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あらためてDOAとは何かを考える(1)~変わらざるものと変わりゆくもの~

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これから3回に分けてDOA(データ中心アプローチ)をテーマにしてみようと思います。ただ、今回はいつもと少し切り口を変えてみたいと思います。以前のブログで、西洋医学と東洋医学の融合という考えを紹介しました。これまでの西洋医学偏重を改め東洋医学の知見を組み合わせることで、あらたな治療の可能性を拓く試みです。こうした考え方はDOAを考えるうえでも参考となるに違いないと考えています。もともとDOAとは和製英語であり、われわれ日本人の先達によって提唱され、世の中に広がっていきました。だからこそ東洋思想的なアプローチでDOAを位置づけてみたいと考えるのは、私だけでしょうか。ということで、今回はその思想体系として仏教の考え方を借りてみたいと思います。いきなり仏教という言葉が出てきて訝しがる方もいるかと思いますが、その教義(セオリー)には合理的なところが多く、企業情報システムのあるべき姿を考えるうえで参考になると思いますので、お付き合いください。まずは、これまで本ブログで再三取り上げてきた企業情報システムとDOAの関係を紐解いていきましょう。

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<企業情報システムが抱える4つの苦しみ>
仏教の教義では人生において4つの基本的な苦しみがあります。それらは人間が避けることのできない苦しみであり、具体的には、生苦(しょうく): 生まれることの苦しみ、病苦(びょうく): 病気になることの苦しみ、老苦(ろうく): 老いることの苦しみ、死苦(しく): 死ぬことの苦しみの4つです。四苦八苦の語源ともなっています。この考え方を企業情報システムにあてはめてみることができます。

企業情報システムの4つの苦しみ

生苦(しょうく):生まれることの苦しみ
・要件整備の難しさ: 全社的な統一された要件をまとめることの困難
・戦略と技術の整合性: ビジネス戦略とIT戦略を整合させ、投資の優先順位を決定することの困難

病苦(びょうく):病理的な苦しみ
・システム統合: 異なるシステム間のデータ連携やプロセス統合がうまくいかず、サイロ化が進行
・運用コストの増加: システムが増えるにつれて、運用や保守にかかるコストが増大

老苦(ろうく):老朽化に伴う苦しみ
・技術的負債の蓄積: 古いシステムや技術が増えることで、新しい技術やシステムとの統合が困難
・更新の遅れ: 組織全体の変化に対応するためのシステム更新が遅れ、ビジネスの競争力が低下

死苦(しく):断捨離することの苦しみ
・レガシー移行: 既存システムから新システムへの移行が複雑で、高コスト
・組織文化の変革: 新システム導入に伴う社員の意識改革や、過去の組織慣行からの脱却の難しさ

仏教ではこうした苦しみをまず受け入れたうえで、その苦しみから解脱するための正しい行いを説きます。その正しい行いを、八正道(はっしょうどう)と言います。八正道とは基本的な修行の道であり、具体的には正見(しょうけん): 正しい見方をもつこと、正思(しょうし): 正しい思考をすること、正語(しょうご): 正しい言葉を使うこと、正業(しょうごう): 正しい行いをすること、正命(しょうみょう): 正しい生活をすること、正精進(しょうしょうじん): 正しい努力をすること、正念(しょうねん): 雑念をはらい常に真理を求める心を忘れないこと、正定(しょうじょう): 心の動揺をはらって安定した迷いのない境地に入ること、の8つです。これらは互いに関連し合い、統合的に実践することが求められます。その実践によって精神的な成長と幸福をもたらし、最終的に苦から解脱に至るというのが仏教の教えですが、この考え方を企業情報システムにあてはめてみるとどうなるでしょうか。以下に示すのは、私の考える一例です。

企業情報システムの八正道(正しい実践)

1. 正見(正しい見方)
可視化と理解: 企業情報システムの「あるがままの姿」を直視し、そのうえで組織のビジョンと戦略を加味した「あるべき姿」を構想する。その姿と方向性を全社員が理解することが重要となる。
2. 正思(正しい思考)
計画と設計の整合: ビジネスニーズとテクノロジーを深く理解し、それに基づく計画と設計を行う。長期的な視点での戦略的思考が求められる。
3. 正語(正しい言葉)
コミュニケーションとガバナンス: 明確なコミュニケーションを維持し、ガバナンスを徹底する。透明性の高いコミュニケーションと、適切な意思決定プロセスが重要となる。
4. 正業(正しい行い)
標準化とベストプラクティスの適用: 標準化されたプロセスとベストプラクティスを導入し、全社的に徹底する。効率的かつ一貫性のある運用の実現を目指す。
5. 正命(正しい生活)
リソースの全体最適化: 人的資源、技術資源、経営資源を最適に活用し、バランスの取れた運営を行う。持続可能なIT運営を目指す。
6. 正精進(正しい努力)
継続的な改善と学習: 継続的な改善と学習を推進し、新しい技術や手法の導入に対する柔軟性を持つ。常に進化するIT環境に適応するための努力が求められる。
7. 正念(正しい念)
リスク管理とコンプライアンス: リスク管理とコンプライアンスに対する意識を高め、全てのプロジェクトがこれを遵守する。
8. 正定(正しい集中)
集中と実行の徹底: 明確な目標設定と集中した実行により、今この瞬間の優先事項に集中する。

いかがでしょうか。あるべき企業情報システムへ向けての実践そのものであると感じませんか?

