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エンタープライズモデリングのススメ(1)~企業変革の戦略的モデリング~


今年の7月にDXレポート2.2が公開されました。これは2018年9月に最初のDXレポートが公開されてから4回目のレポートであり、国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進における現段階の課題を可視化し、解決につなげるために発表されました。このようにその時々の状況を踏まえた提言がされているDXレポートですが、その表現が変われどDXの本質は変わりません。自分ごととして取り組むことが肝要です。前回のコラムで、EIS都市計画アプローチをDXに適用するには「企業の枠を越えた産業全体への広がり」と「まちづくりアプローチ」が求められること、エンタープライズモデルが不可欠であることをあげました。そして、DXを自分ごととするためにもエンタープライズモデルは不可欠です。今回からエンタープライズモデルをテーマに書いていきます。コンサル実践で培った勘所もお伝えできればと思います。まず今回は、エンタープライズモデルが求められる背景とその意義を見ていきましょう。

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<DXレポート2.2のメッセージ>
左図はDXレポート2.2の概要からの抜粋です。DX推進の課題として主に次の3点が挙げられています。
・過去3回のDXレポート公表後も、IT投資の目的の中心はまだ業務効率化にある
・DXへの取り組みを検討している企業は多いが、成果の出ている企業はまだ少ない
・DXで重要なのは、既存ビジネスの効率化ではなく新しい価値の創造の重要性であると理解しているが、具体的なアクションがわからない企業が多い

まだまだ多くの企業ではどう取り組むかで試行錯誤しているようです。ここに一つショッキングな調査があります。人材研修事業を行うIGSが2021年に行った調査で、「DXの推進活動に関わる場合、どのように感じますか」という質問をしたところ、44%が「関心がない」「面倒くさそう」「やりたくない」などのネガティブなものだったということです。多くの社員が傍観者となっており、自分ごとと考えていない。ただ、DXという掛け声だけが空回りしている。これがDXを阻む大きな問題です。これを打破するには、社員全員を巻き込んでDXが自分ごとであると腹落ちできるアプローチが必要です。

さて、DXレポート2.2(概要)では、DX推進に成功している企業への調査結果を踏まえて、具体的な3つのアクションを提示しています。
・デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること
・経営者はビジョンや戦略だけではなく「行動指針(社員全員のとるべきアクション)」を示すこと
・個社単独でのDXは困難であるため、経営者自らの『価値観』を外部へ発信し、同じ価値観をもつ同志を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築すること

ここで注目したいのは、「行動指針(社員全員のとるべきアクション)」です。単に上から降りてくるだけの指針に社員の心は動かされません。TEDで有名なサイモン・シネックの「WHYから始めよ」ではありませんが、そこに納得感が伴わないと人は動きません。それには、EIS都市計画アプローチで述べた「全員参加型のまちづくり」の考え方を取り入れていくことが必要だと考えます。

DXを阻むもう一つがレガシー問題です。当初のDXレポートでは、こちらの問題を強調し過ぎたという反省があるようです。しかし、ビジネスと直結する企業情報システムが手に余る状態となっていることが、DXを阻む大きな問題であることは事実です。この状況から脱却するには、企業自らが情報システムの全体観を取り戻し、その手綱を手の内に収めることが第一歩です。しかし今日では、組織の中で役割の細分化が進んでしまったことで、「全体」に関わる機会がなくなってきたようです。自分の担当範囲はそつなくこなせても、「全体」の視野の中で連携できていません。これではいけないと思います。DXとは企業横断で連携して新しい価値を生み出し続けることなのですから。

