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平鍋 健児さん(2) 永和システムマネジメント 取締役

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平鍋健児さん平鍋 健児さん
永和システムマネジメント 取締役
1989年東京大学工学部卒業後、3次元CAD、リアルタイムシステム、UMLエディタJUDE(現 astah* ) などの開発を経て、現在、株式会社永和システムマネジメントでコンサルタントとしてオブジェクト指向、アジャイル開発を研究・実践。マインドマップとUMLの融合エディタ、JUDE(ジュード 現 astah* )を開発。オブジェクト倶楽部を主宰。
XPに関するメーリングリストXP-jpを運営。酒と映画と福井を愛する。
翻訳書に「アジャイル プロジェクトマネジメント」(日経BP社)「リーンソフトウエア開発」(日経BP社)「XPエクスストリーム・プログラミング 導入編」(ピアソン・エデュケーション)、「マルチパラダイムデザイン」(ピアソン・エデュケーション)などがある。
参考URL: オブジェクト倶楽部  JUDE(現 astah* )

地元貢献のメセナが事業の一つに

平鍋健児さん

能登原
ちなみに、社員は今何人くらいなんですか。

平鍋
だいたい200人くらいです。金融の基幹系の開発、医療のシステム開発がもともと得意な会社です。第3次オンラインの開発参加がきっかけで、そこで大きく伸びていますね。今でも金融系と医療系の開発が会社の大きな柱です。逆に、地元・福井の仕事は実は多くはないんです。

能登原
パンフレットを拝見しますと、永和システムさんは80年の創業以来、金融機関向けと医療機関向けのシステム開発で順調に伸びてきて、それに平鍋さんが入ることで新しい流れをつくった感じですね。

平鍋
私が、ということではありませんが、自主的なビジネスとして、オブジェクト指向を利用したサービスやコンサル、JUDE(現 astah* )などのUMLソリューション、それに教育未来支援事業などは新しい流れにあたります。

例えば、この「開発プロジェクト体験コース・ULM・ROBOLAB編」はレゴを使ったロボットを使って教育をしようというものなんですけどね。中学生向けの教材も作っていますし、企業向けの新人教育の教材としても活用されています。

能登原
これはぜひとも大学に売り込むといいですよ。大学には演習があって、僕もパルスモータでプリンタを動かすプログラムかなんかを実習したんですが、こっちの方が断然面白いです。

平鍋
そうそう、面白いんです。もともと何でこんなこと(ロボット)をやっているかというと、2000年にうちの会社は20周年だったんですが、その時に、何かうちの会社が地元の福井に貢献できることがないかと考えたんです。その時に思いついたのが親子プログラミング教室だったんですね。で、会社に集まってもらい、親子でロボットを動かすプログラミング教室「ロボット・キャンプin 福井」をやりました。今年もやっています。

そもそも、うちの社員の悩みの一つが、家に帰って「お父さんって会社で何やっているの?」と言われても、なかなか分かりやすく答えられないということだったんです。そこで、お父さんに子供を連れて来てもらって、子供と一緒にロボットを組み立てたり、プログラミングをちょっとやってもらって実際に動くものを作ってもらいました。そうしたら、大概の家庭では、お父さんの仕事をすごく認知しましたよね。

能登原
それはすごい。

平鍋
それを始めたら人気があったので、2〜3年やったんですけど、それは全くのメセナとしてやっていました。どうせならそれを事業化しましょうということで、今、中学校の教材とか企業教育用に販売しています。

能登原
なるほど、そういう経緯で事業化されたんですね。

平鍋
僕がロボットをレゴで作ろうと発案したら、レゴ好きな人がうちの会社にもうひとりいて、その人は当時金融担当だったんですけれど、「これ、こんな面白いことができる」とタッグを組んではじめました。それに、さまざまな優秀な人が加わって現在の形になっています。

能登原
これは絶対に面白いですよ。特に中学校くらいなら、しっかりと心に残ると思います。

平鍋
そうでしょう(笑)。僕の一環したテーマは「見える化」なんです。オブジェクト指向もソフトウェアの「見える化」だし、このレゴロボットもソフトウェア開発の全行程の「見える化」ですよね。それからプロジェクトファシリテーションもプロジェクトの「見える化」だし、やっぱり見えるようにしないといけない、という気持ちがすごくあるんです。

XPとの衝撃の出会い

平鍋健児さん

平鍋
その「見える化」でも、最初はテクノロジーをずっと追い求めていたけれど、それからプロセス、つまりどうやって作っていくのかに興味が移って、そのあとさらに「人」に興味が移ってきました。

