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エンタープライズモデリングのススメ(2)~アイ・ティ・イノベーションのアプローチ~

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今月に公開されたDX白書2023によれば、日本企業は単なるデジタル化の点では成果はあがっているものの、顧客価値創出やビジネスモデルの変革レベルの成果創出は不十分のようです。さらに、本来の目的「X=変革」に向けてさらなる取組の深化がまだまだ必要だとまとめられています。その通りだと思いますがそれと同時に、変革のその先にある「あるべき姿」を描けている企業がどれだけあるのだろうかとも思います。変革はその手段に過ぎません。さて、前回ではエンタープライズモデルが求められる背景と意義を概観しました。今回は、われわれアイ・ティ・イノベーションのアプローチと手法を紹介しましょう。

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<EISアーキテクチャの構想アプローチ>
みなさんは構想フェーズと聞くとどのようなイメージを持たれているでしょうか?「何だかふわっとしたイメージしかない」という方もおられるかもしませんが、本来の構想とはそういうものではありません。変革への取り組みの成否を決定付ける、極めて重要な工程です。そこで取り交わされる成果物は、設計の解像度としては粗いかもしれません。またそれは、詳細に入り込んで指示するためのものでもありません。

しかし、それは見る者に全体観をもたらし、共通理解とインスピレーションを促すものであらねばなりません。それ無くしてどのような情報システムを作ろうとしているかを表現できないし、実行計画も立てられません。実際に構築されたものを見てこんなはずじゃなかったと後悔するばかりでしょう。建物の建築設計では、設計者と依頼主との間でのやりとりのために作られる図面があります。例えば、透視図や配置図などです。それは施工のための(作るための)直接の図面ではないけれども、省くことのできないものです。企業情報システムの設計でも、そのような図面が必要となります。

わたしたち(わたしが所属するアーキテクチャグループ)は、「デジタル変革を推進するための、最適なアーキテクチャを設計する」ことをミッションとし、特にEIS(企業情報システム)のアーキテクチャ構想に強みを持っています。わたしたちのEISアーキテクチャ構想のアプローチには、次の特徴があります。

・モデルベース(全体を捉えた青写真)
・データ中心アプローチ
・実践的方法論の活用

もう少し詳しく見てみましょう。次の図をご覧ください。

まず、ビジネスサイドとテクノロジーサイドの共通言語たるモデルで、お客様企業のビジネスとITシステムを可視化します。これをAsIsモデルと呼びます。次に、AsIsモデルで現状可視化したものを対象に、ビジネス課題、ITの課題、将来ニーズを明らかにしていきます。この3点を加えたデザインのアウトプットがToBeモデルとなります。最後に、AsIsモデルからToBeモデルに向けてのアーキテクチャ転換シナリオを検討します。われわれは、AsIsからToBeへ一気にビッグバン的に変えることは推奨しません。そもそも、変革とはリスクを伴いますし、ビッグバンで全てを置き換えるまでビジネスは待ってくれません。また、小さな成功がモチベーションを継続させるとともに、次に向かうべき方向を調整する源となります。そこで、段階的にアーキテクチャを転換するためのシナリオが必要となります。そして最後に、その転換シナリオをもとにロードマップを策定します。ロードマップとは、企業変革に向けての中長期スパンでの活動を計画したものです。そこであらわされるそれぞれの活動は、具体的なプロジェクト活動にマッピングされます。プロジェクトとはこのように全体ロードマップから導かれるものであり、場当たり的に行うものではありません。われわれはここまでを構想フェーズと呼んでいます。そして、その構想フェーズの中核にエンタープライズモデリングを位置付けています。

<エンタープライズモデリングの実施ステップ>
もう少し詳しく見ていきましょう。次の図は、わたしたちのエンタープライズモデリングの実施ステップです。


これは標準的な進め方の例ですが、お客様のおかれた状況にあわせて力点をおくポイントは変えていきます。そして、あるべきEISアーキテクチャをデザインし、その実現に向けての中長期的な戦略を形成することにゴールを置きます。現実には、このようにまっすぐ直線的(ウォーターフォール!?)に進むことはありませんが、すべきことは変わりません。ここでの重要なメッセージの一つが、「ソリューションありきというアプローチではダメですよ」ということです。あなたの組織でも、既になんらかの形で情報システム刷新の計画がたてられているでしょう。そのなかで、数多くのテーマが取り上げられているでしょう。しかし、それらのテーマは有機的な繋がりをもって企業変革に寄与するものとなっているでしょうか。現場の課題やニーズをただ単にボトムアップで積み上げただけのものになっていないでしょうか。変革のセオリーは「Design Big,Start Small,Move Fast(大きく考え、小さく始め、素早く動く)」だと思います。これは企業情報システムにおいても変わりません。しかし、ボトムアップからの積み上げでは、結局のところ「Design Small,Start Small,Move Small」となるのが落ちでしょう。その先に、「変革」の2文字はありません。そして、行きつく先は混沌への道です。
EISアーキテクチャ構想で大切なことは、「現状をあるがままに知る」「課題を踏まえてあるべき姿を描く」ということです。ソリューションとは、個々の問題への反応ではなく全体像から導かれるべきです。まず自分の企業の状況を深く理解する、そして構造的な問題が何なのかを整理する、そのうえであるべき姿を描くというステップをとっていきます。

