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物理アーキテクチャのHEART(1)

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前回は、企業のアーキテクチャ全体を地平(遠くまで続く大地のなだらかな広がり)になぞらえて、時空を越えるその価値を考察してみました。論理アーキテクチャデザインにおいては、空間的にも時間的にもBig Think(大きく考える)が重要であることを感じ取っていただけたら幸いです。今回は少し視点を変えて、物理アーキテクチャの実践となるプロジェクトの側からアーキテクチャを考えてみます。SIer時代での私の経験も踏まえて、その実践の勘所と思うことについても触れたいと思いますが、まずは近年のプロジェクトを取り巻く状況の変化から見ていきましょう。

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私は30年近く一貫してITプロジェクトに携わってきましたが、昔と比べてプロジェクトの難易度は高まってきていると感じます。皆さんはいかがでしょうか?まず昔と比べてIT技術がとても進化しました。それに伴い、企業活動や製品開発においてIT技術の影響力が大きくなってきました。逆に言えば、ITをうまく活用しないとどんどん競争に負けてしまうということです。またビジネスの世界も変化の時代と言われています。これもITの進化の影響が大きいですね。こうした変化に対応するために、プロジェクトの意味合いは大きくなっています。当然、それに関わるステークホルダーも多様になってきます。プロジェクトへの要求レベルも高くなってきています。私がまだ新人だった頃には、「ビジネス貢献」というとちょっと照れてしまう(?)言葉だったりしたものです。「そんな雲の上の話はいいから、プロジェクトのQCDのことだけをしっかりやろうよ」と言われたことはありませんか。しかし、時代は変わりました。ビジネスが求める判断スピードはどんどん速くなり、プロジェクトを取り巻くビジネス環境もどんどん変化します。当初決めたプロジェクトゴールがその価値を維持し続けているかを、プロジェクト期間を通して問い続けねばなりません。「ビジネス貢献」が「青臭いテーマ」ではなく「身近でリアルなテーマ」になってきているということです。DXの時代といわれる昨今、「ビジネス戦略との整合」「卓越したソリューションの提供」「ビジネス価値への貢献」が重要なプロジェクト成功基準に位置づけられるべきでしょう。当然ながら、その前提としてQCDの同時達成が求められることは、みなさんご承知の通りです。

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こうした中で、プロジェクトマネジャーに求められるコンピテンシーも進化します。その例として、PMIタレントトライアングル™をとりあげてみましょう。2015年に提唱されたPMI タレントトライアングル™は、「テクニカル」「リーダーシップ」「ストラテジック&ビジネスマネジメント」の専門家としてのスキルの組み合わせです。

これに込められたメッセージは、破壊的イノベーションが求められる現代においては、従来型のテクニカルなスキル(PMBOKでカバーされるような知識面のスキルのことです)とかリーダーシップといったソフトスキルだけでなく、長期的な戦略目標を支援できる知見とスキルがプロジェクト成功には不可欠ということです。こうした捉え方は、ビジネスアナリシスやエンタープライズアジャイルの知見を積極的に取り込んでいる、最近のPMIの動きからも垣間見ることが出来ます。プロジェクト専門職として実際にプロジェクトをリードしている方々にとっては、大きなチャレンジと言えます。このように役割の進化が求められる中で、もはや「一人の優秀なProject Managerが引っ張っていく」という時代ではなくなってきた、と私は常々感じています。様々なスキル(ビジネスアナリシスやソリューションデザイン、そしてその実現のためのスキルはそれぞれ異なるものです)を持つ専門職人材と協調し、彼らと一体となってプロジェクト成功を目指すようなコーディネーション能力が求められるでしょう。まさに、VUCA、DXと言われる時代のプロジェクトのありかたを示唆していると思います。

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こうした変化は、突然前触れもなく訪れたわけではありません。次の図をご覧ください。

これは、2003年に経済産業省から公開された「企業のIT利活用ステージ」です。当時これを私がはじめて目にした時、IT利活用の成熟度は各企業さまざまであること、全ての企業がいきなり「第4ステージ」を目指すことは非現実的であること、ステージを上げていくためにはIT視点だけでなく経営視点が重要となること、それゆえに外部に全てを丸投げでなく企業自らが主導せねばならないこと、などの点がとても腹落ちできた記憶があります。また、多くの企業が「第2ステージ」に留まり、経営問題としてIT利活用に取り組めていないという点も、当時の自分の肌感覚と合うものでした。なぜ、いまさら15年以上も昔のものを取り上げるかというと、当時の課題認識は現在において、DXレポートでの警鐘として引き継がれているように感じるからです。多くの企業が取り組むべきテーマは、まさに「第3ステージ」「第4ステージ」のIT構造への転換に他なりません。そういう意味で、DXへの取り組みは古くて新しい問題です。いよいよ、待ったなしの状況になってきたということです。しかし、もう手遅れだと言って悲観するのと、今がチャンスと見て奮起するのでは大きな違いがあります。自らがどのステージにいるのかを正しく認識し、出来ることから始めていきましょう。また、IT 利活用ステージの評価指標でも言及されていることですが、「第3ステージ」以降ではエンタープライズアーキテクチャへのしっかりした取り組みが不可欠である点を理解することが大切です。

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近年のプロジェクトは、従来のQCD達成に加えて「ビジネス貢献」という評価軸が加わってきたということを見てきました。また、プロジェクトに関わる専門職人材同士がOne Teamとして協調していくことが重要なケイパビリティとなっていくと述べました。さらに、ITの観点で求められていることは、単なる最新テクノロジーの導入といった話ではなく、「IT構造の転換」そのものであると述べました。つまり、「ビジネス貢献」と「IT構造の転換」は本質的には車輪の両輪であり、片方だけでは成り立ちません。よって、近年のITプロジェクトは、全てのステークホルダーの総力戦と捉えるべきでしょう。皆さんのプロジェクトではどういうステークホルダーがいるでしょうか。当然、出資者たるプロジェクトスポンサー、オーナーと言われる人はいるでしょう。プロジェクトマネジャーや、PMOといったところも普通におられると思います。またビジネスを理解している専門職の協力もますます重要となってくるのでしょう。「ビジネス貢献」に価値を置く以上、当然ですね。では、「IT構造の転換」についてはどうでしょうか。プロジェクトにおいて、誰がどのように取り組んでいくのでしょうか?<次回へ続きます>

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今回は、近年のプロジェクトを取り巻く状況とその背景にある課題を取り上げました。
次回では、さらにプロジェクトの内側を掘り下げていきたいと思いますので、お楽しみに!

 


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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