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都市計画としてのアーキテクチャ(2)

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前々回では、EIS(企業情報システム)都市計画アプローチの概念を紹介しました。EIS都市計画アプローチは建設の世界からのアナロジーで生まれたアイディアです。都市計画の歴史は古くギリシャ建築を起源とし、産業革命をきっかけに近代化してきたと言われます。このような歴史の積み重ねがある都市計画の考え方を通じて企業情報システムを理解することは、私たちITアーキテクトに多くの洞察をもたらしてくれます。今回は、「建設」と「企業情報システム構築」の世界を対比させながら、その類似点と相違点を見ていきます。

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<建設と企業情報システム構築>
最初に、「国家」のレベルを見てみましょう。建設の世界では「国土のグランドデザイン」たる国土計画があります。国土計画とは国民の生活や福祉の向上を目的に、産業・交通などの立地、人口の配分、国土の保全などを対象とします。一方のEIS都市計画アプローチでは社会システムがあてられています。しかし企業の観点からすれば、ビジネスアーキテクチャにおける戦略、組織、ビジネスモデルの策定にあたると考えても良いのではないかと私は考えます。「市」のレベルが、都市計画(city planning)です。都市計画とは、「都市の健全な発展と秩序ある運営を図る」、「劣悪な居住環境に起因する国民の健康問題を防止する」、「都市景観を改善し、保守する」必要性から策定されます。企業にとっては、情報システムのあるべき姿を構想することに他なりません。「地域」「地区」のレベルは、住民にとってより身近なものになります。ここでは公共工事をあてるとわかりやすいと思います。例えば、道路や鉄道、橋、港湾といった施設を作ることです。この領域は建設では土木(civil engineering)と呼ばれ、建築物のための空間を作ります。企業にとっては、ネットワークやゾーニングされたサーバ群のようないわゆるシステム基盤が相当するでしょう。昨今はクラウド技術の浸透もあり、容易にcivil engineeringができるようになってきたことも、情報システムの世界の特徴です。次の「家」のレベルでようやく建築の概念が出てきます。建築(architecture)とは、「ビルや家屋などの建物を、土台から作り上げること」を意味します。また、そうして作られた建物や用いられた技術、技法なども指します。情報システムの世界では「家」の粒度は様々で、販売システムや生産システムそのものを指すこともあれば、より大きな統合パッケージ製品を指すこともあるでしょう。昨今では逆にマイクロサービスやSaaSのようにコンパクトなものも増えてきました。

ITの世界でアーキテクトの専門領域と言えば、civil engineeringやarchitectureを思い浮かべるでしょう。この領域は新しい技術がどんどん生まれており刺激的に満ちた世界です。しかしそちらにばかりに気を取られてcity planningがおざなりになっていないでしょうか。多くの企業で都市崩壊の危機が広がっているように私には見えます。成り行きに任せた家づくりが、健全な都市を生み出すことはありません。EIS都市計画アプローチの「国家」にあたるものが企業であると私は考えますが、その企業が自社のcity planningを主導できないといけません。こうしたいわゆる都市計画プランナーとしての役割は、「企業情報システム(EIS)アーキテクト」と呼ぶべきなのでしょう。このEISアーキテクトの重要性がもっと広く認知されるべきだと思います。

<全てのデザインを連動させる>
EIS都市計画アプローチの各レベルを俯瞰してきましたが、大切なことはそれらが分断することなく整合していることです(建設の世界だと当たり前ですね)。このことは、企業でDX(デジタル変革)が求められる現代において一層重要度が増しています。外部環境の変化がそれほど大きくないのであれば、civil engineeringやarchitectureの領域で勝負がつくかもしれません。しかし、その変化が大きなものだったとしたら?仮にそうでなくても、そもそも都市自体の機能障害が顕著となっているとしたら?企業の変革活動をマクロに把握し、必要な手当てをしなければなりません。つまり、その変革活動全体をシステム体系として捉えることが必要となります

企業の変革活動には、ビジネスの層、企業情報システムの層、プロジェクトの層があると見なせます。そして、それぞれの層で実際になんらかのデザイン行為が行われています。DXとはあらゆるものの変革です。あらゆる層の構成要素のつながりを変え、旧いものは取り去り、新しいものを組込んでいく。まさに、ダイナミックケイパビリティに他なりません。こうしたシステムは、どうすれば形作れるのでしょうか?そこで、EIS都市計画アプローチです。EISアーキテクトがEIS都市計画アプローチを駆使することで、上から下までを一つのシステム体系として繋いでいくことができると、私は考えています。なかなか難しいと思われるかもしれません。EISアーキテクトとなるような人材なんて、自社にはいないよと言われるかもしれません。だとしたらこう考えてください。もし貴方が一担当者だとしたら、隣の人がしていることに関心を持つことから始めましょう。そして、隣の人のために何ができるかに関心を持ちましょう。そして個々のつながりを広げていく。視野を広げていく。越境をする。ともにアウトカムを創造する。価値を共有する。それを共通言語とする。そして、現場で価値創造に直接携わっている立場から、どんどん発信する。変革は決してトップダウンからだけではありません。それぞれが出来るところから実践しましょう。気が付けばあなた自身が、EISアーキテクトとしての思考をしていることに気づくでしょう。

<これからのEIS都市計画アプローチ>
2回にわたりEIS都市計画アプローチを見てきましたが、最後にこれからの姿にも思いを馳せてみたいと思います。建設の世界でも、時代にあわせ都市計画の位置付けや取り組み方が変化しているようです。同様に、EIS企業計画アプローチもDX時代に合った形へ変わっていくのだろうと思います。私は次の2つの流れが今後は加速するのではないかとみています。みなさんはどう考えるでしょうか?

・デジタル産業全体への広がり
国土計画がだんだん大きな規模のものになって行くことは当然として、やがてそれは世界計画に移る可能性を持っています。それはデジタルの世界でも同様です。多岐にわたるステークホルダ、つながるシステムの拡大がそれを後押ししていくでしょう。DXレポート2.1では、デジタル産業構造とそこで企業がどうつながっていくべきかが示されました。そこでは、産業や企業の構造はこれからますますネットワーク化、自律分散化、そしてソフトウェア化の方向を目指すべきと書かれています。私自身、その方向に進んでいけば良いと強く思います。そうした方向へ企業が舵を切るにはEISアーキテクトの役割は不可欠であり、またEIS都市計画アプローチがカバーすべき範囲はますます広がっていくに違いありません。

・市民参加型のまちづくりへ
従来の都市計画はガバナンスの色合いが濃く、画一的でトップからの押し付けイメージが強かったように感じます。これを従来型の都市計画とすれば、これからはまちづくりのアプローチを取り込んでいくことが必要ではないかと感じています。

従来型の都市計画と比べて、まちづくりアプローチは市民を中心とした活動であり、自律的、継続的な市民参加が必要です。その方法はワークショップや市民討議会など様々です。この建築物をどう維持するか、このまちの特性は何なのか。意見が沢山出てくるようになれば、そこにコミュニティが形成されていきます。結局のところ、新しい都市の形を描き出すのは思考力と行動力を伴った一人一人なのです。EIS都市計画も同様で、こうしたコミュニティ参加型のアプローチが求められるでしょう。

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2回にわたりEIS都市計画アプローチをとりあげ、私の考えを交えて解説しました。そして企業の枠を越えた産業全体への広がりや、まちづくりアプローチの大切さにも触れました。こうした取り組みにとって不可欠なものがあります。それが、企業にとってデジタル変革の海図とも言うべきエンタープライズモデルです。次回はエンタープライズモデルを取り上げたいと思います。お楽しみに!


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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