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【第12回】段取りの二:おでん屋のスープを明確化する

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計画の「中身」の作り方、前回はプロジェクトの“目的“を明確化する方法について説明しました。今回はその目的を達成するために、プロジェクトで「何を作らなければならないか、何をやらなければならないか」、すなわち「プロジェクトのスコープ(範囲)」を定義するというテーマで考えてみたいと思います。

ええ、本当は「おでん屋の“スコープ”を明確化する」と書きたかったのです。間違えて“スープ”になってしまい、個人的に面白かったのでそのままにしておきますが・・・。そして、夏には絶対聞きたくない“おでん屋“というアツアツのキーワード、おでん好きの私はこちらも変えませんよ!

前略 この夏、僕はおでん屋で失敗しました。

きっと君は知らないと思いますが、僕の住む町では毎年住民の手による小さな夏祭りが行われます。
田舎町の割には大掛かりな花火もあり、その日は朝から町内全域に浮き足立った空気を感じる程で、大人になった今でも僕はこの祭りを楽しみにしているのです。
ところが、今年はひどく苦労することになってしまいました。祭りの会場となるグラウンドに何件か屋台を出すのですが、僕がおでんの屋台を準備することになったのです。今思えば、「ここで断っておけば・・・」と後悔しきりですが、日曜大工が趣味の僕ですから、その時は「よし、ひとつカッコイイ屋台を作ってやろう」と、腕を鳴らして引き受けてしまった訳なのです。

祭りの前日までは楽しかったのです。ホームセンターで調達してきた木材や鉄パイプを加工し、自分でも感心するような力作が完成しました。私の頭の中には、以前テレビで放送していた“プロジェクト”を題材にした人気番組の、あの印象的な主題歌が流れていた程です。
しかし、夏祭りの日、おでんの販売を担当する近所のおじさんに屋台を引き渡した時、問題が起こってしまったのです。

まず、おでんのスープがありません!おでんのネタはおじさんが準備すると言っていたので、すっかりスープも一緒に用意してくれていると思っていました。しかし、おじさんは熱々のスープが入った状態で屋台が用意されているとものと考えていたようです。さらには、ディーゼル発電機やガスボンベもありません。もちろん電球やガスコンロは屋台に取り付けていたのですが、発電機や燃料まで準備することは考えていませんでした。
「おいっ、どうするんだよ!」と、おじさんはケンカ腰で詰め寄ってきます。「そんなこと言われても!」と、僕も反論しようとしましたが、言い争っている場合でもありません。不本意ながらもとりあえず謝り、おじさんと協力して発電機やボンベの手配と、スープ作りを急ぐことにしました。

結局、おでんが食べ頃を迎えたのは、フィナーレの大玉花火によってグラウンドが歓声に包まれた後でした。
まぁ、仕方ないのかも知れませんが、今回の責任を取って来年も僕が屋台の準備をしなければなりません。来年の夏祭りには是非君を誘いたいと思っていたのですが、今年と同じことが起こるかもしれないと考えると少し気が引けています。

ちなみに同封の写真は、おでんを煮込みながら少しだけ撮ることが出来た花火と、大量に余ったおでんをおじさんと二人でつついている時のものです。
またお便りします。それまでお元気で。
草々

「常識は人によって違う」、後でモメないために

プロジェクトを成功させるためには、スコープをあらかじめ明確化しておくことが必要不可欠と言えます。
プロジェクトで出来上がるもの・やることが曖昧なまま作業を進めると、「このプロジェクトでそこまでやる必要があるなんて、聞いていないよ!」、「いや、これをやるのだったら普通それも一緒に作るでしょう!」と言った“モメごと”が必ずと起こってしまいます。

そのような問題を防ぐためには、なによりもプロジェクト計画時にスコープを文章や図で“明瞭”に定義して、関係者達とあらかじめ合意しておくことが重要です。
「相手もちゃんと分かっているだろう」とか、「ここまでやるのが当たり前だろう」とか、そのような“推測”は厳禁です。スコープを明確化する際には、「常識は人によって違う」と言う前提で、多少くどくなったり、しつこくなったりしたとしても、きっちりと確認を取らなければなりません。

どのようにスコープを明確化するのか

では、具体的にどうやってスコープを明確化すれば良いのでしょうか?