<EIS都市計画のセオリー>
こうした問題を踏まえて、EIS都市計画アプローチをどのようにDXに適用していくか考えたいと思います。そこにはセオリーがあります。まず最初のセオリーは、「モデルベースであれ」ということです。DXは特定の部門だけでは進められません。それは組織全体の総力戦でなければなりません。よって、全員の共通言語が必要となります。それがモデルです。モデルと言うとプラモデルのような立体模型を思い描くかもしれませんが、物理的な形を持たない企業情報システムのモデルとは「図面」です。ITやビジネスに関わる全員が理解できるモデル(図面)を中心に据えねばなりません。
次に、「モデルは企業自身が主体となって作り上げよ」です。このモデルは企業の設計図そのものです。そして、企業にはそれぞれに固有の強みや歴史があります。よってこの設計図は、世界に二つとないその企業にとってオリジナルでなければなりません。その設計図はその企業しか作れない。外から買ってこれるものではないということです。ましてやベンダー任せにしてはいけません。最初はコンサルやベンダーの助けが必要かも知れませんが、企業が主体となって作るものと考えていただきたいです。
そして次が、「データアーキテクチャに着目せよ」です。データのサイロ化、データ品質の問題を解消することがDXの前提条件といわれます。データ中心アプローチで、データアーキテクチャを整備することが企業にとって最優先でやるべきことです。
「目的に応じてメリハリをもって取り組む」ことも大切です。最初から完璧を期す必要はありません。特に、企業情報システムの現状把握と変革への一歩を踏み出すためには、緻密なモデルは不要です。まずは本質をおさえることに注力しましょう。緻密で詳細なモデルに着手するのは後からでも遅くありません。

<エンタープライズモデリングとは>
話は少し横道にそれますが、ドメイン駆動設計という考え方があります。ドメイン駆動設計はその名のとおり、ドメインの知識に焦点をあてたオブジェクト指向の設計手法です。ドメインとは、ユーザーの活動やビジネスの対象領域を指します。ドメインに含まれる概念とそれに関する知識にフォーカスして設計をする点がポイントです。ドメイン駆動設計では、モデリングを「戦略的モデリング」と「戦術的モデリング」の2つを使い分けます。戦術的モデリングは、1つのアプリケーションを具体的にどう実装するかというテクニックの視点です。一方の戦略的モデリングはより大局的な視点です。、戦略的モデリング自体はコードを書くものではありませんが、開発全体に大きな影響を与えるものと捉えられています。

企業情報システムを語る時、私はデータ中心で戦略的モデリングを捉えるべきと考えています。それが、私の言うエンタープライズモデルです。エンタープライズモデルの対象は企業情報システムです。具体的には、エンタープライズアーキテクチャでのデータアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャに相当します。つまり、エンタープライズモデルには、データモデルとプロセスモデルがあるということです。データモデルは、事業活動をする上で必要なデータ概念(モノ、コト)をあらわします。コンピュータシステムが扱うデータ以外にも、事業にとって重要でデータがあればそれも捉えます。プロセスモデルはシステム機能の配置を捉え、データがどこで発生し、どう利用されているかといったデータの流れをあらわします。

データモデル、プロセスモデルのそれぞれに、現状のあるがままの姿としてのAsIsモデル、目指すあるべき姿としてのToBeモデルがあります。変革ロードマップは、これらのモデルから導かれます。多くの場合、AsIsからToBeの姿へ一気に変えることは難しいです。時間をかけて戦略的に少しづつ変わっていくことが必要となります。そのための転換シナリオを描いたものがロードマップとなります。エンタープライズモデルとは、情報システムのあるがままを可視化し、関係者の理解・対話・腹落ち感を育み、次なる一歩への行動を促す海図と羅針盤の役割を果たします。これにより、全社員のとるべきアクションに落とし込むことが出来るようになります。

ここでビジネスモデルを描いてはいませんが、エンタープライズモデルを描くうえでビジネスモデルの理解は必須で、プロセスモデルやデータモデルを描くうえでの前提となります。そもそもビジネスそのものがカオス化している状況ならば変革以前と言えるでしょう。実際のコンサルでも、必要に応じてビジネスモデルを一緒に描いていくことも多いということを付け加えておきます。

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これから数回に分けてエンタープライズモデリングのセオリーやサンプル、ノウハウを取り上げていこうと思います。次回はわれわれアイティイノベーションが提唱するアプローチを紹介します。お楽しみに!


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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