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緩やかなマイグレーション(その1)

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今回から2回連続で、マイグレーション(移行)にフォーカスを当てたお話をしたい。1回目は、近年の複雑化した企業システムが抱える”汚れたマスタデータ環境”を少しずつ浄化する移行方法についてお話したい。ずばりその解決策は、MDH(マスタデータHUB)の構築により、スパゲッティ&サイロ状態のシステムを綺麗にすることである。既にこの環境をお持ちの企業の方は、軽く読み流していただければ良い。

仕掛はいたって簡単で、無秩序に散乱したマスタ群から共有度合の高いものを選別しこれをHUB上に一元管理し、利用する周辺システムに配信&同期することだ。このマイグレーションの特徴は、一気に最終形に持ってゆくのではなく、移行リスクの最小化を念頭に徐々に綺麗にして行くところにある。今回はその道程をご理解いただくため簡単な動画を作成してみた。アニメーションの1秒が現実世界の半年~1年程度と思って見ていただきたい。

MDM静止画

動画に沿って順に説明する。最初にシステム1~システム6が段階的に構築される過程でAマスタ、Bマスタ、Cマスタが無造作にコピーされ、結果としてシステム全体がスパゲッティ状態になる様を見て取れる(マスタの外枠が実線は正本、点線は複写)。途中、システム3やシステム5のように既存マスタがコピーされずローカルメンテとなった”サイロ化現象”も出現している。僅か3種類のマスタでこの有様で、現実の企業システムの状態は推して知るべしだ。

さて、ここから治療に入って行く。この状況を打開するため、中央にMDHを配備し共用性の高いマスタから順にHUB上に正本を配置。マスタデータの発生源システムから更新トランザクションを受信し正本マスタを更新する(赤色矢印)。ちなみに動画では省略したが、発生源が他システムではなくHUBに直結するエントリー画面のケースもある。次にこの正本マスタを要請のある周辺システムに配信し正本のマスタと同期する(オレンジ色矢印)。同期方法にはDBMSのレプリケーションを用いた密結合型と、差分データを送り周辺システム側でマスタ更新を行う疎結合型の2種類がある。

ここで1つ重要なことに触れておきたい。HUB経由でのマスタデータ同期に切り替わった段階で、従来のエンド・ツー・エンドでのマスターコピー経路(紺色矢印)は削除できるが、取り外すまではMDH構築プロジェクトのリスクヘッジとして機能する。またこのバイパス・ラインはHUB構築時の現新比較テストにも大いに活躍するものとなる。

1つのマスタが終了したら次のマスタに着手して同様のことを行う。周辺システムの要請が高いものから順に1つずつ着手~終了を繰り返す。このプロジェクトの完成は広義では全ての共通マスタがHUB上に載って運営されることを指すが、狭義では最初に手掛けたマスタの集配信環境が完成することだ。そして多くの共通マスタがHUB上に配備されているほど、新システムの開発時においてはMDHからのリンクから始められるので大いに工数短縮が見込める。

いいことずくめのようだが、唯一ここで運用上注意しなければならないことがある。MDHの存在をないがしろにデータ発生源のシステムから直接インターフェースしてしまう事である。「え?だってHUBがあるのにあり得ん?」と思われる読者も多いと思われるが、現実には多くの開発や保守が同時並行で走っている現場では十分に起こり得る。ベンダー丸投げ開発やシステムの緊急保守時にこれが発生し徐々にシステムを蝕む。”産地直送”がどうしても必要な時はしかるべき承認を得るというルールが必要だ。再び汚れたシステムに戻らないために。以後このルールは社内で守るべき大切な”アーキテクチャ・ポリシー”となる。

今回はMDHによる”マスタデータ環境浄化”の話をした。”緩やかな移行”はビジネスの継続性維持とエコの観点からも、巨大化、複雑化した昨今の企業システムには必須要件である。次回はトランザクションデータに着目し、TDH(トランザクション・データHUB)による”大都市整備計画”についてのお話をしたい。

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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