まず、しっかりと情報を集めることです。効果的なのは類似する事例を参考にしながら確認を行うことです。先程の“僕の屋台作り”プロジェクトであれば、「前年はどのように屋台を準備したのか話を聞く」とか、「プロのおでん屋さんの実際の屋台を見学に行く」などによってあらかじめ情報を得ておけば、“モレ”を防ぐことができたかもしれません。また、プロジェクトのステークホルダー(関係者)から、「プロジェクトに対して、何を、どこまでやることが期待されているのか」を十分にインタビューしておきましょう。このプロジェクトでは、おでん販売を担当するおじさんや、祭りの責任者などが主な関係者となります。

情報が十分に集まったら、スコープの定義を紙に書きます。ここで、スコープは2種類あることを思い出してみてください。
「プロダクトスコープ」・・・出来上がる「もの」
「プロジェクトスコープ」・・・やる「こと」
でしたね(忘れた!という方は、第3回の「紡ぎ出される、PMの横糸(1)」を参照)。
出来上がる「もの」によって、やる「こと」も変わってきますから(例えば、屋台にスープを付ける必要がなければ、スープを仕込む作業も不要になります)、“プロダクトスコープ”→“プロジェクトスコープ”の順番で考えて定義します。

スコープを定義する際のポイントは、「境界を明らかにする」と言うことです。言葉だとちょっと分かりづらいので図1を見てください。

図1 スコープの境界
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スコープを明確化すると言うことは、つまり図1のグレーの部分をハッキリさせると言うことなのです。範囲の内部はあっさりとした定義で構いませんが、範囲の内か外か“微妙”な部分は精緻な定義が必要となります。また、グレーの部分をハッキリさせるための手法として効果的なのは、

「作らないもの、やらないことを明記する」

ことです。
人は否定的なことを明確に相手に伝えることが手です。「これはやりません、それから、あれもやりませんよ!」などと言って、「なんだか非協力的な感じだなぁー」と嫌がられるのが怖く、つい「曖昧なことを曖昧なまま」進めてしまいがちです。もちろん、言い方に注意する必要はありますが、ここでスコープ外のものを明らかにしておくことによって、後でモメごとに発展する事態を回避出来るのです。

スコープの定義を書き終わったら、それを関係者達に十分に説明し、「分かった、OK!」との合意をしっかりと取っておきます。これで計画段階でのスコープの明確化は終わりです。

拝復 お手紙ありがとうございます。

おでん屋さん、とても大変だったようですね。写真の花火が綺麗でとっても素敵でした。でも、ごめんなさい。おじさんと一緒に映った写真のあなたの泣きそうな顔には思わず笑ってしまいました。

さて、お手紙をいただいた後、私は“プロジェクトマネジメント”という言葉を知ることになりました。“おでん屋 プロジェクト”でインターネットを検索していて、偶然「ザ・プロジェクトマネジャーズ PM力であなたも組織も強くなる!」と言う、なんだか大仰なタイトルのページを見つけたのです。
読んでみると“プロジェクトマネジメント”なる小難しい概念がとても分かりやすく解説されていて、とても役立つWebサイトだと思いました。だんだん興味が湧いてきて、これから何冊か本を買って勉強するつもりです。

そして、思ったのです。来年のあなたの屋台作り、私も手伝いに行こうかなって!
あなたの頭の中で“あの“主題歌が流れたように、これはやっぱり“プロジェクト”なのです。だから、私がプロジェクトマネジャーになってあなたと二人三脚でこのプロジェクトを進めれば、きっと順調に終わらせることができるのではないかと考えたのです。ちゃんとした計画さえあれば、後は手先が器用なあなたが屋台を作って、後は無事二人で夏祭りを楽しむことができるのではないかと考えたのです。
例えば、私がプロジェクト計画書にこんな風に書けば、絶対うまく行くと思いませんか?

