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なぜ今アーキテクチャなのか?(TAKE2)【最終回】

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本シリーズも、おかげさまで記念すべき第100回を迎えることになった。第1回は2013.10.22の投稿だったので、今からちょうど4年前であった。1回/2週の連載でほぼ休む事なく100回目を迎えられたのも、ひとえに読者からの「ブログ見てますヨ!」という反響があったからこそだ。改めて読者の皆さんに感謝する次第である。4年という歳月はITの世界ではさすがに一昔前。古臭いものになってもいけない。言いたい事もほぼ書き尽くしたので、きりのいい100回で本シリーズを終了することにしたい。最終回のテーマは、ウオータフォール開発のV字モデルに倣って、第1回のテーマ「なぜ今アーキテクチャなのか」を振り返り、その“TAKE2”としたい。

アーキテクチャ(構造)はおよそ人工的なものには必ず存在する。しかしそれを意識するかしないかが物によって異なる。通常、コモディティ化した物は、利用目的が達成できれば、その構造にはあまりこだわることはない。しかし、そうでない物は中身がどうなっているかに言及しないことには、それがもたらす効果や価値を説明することが難しい。さて、これを企業システムに照らし合わせてみるとどうなるだろうか。

確かにITの世界ではインターネットの普及に伴い個々のソフトウエアやサービスにおいてはコモディティ化が顕著になってきている。しかし企業システム全体を見た時はどうであろうか。近年、マーケティング戦略において脱コモディティ化を唱える企業は増えてきている。企業活動が差別化を求めるならば、これを支えるエンタープライズ・システムは、たとえ個々のパーツ(ERPも含む)のコモディティ化が進んだとしても、それを組合せた全体はコモディティにはなり得ない。まず、この事をしっかりと押さえておくことが重要である。

私がユーザ企業に入社した1980年頃は、企業システムは未だ創世期にあり、IT仕立ての業務領域も少なかったので、業務アプリケーションがバラバラに導入されても問題にならなかった。そこには“アーキテクチャ“の言葉さえ存在しなかった。そして30数年の時を経た今日、成長期に入った企業システムはその規模、複雑度合ともに数十倍以上に膨らんだ。次から次へと無秩序に増改築が施された企業システムは、あたかも古い温泉旅館の様相を呈し、やがて、情報品質や伝達スピードに関する幾つかの弊害が現れて来る。ここで始めて、”全体のかたちをコントロールする何か”が存在していない事に気づくことに。。。

企業は時代とともに、あたかも生命体の如く変化する。この変化を前提とした柔軟なエンタープライズ・アーキテクチャ(個別パーツのアーキテクチャではない)をどのように設計すれば良いかを考えるのは、ユーザ企業情報システム部門(又はIT子会社)の責務である。残念ながらIT・サービス提供ベンダーに、これを求めることはできない。場合によってはベンダー企業の利益相反にもなりえる。ユーザ企業側が、システム設計・構築をベンダーに丸投げし、このアーキテクチャの設計を放棄した結果の惨劇を、現在いたるところで垣間見ることができる。そして、その傾向はITガバナンスを利かせにくい大企業ほど顕著である。(幸いにも私の前職企業では1982年以来、データセントリックを貫いており現在もそのアーキテクチャは健在である)。

幸いなことに、企業システムは未だ発展途上の成長期にある。不幸にも全社システムがかなり“スラム化”してしまった企業でもまだ手遅れではない。成熟期を迎えるまでには相当の時間的余裕がある。本ブログシリーズには汚れたシステムを浄化するアーキテクチャも示されている。自社のアナーキー(無秩序)な状況に気づかれた際には、アーキテクチャ整備への始めの一歩を踏み出すことをお勧めする。今すぐにシステムが動かなくなるわけではないが、ITコストの限界到達、経営からの信用失墜を招いてからでは遅すぎる。

ところで、上記の企業システムの汚れに気付いていても自分の世代ではとうてい無理だとお考えの情報システム部門幹部も大勢いらっしゃるだろう。たとえご自分の世代で達成できなくても構わない。次世代が良い家に住める為の土台作り(アーキテクチャの青写真作り)を初めてみてはいかがだろうか。企業システムは企業自身と同様に、たいへん長寿な生き物である。よってユーザ企業の情報システム担当者は、世代を超えてアーキテクチャ青写真を継承し、これを変更管理してゆくことが求められる。さながら、それが情報システム部員が保有する共通のDNAの如く。

これからの企業システムはそのスコープが拡大されることで、従来の記録中心のSoR領域から、顧客満足を追求するSoEの領域に踏み出すことになる。そうなればなおさら企業独自のビジネス戦略に立脚したオリジナリティ溢れる企業システムが求められることになる。また、その段階では、IoT、ビッグデータ・AIによる新たな情報資源が登場し、ますますデータ資源の交通整理が重要となる。来るべき企業システムの成熟期を迎えようとする今、アーキテクチャ主導の企業情報システムでなければ、もはや経営に資することが出来なくなるに違いない。

 


以上、第100回「今なぜアーキテクチャが必要か?(TAKE2)」を最後に、本ブログシリーズを終了いたします。また新しいシリーズでお会いすることがあるかもしれませんが、その時まで暫しブログはお休みとさせていただきます。

長い間ご愛読いただいた読者の皆様、ありがとうございます。今後の皆さんのご活躍、また、皆さんが所属する企業のご発展を願っております。

2017年10月16日 (株)アイ・ティ・イノベーション
ビジネステクノロジー戦略部 中山 嘉之

 


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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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