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【第5回】 スキルの中身と人材の育成方法。

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さて今回は、いよいよスキルを身に付けるための具体的な方法について紹介しようと思いますが、その前にもう少しだけ“スキルというものは何か”について振り返ってみます。

スキルとは何か

会社では、“スキル”とか“職能”などの言葉はよく耳にします。
技術者であれば、自分のスキルが高いと回りから認められることは望みますが、私自身、技術者時代にスキルとは何を意味するのかをあまり深く考えたことがありませんでした。
しかし、自分がマネージャの立場になり後輩や部下を指導する機会が多くなるにつれて、改めてスキルについて様々な状況(問題)に直面します。
例えば、技術(テクノロジー)に精通している人間が、実際の仕事の中ではそれほど活躍できなかったり、あまり技術に詳しくない人間が、意外とプロジェクトの中でリーダーシップを発揮して活躍していたりするのを何度も目の当たりにします。
IT技術者であれば、テクノロジーに対する知識やスキルなどに傾倒するのは当然なのですが、どうやらそれだけでは、仕事のできる人材になるには充分ではないという思いが強くなっていきます。
だとしたら、仕事のできる人材が持つスキルとはどの様なものなのでしょうか。

実は、普段我々がスキルと一言で表現しているものは、大きく三つの要素で構成されています。
一つは、技術者におなじみの“テクニカル・スキル”ですが、その他に“ヒューマン・スキル”と“コンセプチュアル・スキル”が存在します。
テクニカル・スキルは、日ごろ技術者が強く意識しているところでもありますので、ここでは細かく説明しません。
ヒューマン・スキルとはいわゆる対人能力です。コミュニケーションやプレゼンテーション、ネゴシエーション(交渉)やリーダーシップなど、自分以外の人間と関わるための能力と言えるでしょう。
コンセプチュアル・スキルとは論理的思考や数値を扱う能力です。計算や統計に関する能力だけでなく、課題認識や問題と原因の構造を分析したり、その解決策を立案したりする能力などもコンセプチュアル・スキルと言えます。

実は私は、IT技術者のスキルを診断するサービスを何年も実施しているのですが、その統計情報から、IT技術者のスキルに関して様々な傾向がうかがえるようになってきました。
幾つか紹介しましょう。

  1. 技術者は企画やプレゼンテーションが苦手である。
    いきなり実もふたもない統計ですが、残念ながら多くの技術者が自分のアイデアをきちんと整理・体系化して分かりやすく人に伝えるのが苦手です。
    そうは言っても、仲間意識のある比較的親身な人間とのコミュニケーションでは特に問題はないらしく、普段上司や先輩の目から見てコミュニケーションに特に問題は内容に思える技術者でも、知らない相手に緊張を感じる状態で何かをきちんと説明するのはかなり苦手なようなのです。
    技術者は、肝心な場面できちんと物事を説明しないくせに、自分の専門分野ではやたらプライドが高く、周りの人に与える印象があまり良くない、などと言われてしまうのはそのせいもあるかもしれません。 当然ですが、営業系の人材では企画とプレゼンテーションはかなり得点が高くなります。

  2. 技術者は、改革や改善にそれほど積極的ではない
    これもやや残念な統計ですが、技術者だからといって物事の改革や改善に積極的かというとそれほどでもないようです。実は、技術者は一度憶えた仕事のやり方をあまり変えようとしない傾向が少しあるようで、営業系の人材の方が改革や改善に積極的だったりします。
    上記以外にも、問題分析や問題解決に対する行動が意外と消極的だという傾向がある反面、周囲に対する貢献やチームワークや仕事への責任などには積極性が見られたりします。
    日本のIT技術者の傾向を簡単にまとめると、比較的まじめで誠実ですが、内向的で意外に保守的、とでも言えるでしょうか。もちろん、全ての技術者がそうであるわけではないのですが、平均を取ると全体的には概ねそのような傾向が強くなるようです。
    このような統計を振り返ってみて私が特に問題を感じるのは、IT技術者は、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルをあまり積極的に鍛えていない傾向があるということです。
    更に問題なのは、「ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルは、年齢的に30歳代中盤以降あまり向上しない」という統計結果が出ていることです。
    ただでさえIT技術者はヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルの獲得に積極的でないのに、30歳も半ばを過ぎると、それを変えることも難しくなるのです。これは少し深刻な問題ではないでしょうか。
スキルの獲得に向けて

少し暗い話になってしまいましたが、仕切りなおして「どうやってスキルを身に付けるのか」という話に進めましょう。

まず始めにテクニカル・スキルの獲得は、技術職の人間であれば専門分野のスキルそのものですから、育成の材料にはあまり困っていないでしょう。
幸いなことにテクニカル・スキルは、年齢が高くなっても向上しやすいことが統計的に分かっています。 テクニカル・スキルは、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルと違って後天的に獲得しやすいスキルということです。
一般的なIT技術者向けの研修もテクニカル・スキルの向上に役立つものは非常に多くあります。ただ、ここで重要なのは、前回も説明した通り、社外の教育に頼るばかりでなく自分たちなりの人材像を描き、自分たちなりの方法論を持つということです。
また、スキルは8割方実際の仕事の中で身につくので、仕事を通じて部下や後輩に適切な課題設定を行いながら成長を促すことが大事です。
適切な課題を設定するためには、日ごろから部下や後輩を観察しコーチングする必要があります。
自分が先輩や上司として指導を行う立場になってきたら、コーチングのトレーニングを受けて見るのも良いかもしれません。
コーチングの学習をしてみると分かるのですが、ベテランになればなるほど、人材を育成するときにあまりやってはいけないことを、ついついやってしまっていることも多いのです。

また、課題設定を行うには専門分野に対する経験や見識が必要ですが、一般的なコーチングの学習では、専門分野の中身や具体的な問題解決の技術には踏み込みません。
先輩としてコーチングする時には、当然自分たちの専門分野の中での役割や責任に踏み込んで指導する必要がありますが、その時に役に立つのが人材像であり方法論ということになるわけです。
前回までは、人材像や方法論を具体化するためには、自分たちの仕事を振り返る必要があることを説明しました。テクニカル・スキルを育成する時には、どうしてもテクノロジーを中心に考えてしまうのですが、実は、仕事を中心に考える必要があるということを理解していただきたいのです。

一人ひとりの部下、後輩に適切な課題設定を行うには、一人ひとりの能力や業務遂行上の課題を認識する必要があります。この時技術者は、ややもすると、テクノロジーを中心に課題認識をしようとしてしまいがちです。
そうすると、テーマがだんだん仕事から離れていって、アカデミックな方向に逸れてしまうのです。 この時、仕事を中心に考えられた人材像を使って課題認識をすれば、自分に与えられた役割や責任から逸れることなく、課題認識を行うことが出来るわけです。
もちろん、上司や先輩としてもそのような道具を使って、仕事中心に部下、後輩を指導することに習熟する必要があるのですが。

さて、問題なのは、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルです。こちらのスキルは、獲得するのがちょっと難しいスキルになります。
この2つのスキルは、一般的な研修などを受講しても座学だけでは、やはり向上することがほとんど期待できません。そのため、この2つのスキルを獲得する場合も実践ということが非常に重要なテーマになります。
しかし、どうやったらヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルの実践的なトレーニングになるのでしょう。
実はこの点に関しても、幾つか非常に良い事例があります。

次回は、ヒューマン・スキルとコンセプチュアル・スキルの実践的なトレーニングや仕事の中での育成について紹介したいと思います。

(つづく)

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