2.プロジェクトの範囲
2.1.成果物(プロダクトスコープ)
・ 小規模イベント向けおでん屋台
  おでんを調理するための設備と器具(おでん用鍋、菜箸、おたま、包丁、まな板、作業台、ガスコンロ)
  調理したおでんをお客様に提供する際に使用するカウンター設備
  リヤカーによる屋台移動機構
  照明装置
  販売促進用の暖簾とちょうちんをそれぞれ1個ずつ
・ 手洗い用、ゴミ捨て用の大型ポリバケツ(合計2個)
・ 屋台の設計図書(来年以降の屋台開発の参考資料として町内会長に紙媒体で提出)
<プロジェクト対象外>
・ 飲料(水、茶、ジュース、アルコール飲料など)を提供するための設備
・ 水道から水を引くための機構(ポリバケツを付近の水道に運んでの給水を想定)
・ 屋台の取扱説明書(販売担当者への口頭での説明を予定)
・ お客様用イス(テイクアウト形式のみでの商品提供を想定)
・ おでんの材料と調味料(ネタ、スープ、カラシなど)
・ ガスコンロ用燃料(ガスボンベ)、ガスコンロへのガス供給用チューブと留め具
・ 照明用の発電機と燃料、照明器具までの電力供給用接続ケーブル
・ お客様へのおでん提供に利用する什器類(使い捨ての皿、箸、おしぼり)
・ 雨天時に販売を継続するためのビニールシート
・ ゴミ袋
・ 現金出納箱と計算機、メニュー・価格表

2.2.実施範囲(プロジェクトスコープ)
・ おでん屋台の制作(工具・材料の用意・調達、設計作業を含む)
・ 制作したおでん屋台の試験と不具合の修正
・ おでん販売場所(○○小学校グラウンド)への販売開始前の屋台の移動・設置
・ おでん屋台の設備、器具の取り扱い方法の販売担当者(1名)への説明(15分程度)
<プロジェクト対象外>
・ 照明器具と発電機、ガスコンロとガスボンベの接続作業
・ おでんの調理と販売、宣伝業務
・ おでん屋台の保守・運用、屋台引き渡し後のトラブルへの対応
・ 売れ残ったおでんの処理と、おでん屋台の解体・処分・廃棄

町内会の夏祭りをここまで厳密に考える必要があるのかと、あなたは疑問に思われるかも知れません。しかし、このケースはきっとプロジェクトマネジメントの良い練習になるのでは?と思ったのです。
忘れないうちに、今年の夏祭りで作成した屋台の見取り図、そして部品と実施作業の一覧をリストにまとめて送ってください。事例として参考にしたいのです。

それから、私の浴衣を新調しておきますね。来年の夏を楽しみにしています。
かしこ

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Profileプロフィール

弘中 伸典
弘中 伸典
1994年、徳山工業高等専門学校情報電子工学科を卒業。 SIベンダーに入社後、数々のシステム開発の現場で活躍。そこで得た多くの経験に感謝しつつも、IT業界における構造的問題に一石を投じるべく株式会社アイ・ティ・イノベーションに参画。問題の原因は、プロジェクトマネジメントの欠如にあると考え、日々のコンサルティング業務を通じてその必要性を訴え続ける。 専門領域は、プロジェクトマネジメントおよびシステム開発プロセスの標準化、PMOの設置と運営、IT投資マネジメントなど。 責任と誠意を持って問題解決に取り組む姿勢を大切にしている。 PMP(Project Management Professional)資格 保有

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