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新アーキテクチャへの”羽化”

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今回は本シリーズの原点に戻り、企業システムのアーキテクチャ転換を話題に取り上げてみたい。シリーズのバックナンバーでは「密結合から疎結合へ」、「データHUBを軸とした緩やかな移行」等のキーワードとともに、エンターブライズ規模のモダナイゼーションのあり方について、時には動画も交えて説明してきた。それでも時間の経過とともに変化する過程はなかなか説明しずらいものであり、この転換プロセスについて、もっとピンとくる説明を読者の皆さんにお届けできないかものかと常々考えてきた。

アサギマダラ

私は事あるごとに企業システムを都市や人体のメタファーに置き換えてきたが、本ブログではこのアーキテクチャ転換に至るプロセスを、”昆虫の羽化”に例えてみた。ちなみに、複雑系のシステムを考える際には、生物のメカニズムがしばしば役立つ事がある。今回、エンタープライズ・システムのモダナイズを人間ではなく蝶やセミのような昆虫の羽化に例えたのは、人類等の哺乳類では長い間の環境変異はあるものの、あまりに変化の速度が遅くモダナイズのお手本にはなり難い気がしたからである。短期間で蛹(さなぎ)の中の幼虫が劇的にその体を改造して美しい成虫への”完全変態(メタモルフォーシス)”を成し遂げる昆虫の羽化の方が、お手本にするには相応しいのではないかと考えた。

図1に古いアーキテクチャ(密結合によるスパゲッティ状態)から、徐々に新たなアーキテクチャに変化する過程を、蝶が蛹(さなぎ)から成虫に羽化する過程と対比しながら描いてみた。最初に、その変化に要する期間であるが、昆虫(もんシロ蝶)の場合は蛹から羽化までが約2週間程度らしいが、企業システムはどうであろうか?私の過去の経験からみて早くて24ヶ月(約2年)といったところであろうか。企業規模や既存システムの汚れ具合(スパゲッティ度合い)によっては、4~5年を要することもあり得る。このように転換に要する時間は比べものにならないが、両者の共通点は完全に新しい姿に変わるまでは古い体(からだ)の構造がその細胞とともに生きているという事である。

新アーキテクチャへの”羽化”さて、肝心の変態時のメカニズムであるが、未だに謎が多く解明されていない事も多いのだが、蛹の中で幼虫が酵素を出し体の大部分の組織を壊し、たんぱく質を組成することが分かっている。幼虫のいくつかの器官はそのまま残り、筋肉のような組織は再利用できる細胞の塊に解体されるようだ。文献では「レゴの模型をバラバラにするようなもの」と書かれている。そして、いくつかの細胞は、触角、目、足、羽など成虫の体のパーツを作る原基となるそうだ。蛹の中のドロドロのスープは、いわば有機物のつまっただし汁のようなものらしい。

ここでいささか無理は承知の上で、この自然界で最もすばらしい現象の1つを、企業システムのアーキテクチャ転換に当てはめて考えてみたい。生物の主要な構成要素の“たんぱく質”を企業システムに当てはめてみると、さしずめ“データ”1粒、1粒がこれに相当する。幼虫から保有し続け、そのまま成虫まで残るいくつかの器官があるとのことだが、システムがどのような形態になろうとも、普遍的に必要となる“全社共通マスターデータ”や“共通トランザクションデータ”が、これに相当するのだろう。そして、長年にわたり単一目的でしか使用されなかった個別に散在したデータやプロセスが、一旦、小間切れに解体されて、疎結合で柔軟性のある多目的利用可能な形に組み上げられることで、スラム化した既存システムが再構成されて新たなスタートをきることができるのである。

望むべくは、企業システムにおいても、地を這うことしかできない蝶の幼虫が大空を飛び回れるような、機能面で大幅な豹変を遂げることであるが、残念ながら歴史の浅い企業システムには、昆虫のようにDNAにその過程が刻まれていない。企業システムにおいては、この新たなアーキテクチャへのたんぱく質の組み換え手順に相当するものが、データやプロセスのリモデリング(再設計)のノウハウである。ここでのモデリングのパターンや構築事例が記録として蓄積され皆で共有されて行けば、いつの日か蝶やセミのように高い成功確率でこれを成し遂げることができるようになるに違いない。また、システムのリモデルには単一ではなく複数の解があり得るかもしれない。

このノウハウ共有の為には、日本も欧米のようにユーザ企業のモデル事例のネット公開や、産業別モデルパターン集のサイト開設など、ノウハウの共有に積極的に取り組む必要があるだろう。複雑化、巨大化したシステムの再構築が活況を呈してきた今日、わずかでも成功事例(若しくはアンチパターン)を各企業でシェアーすることが極めて重要である。羽化に失敗し、蛹から永遠に成虫になれないケースだけは何としても避けたいものである。

参考文献:NATIONAL GIOGRAPHIC 3-D Scans Reveal Caterpillars Turning Into Butterflies POSTED 05/14/2013

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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