能登原
それに関してお聞きしたいんですが、平鍋さんがアジャイルに興味を持たれたのはいつくらいからですか。

平鍋
2000年ですね。2000年にXPの本を読んだ時です。それまではプロセスというと定義されたものであって、成果物一覧というか、要件的にはこのドキュメントを作っているかどうかというのを定義してそれを実行するというものだったでしょう。でも、違うんじゃないかと思っていたんです。

能登原
どこかのWebページ(*注1)に「この本を絶対に自分で翻訳するんだと思って、出版社に売り込んだら既に翻訳されていた」という話が載っていたんですけれど、その本ですか。

(*注1)オブジェクトの広場 2000年11月号

平鍋
ええ、そうです。このXPとの出会いは、すごく大きいです。その本を読んでいる時に、「これは絶対僕が書いた本や!」と思ったんですよ。「これは僕の言葉だ!」と思うくらい同化したというか、思っていることと、書いてあることが一致しているわけです。

能登原
その時に、自社の仕事にこれがあればいいな、ということがそのまま書いてあったんですか。それともこうあるべきだな、と思うことが書いてあった?

平鍋
こうあるべきだなと思いました。衝撃的でしたね。でも出版社に問い合わせたところ、既に他の人に翻訳権を取られていたので、じゃあ、Webサイトだと、その日のうちにXPのWebサイトを作りました。

能登原
私も今は仕事の大半がコミュニケーションとマネジメントですが、以前はシステム構築をやっていたものですから、やはりテストを最初から考えて作っていました。XPの「テストバージョンを考えながら」というあたり、本当にプログラミングベースでみんなでチェックしながらやっていましたから、そのへんにすごく共感するんですよね。

平鍋
そうなんですよ。小規模で、かつ、ちゃんと作ろうと考える人は、大体テストを最初から折込み済みで考えます。「どうやってテストしようか」ということをね。

テスト戦略というのは、即、品質に影響するはずなんですよ。あと、問題が起きたときに追跡できるデバッグのための構造を最初から入れたりしますよね。

能登原
します、します(笑)。

平鍋
で、「このテストが、ここでこうチェックしないといけないから、これを最初から埋め込んだんだよ」と最初から考えて設計して、ということをしていたんです。それをやらないとわからないんですよ。

能登原
それはわかりませんよ。見えないですからね。

平鍋
まずその発想がありますね。
あとXPの話では、「ものを一緒に食べることの重要性」だとか、「お客様との会話を大切に」とか、「えっ、開発方法論の本にこんなことを書いてある。どういうこと、これ?」という驚きがありました。人間特性を上手く使っている感じで。

能登原
そうですね。

平鍋
要するに自然に逆らっちゃいけないんですよ(笑)。ちゃんとそれを分析しているかは置いておくとしても、人間の行動特性に逆らうようなことはモチベーションを上げないし、だいたい上手くいかないですね。

能登原
ツールとかパソコンはあるけれども、基本的にはソフトウェアは人間の脳が製造装置ですよね。だからものづくりに工場の環境が大切なように、やっぱりその人間を大事にする環境がないとおかしいという発想は当たり前かもしれません。

平鍋
そうそう、そのとおりなんです。XP本が出た時に、大切な価値は「コミュニケーション」と「シンプルさ」と「フィードバック」と「勇気」であると書いてあった。プロセスの本に「勇気」って言葉がでているのがすごいでしょ。つまりそれは人間が作り出しているからなんです。装置が人間だから、そういうことが価値になる。それが腑に落ちないといけないんです。

能登原
平鍋さんが今までいろいろおやりになって、もやもやと思っていたことがXPではそのように表現されていた。

平鍋
そうですね。問題認識として、輪郭をはっきり切り取っていましたね。

能登原
そこから、さらに人間にと興味が移るわけですね。

平鍋
アジャイルの考え方って、いろいろな知的生産活動に使えますよね。まず対象範囲をもうちょっと広くして、ソフトウェア開発に限らず、知的生産活動をしている人のためのツールとしたい、ということがひとつあります。それからアジャイルだけじゃなくて、トヨタ生産方式からも、ファシリテーターの技術からもいろいろなものを引っ張ってくれば「どうしたら人が上手く働く場を作れるのか」という原則を発見できるのではないかと思うんです。そもそもは、仕事そのものを楽しくやりたいんです。そのためにはどうしたらよいか、ということなんですよ。

能登原
実は仕事を楽しくやりたい、みんなに楽しくやってほしいというところに帰結していくんですね。だから平鍋さんはプロジェクトファシリテーションを推進している。

エンジニアが楽しく仕事ができることを目指そう

平鍋
ええ。まずプロジェクトファシリテーションの目的は、プロジェクトの成功と、QoELの向上なんです。

能登原
QoEL?

