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【連載:DX超入門】その7 DXを成功させるためには、何が必要か

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さて、これまで「DX成功のための4つのポイントとDX推進を妨げる壁」について、ひとつずつ順に説明してきた。

DX成功のポイントの第三番目は、DXに関わる方法論・アプローチである。
まずは、ITアーキテクチャ視点でのDXの対象領域を見てみよう。以前のブログで説明したように、顧客中心のドメインと企業の内部のドメインに分けて、ITアーキテクチャを照らし合わせてみることにする。

図「ITアーキテクチャとアプローチ・手法 その1」の、向かって左側の先端IT導入に関わるIT(顧客系の仕組みであることが多い)のキーワードは、クラウド、モバイル、データアナリティクス、ソーシャルメディアなど、比較的新しい技術が基盤となる。顧客や市場の変化に素早く応え、使いやすく、ITの多様な変化に対して柔軟に対応できるアーキテクチャが求められている。どのような結果を望むかは、当然ユーザーが決めることである。

一方、右側の伝統的で歴史のある基幹業務の仕組みは、安定した業務を確実に運営するための従来の伝統的ITアーキテクチャ中心に構成されている。つまり、会社組織を運営するために長期にわたって努力してきたために、新しいアーキテクチャを導入するニーズよりも、事業の継続性に注力する仕組みとしてつくられてきたものだ。しかし長年に渡る多くの改修のために密結合になり、ブラックボックス化し、結果として柔軟性に欠ける状況になってしまった。多くの基幹システムが老朽化して経営リスクが増大していることが、今、話題になっている2025年問題である。

図で示している重要な点は、2つの異なる仕組みを協調して変化させていかなければならないということである。この部分は、主にシステム部門が中心に努力してきた。システム部門は長期間に異動も少なく、長い間同じ技術に没頭してきたために、保守的な考えになり、新しいことや変化は大きなリスクであると思い込み、挑戦できないカルチャになっていることがしばしばある。組織がシステム部門の人を頼りにし、成長させなかったことに原因の一端がある。これらの人材が旧来の仕組みを守ってきたIT人材をモード1人材とする。モード1人材は、自分の成長を犠牲にして、組織に十分貢献してきたと私は考えているが、今後の活躍という点では重い課題が残る。

一方、先端ITの導入など新しいことを視野に入れて、比較的新しいITアーキテクチャを適用する人材は、モード1人材とは全く異なり、柔軟な発想でアジャイルにシステムを設計・導入できる人材である。モード2人材は、ユーザー側に極端に数が少なく、育成もしていない。
実は、新しいITアーキテクチャはベンダー経由で導入されるので、ITの提供側に多く存在するが、ITのソリューションに関われる人材の数はまだまだ少ない。

組織全体を見渡せば、2つの仕組みは、それぞれで設計すれば済むというものではない。2つの異なる仕組みを連動させて、新たな価値を創出しなければ、組織は生き残れない。
例えば、販売システムにAIを導入し、商品やサービスのレコメンデーション、予測などを行う仕組みには、基幹システムのデータ活用が必須であり、さらには、画像情報やSNSのデータなどを付加し連動して初めて一つの仕組みとして機能する。

この状況は事実であり、代替案は無いと考えてよい。

それでは、2つの異なる仕組みはどのような手法・方法論で構築するかについて、話を進めることにする。

図「ITアーキテクチャとアプローチ・手法 その2」について、解説しよう。

これまで、図「ITアーキテクチャとアプローチ・手法 その1」では、2つの仕組みが異なったITアーキテクチャで構成されていることと、2つの仕組みを担当する人材は異なることを説明した。

いずれにせよ、良い仕組みを作るためには、適切なアプローチと適切な方法論の適用が成功要件となる。方法論を適用するのは、人である。人の能力が伴わなければ、良いシステム設計・構築は実現できない。私が、敢えて“方法論”という言葉を使うのは、単に技術適用の方法ではなく、“思想の違い”があるということを分かってもらうためである。言い換えれば、ITの仕組みを創造する際には、対象により“ITの哲学が異なる”ということを理解してほしい。実際、方法論の使い手は人材ということになる。適切な手法を操れる人材こそが重要なのだ。
私が、人材という場合、ITのある種の技能のある人材という意味ではない。ITを伴うビジネスの仕組み構築は、技術だけで解決するような単純なものではなく、ビジネスカルチャ、ITの哲学、正義感、感覚・センス、思考方法など、人と社会を構成する様々な要素が関係する。技能は、訓練、勉強で身に付くが、人格やセンス、哲学はそうではない。そうではない要素が、最も重要なのだ。

モード2人材に求められることは、IT哲学を持ち、創造性を持って“試行錯誤をできる人材”ということになる。胆力も必要要素になる。PoCは、一言でいえば、簡単には出来ないことを諦めず、試行錯誤に対処する方法である。デザイン思考、アジャイルなどキーワードをよく耳にするようになったが、同様の方法である。

一方、モード1人材は、確立された方法論で、実直に要求を仕様に落とし込み、確実に実現することができる人材である。フェーズドアプローチやモデルベース開発も、確実に要件を実現する方法のカテゴリーに入る。複雑怪奇になったぐちゃぐちゃなデータを疎結合化する方法として、代表的なのものに体系化されたMDM手法がある。アジャイルやデザイン思考では、データの疎結合化ができる筈もない。そこには、既に確立された唯一の方法があるのだ。経営者やプロジェクトの責任者が、その方法を知らないだけである。また、ITエンジニアも知らない人が多い。

モード1人材からモード2人材への変換は、不可能とは言わないが、かなり難しいと考えた方が良い。長年身に付いたカルチャは、簡単には変えられない。技術は意欲があれば身に付くが、この意欲は、カルチャ、マインドに起因するので、変革には時間がかかる。

ITの多様性に着目すると、ここ20-30年の間に、ITの世界は多様性が深まっており、複数の種類の能力を持ったエンジニアが求められるようになったと言える。それだけ、求められる専門性は多様になり、活用、活躍のしかたは難しくなったと言えるのだ。だからこそITプロフェッショナルにとっては活躍の場でありチャンスと言いたいのだが、困った顔をするIT従事者も意外に多いことは、まことに残念である。

異なる能力を持つ専門家を集め、全体をまとめ上げる強力なリーダーを揃えることが、プロジェクトの開始条件になる。今まで丸投げに近い形でITを運営してきたユーザーの役割も、従来と大きく異なる。自分たちのビジネスは、自分たちで挑戦し、自分たちで意思決定をするユーザーが本当に必要になる。(このことは、本来、当たり前のことであるが)ITに関わるハードウェア、ソフトウェア、ITエンジニアは、金や力で購入することは出来るが、ITを徹底活用したビジネスの仕組みを構成するIT哲学、思想、カルチャは、金では買えない。新たなビジネス創造に向けたマインド、カルチャ、熱意の醸成こそが、成功不成功の決定要因になることを肝に銘じよう。

哲学、カルチャチェンジを伴い、ユーザー主導のプロジェクトに是非、取り組んでいただきたいと、筆者は願っている。


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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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