<正見(正しい見方)をするということ>
仏教の教えでは、「正見」(しょうけん、正しい見解)が八正道の第一歩であり、正しい理解や視点をもつことがなによりも大切であるとされます。自己中心の 歪 ( ゆが ) んだ見方をせず、一方に片寄った見方をせず、正しくものを見なさいという教えです。企業情報システムに翻って考えると、それはまさにEA(エンタープライズアーキテクチャ)の目指すことでした。
国内でも2000年代前半にEAを活用しようと盛り上がった時期があり、多くの企業がそれに取り組みました。私が知る情シス担当者も当時、相当苦労して文書を整備されていたものです。しかし結果的にそれは一過性のブームで終わってしまいました。それはなぜでしょうか?その理由を一般化することはできないものの、突き詰めると「正見(正しい見方)」が出来ていなかったのだろうと考えます。IT視点への偏りもあったでしょうが、何よりも細部にこだわり過ぎることで、情報システムのあるがままを正しく見るということが出来なかったのではないでしょうか。正しく見るということは、一部に偏るのではなく全体をあるがままに見るということです。

とはいえ現代の企業情報システムは、複雑化と高度化の一途を辿っています。そのようなシステムの全体を正しく見るということには、多大な困難を伴うとお考えでしょう。その道しるべとなるのが、これも古くからある「不易流行」という考え方です。

<変わらざるものと変わりゆくもの>
「不易」とは変わらないもの、世の中が変化し状況が変わっても変わらないものを意味し、一方で「流行」は世の中の変化に従って変わっていくもの、あるいは変えてゆかなければならないものを意味します。松尾芭蕉の俳諧の基本理念として広く知られていますが、もともとは中国老荘思想を起源にもち、仏教の禅とも大きく関わっています。その芭蕉の弟子が「不易を知らざれば基(もと)立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と記したものが元となり、後世に伝えられているとのことです。現代の言葉に代えると、「時代を経ても変わることのない本質的な事柄を知らなければ基礎はできあがらず、変化を知らなければ新たな展開を産み出すことはできない」ということです。

企業情報システムにおいて「不易」とはなんでしょうか。例えば、ビジネスにおいて、「われわれにとっての顧客とはだれか」「われわれは何をサービスとして提供しているのか」などといったことがまっさきに思いつくでしょう。みなさんにも考えていただきたいと思います。いろいろな物事があげられるはずです。そして、「流行」に惑わされまい「不易」を問い、その時々の最適な「流行」を使いこなしていく。テクノロジーの発展が急激にすすむいまの時代にあっては、あらためて、この基本に立ち返る必要があるのでしょう。さらには、そうした「不易」である部分でさえ新しい時代にあわせてしなやかに変わっていく。そうした姿を、これからの企業情報システムは持つべきでしょう。

企業情報システムにおいて「不易」はどこにあるのでしょうか。それは、データです。もう少し正確にいうと、安定した構造をもつ企業データモデルです。企業情報システムのあるがままの姿を正しく見るということは、すなわち企業のデータモデルを「基」とするということだと言えます。そして、それがDOAの考え方の中核にあります。
DOAとは何でしょうか。ここでは企業情報システムを前提とし、「経営活動の実体を反映しているデータに着目し、これを標準化し、この標準データに基づいて情報システムを構築するための方法論」と定義します。現代のビジネス環境では、EAとDOAは相互に補完しあうものとなっています。EAは組織全体のビジョンと戦略を定義する枠組みを提供し、DOAはそのビジョンを実現するためのデータと技術の活用方法を指南します。この統合により、組織は変化する市場の要求に迅速に対応し、イノベーションを推進するための強固な基盤を築くことができるわけです。

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今回はいつもと趣向をかえた視点で、企業情報システムからEAへ、そしてEAからDOAへと連なる道筋を辿ってみました。考え方の一つとして楽しんで読んでいただけたら幸いです。次回は、今回示したDOAの定義をより詳細に掘り下げ、現代においてDOAが求められる役割というものをあらためて考えてみたいと思います。お楽しみに!

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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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