平鍋
僕が作った造語なんですけど。「クオリティー オブ エンジニアリング ライフ(Quality of Engineering Life)」(笑)。

能登原
あ、なるほどね(笑)。

平鍋
僕たちエンジニアでしょ。で、エンジニアはどういう時にうれしいのかって会社で聞くと、「顧客からありがとうと言われた時」、「この先輩と仕事ができてよかったというような先輩に出会った時」、それから「あることに気づいて、それを仲間と共有できた時」というんですよ。そういうことがうれしいんだから、それをやりたいと。

能登原
それは面白いところを見ていますね。

平鍋
そのQoELをプロジェクトの中でも大切にしたい。それはプロジェクトの成功とどっちを取るのかという話じゃないんです。まあ、誰が成功を定義するかによりますけれどね。QoELがあってプロジェクトが成功して初めて、そのプロジェクトは成功だったと言える。そうじゃなきゃおかしいんです。

能登原
おそらく平鍋さんがここに至るまでには、非常にモチベーションが低い中でやらざるを得なかったプロジェクトとか、チームがごちゃごちゃになったプロジェクトとか、いろいろ体験されてきたんでしょうね。

平鍋
ありますね。いろいろあります。言葉に尽くしがたいくらい(笑)。ただ、その中でお客さまに感謝されたことは、自分の成長にすごく役立っているし、それはそれで、すごくキラキラした自分の人生の中の思い出になっているんです。プロジェクトは成功させる必要がありますが、かといって、犠牲にしてはいけないものもある。その中にある大切な人生の時間(QoEL)をちゃんと認識したい。そういうこと抜きで成功を語るべきじゃないと、僕としては言いたいんです。

能登原
プロジェクトファシリテーションについてのレジュメを拝見すると、非常に具体的ですね、必ず打ち上げをやるとか。あと、エクセルファイルをただサーバに置いて「見てね」ではいけないとか、なるほど、と思うことがいろいろあったんですけど。

平鍋
ありがとうございます。ただ、それはあくまで例であって、その通りでなくてもいいんですよ。極端に言った方がわかりやすいということで例を挙げています。例えば、今、僕たちは現在中国と日本の間で開発をしているので、どうやったらうまくプロジェクトを進めることができるか、それはそれでご覧頂いたレジュメにはない新しい工夫してやろうとしています。

能登原
中国との開発というのは、向こうからアプローチがあったんですか。

平鍋
両方かな。はじめはやっぱり人のつながりです。うちの会社のねらいとしては、10年かけて中国市場で何かやりたいというのはあります。それはもう中国という広大な国の成長を考えたら市場自体大きいだろうし、何かのつながりをもっておきたい。それは今のアウトソーシングみたいにぼっと投げてではどうもならないので、信頼関係を作るということをまず第一目標において、始める前には、お互いに「私たちのそもそものWinは何であるか」と宣言書を交わして、両者で合意して始めています。最初、中国のエンジニアを福井に1ヶ月呼んで研修して交流して、帰って。次に日本のエンジニアが行って、そこでまたやって、また戻って。

能登原
じゃ、かなり実際に人が対面で動いているんですね。

平鍋
はい。ただ、その間にSARSが起きたりして、思ったように行ったり来りができないこともあるんです。その間はメッセンジャーでチャットしたりとかね。もともと顔を知っている同士だから、なんとかコミュニケーションができる。それから今は、中国の人に一名こっちに来てもらっているし。お互いのサイトに向こうの状況をわかっている人を必ずひとり入れて朝会をしてとか、そのへんは現場現場に合わせて工夫しています。

能登原
今中国に進出している企業が困っていますよね。オフショアで中国に仕事を出しているけれど、マネジメントをどうしようかと悩んでいる話をよく聞きます。たいてい相手側に日本人がひとり出向し、こっち側にも中国の人がいてという感じでしょう。

平鍋
いわゆるブリッジエンジニアですね。でも、それもね、「ひとりちゃんとつけていますから」と責任の押し出しになっちゃうと、お互いにうまくいかないんです。信頼関係という意味ではどうでしょうね。

能登原
なるほど。中国でのコラボレーション相手の会社はどのあたりですか。

平鍋
上海です。

能登原
福井から上海へ。いろいろな方向に「見える化」が広がっているんですね。

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能登原 伸二
■株式会社アイ・ティ・イノベーション 取締役 兼 専務執行役員 ■株式会社ジャパンエナジーの情報システム部門において、長年、情報システムの企画、開発、運用までの幅広い業務に携わり、ITによる業務改革、収益向上を支援してきた。また、その実務を経験する中で、システム開発における開発方法面の必要性を認識し、C/S向け開発方法論の制定、導入を推進。常に顧客と共に考え、行動し、成果を上げることをモットーとしている。

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