先ほど、EIS構想フェーズの主要な成果物はエンタープライズモデルであると言いました。これらを作成する目的として次の3点をあげておきます。この目的を果たせているか否かが、エンタープライズモデルの出来栄えの評価ポイントとなると考えます。

・目指すエンタープライズアーキテクチャの青写真を腹落ちしたレベルで完成させる
・情報システムの中長期ロードマップのよりどころとする
・構築フェーズに必要なインプットとする

簡単に各ステップを眺めてみます。
・分析対象のスコーピング
何の目的でエンタープライズモデリングを実施するかに応じて、モデル対象のスコーピングをします。
・アプリケーション分析(AsIs)
スコープ全体を対象にデータフローを俯瞰的に描きます。それによって、現状の問題点(データサイロや密結合)の可視化や、ToBe検討のためのスコーピングを行います。
・データモデリング(AsIs)
スコープ全体を対象にデータとビジネスの関係性を俯瞰的に描きます。それによって、現状の問題(データ構造上)の可視化や、ToBe検討のためのスコーピングを行います。
・アーキテクチャ課題整理
AsIsモデル(概念データ・AP鳥観)からアーキテクチャ上の課題(問題点、ニーズ)を抽出します。表面的な課題のみならず、構造的な潜在課題を明らかにすることが重要です。また、既に顕在化しているIT/業務課題(問題点、ニーズ)のうち、主要なものと現行アーキテクチャとの関係を整理します。
・データモデリング(ToBe)
今後のビジネス変化へ柔軟に対応できるデータモデルをデザインします。将来変化に対応すべく、モデルの汎用性と分かり易さが重要となります。
・メタデータ定義作成
データモデルを補足する重要なドキュメントであり、関係者との意味理解のバラツキをなくします。
・アプリケーションアーキテクチャ・デザイン(ToBe)
あるべきシステムの分割案を精査し、ビジネス変化への俊敏な対応力を備えるようにデザインします
・アーキ転換シナリオ・ロードマップ策定
あるべきシステム像と目指す効果をどういうステップで実現するかのシナリオプランニング。中長期(通常は3~5年)スパンでの転換ストーリーとあわせて作成します。

<目的に応じたスコーピングが大事>
ここまで読まれて皆さんはどう感じられたでしょうか。何だか大変だなぁと感じた方もいるでしょう。しかし、難しく考えることはありません。習うより慣れよ、と言います。いきなり全社システムを相手にするのではなく、スモールスタートで取り組むことも可能です。目的に応じて適切なスコーピングから始めて、段階的にその範囲を広げていくケースも多いです。例えば、漠然とこんなことをお考えの企業は多いと思います。

・大規模システム再構築のリスクを軽減したい
・基幹系システムを段階的に再構築したい
・無秩序なデータ連携でスパゲッティ/サイロ化したシステムをなんとかしたい
・レガシーなアーキテクチャから脱却して、変化に俊敏に対応できるシステム構造にしたい

一方で、取り急ぎ解決したい具体的課題をなんとかしたいという企業もあります。

・ブラックBOXしたホストシステムの見える化をしたい
・顧客マスタを統合したい
・データ分析基盤を検討中であり、まずは特定の業務領域のデータから始めたい

このように状況や解決したい課題に合わせて、取り組むスコープが決まります。エンタープライズモデリングの考え方は、こうしたスモールスタートでも適用できます。しかしいずれは、全社的なエンタープライズモデルへ発展させていくことを忘れてはいけません。単発のデジタル化にとどまらず真のDXを目指すのであれば、そこを避けて通れないのですから。

***

さて、前回から2回にわたってエンタープライズモデリングの世界を外側から眺めてきましたが、ようやくその内側を探検する準備が整ったようです。次回からは企業情報システムを対象に、具体的なモデリングの世界をみていきます。本ブログを通じて一人でも多くの方に、エンタープライズモデリングを身近に感じていただければと思います。お楽しみに!


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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