキテクチャである。ベンダーはあたかもSOAがスパゲッティ化した大規模システムを修復する救世主であるかの如く、SOA関連製品をアピールする。既に自社のITアーキテクチャに対してのイニシアティブを失ってしまったユーザ企業は、簡単にこれを信じるしかない。問題は“SOAが情報資源としてのDAに触れていない事を、DAを整備しなくても良い”と誤解してしまうところにある。サービスの突端には必ずデータベースが存在するわけで、そこでは共通データ(マスタやトランザクション)の一元管理が出来ている事は大前提なのだ。従って、データ環境が整っていない中で、散らかったデータをESB経由で取り纏めようとするとサービスの実装は難解を極める事となる。あたかもそれは泥水をかき混ぜるかの如く。ここでも冷静に考えれば、データをないがしろにして企業システムを単なるプロセスの集合体と捉えることが間違いであることは明白である。

以上、ITアーキテクチャにまつわるユーザ企業の代表的な過ちを取り上げてみた。誤解を避けるために申し上げるが、オープン化もERPも、そしてSOAもそれぞれ企業システムに大きな進化をもたらした素晴らしいテクノロジー、ソリューションである。しかしながら、エンタープライズ・アーキテクチャは多面的であり、どの面が欠けても成り立たない。さしずめDAはその最たるものである。にもかかわらず、ユーザ企業は新しいTA(Technology Architecture)が出現する度に、ベンダーのプロモーションを鵜呑みにして、それが全ての解決策と錯覚してしまうのだ。これからもこの錯覚を起こすネタは数多く控えている。アジャイルもマイクロサービスもDEVOPSも全てはデータ中心と排他的ではない。

さて、ユーザ企業はこれからどうしたら良いだろうか?最初に失ったメタデータ管理の復活からはじめてはどうだろうか。実際、近年ユーザ企業では基幹系システムのブラックBOX化が大きな問題となっている。また、溢れんばかりの知見を頭にしまい込んだレジェンド社員のリタイヤも目前に迫っている。。。最後に1つだけ、メタデータ整備を始めとする情報資源管理はベンダーの関心事ではないので、ユーザ企業自らで行うしかないという事を付け加えておく。ベンダーには情報資源管理の環境構築に用いる最新のITを提供してもらえば良い。

※メタデータとは・・・データを客観的に説明する各種の情報。そのものの意味やデータ型、桁数、各種の制約条件などで構成される。

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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