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データマネジメントの勘所 ~データドリブン経営のための品質モデル~

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昨今、データドリブン経営を標榜する企業は多いです。みなさんの企業でも、様々な取り組みを推進されていると思います。日経クロステックでも昨年に特集が組まれましたが、そこでは「データドリブン経営とは、経営者から現場まで全社で、データに基づいて科学的な計画立案や検証などができる体制を整え推進すること」と説明されています。これ自体は従来から持ち越した古くて新しいテーマですが、昨今のDXやAI民主化のおかげで関心が高まってきていることは喜ばしいことです。しかしまだスローガンに留まっている企業も多く、なかなか結果が出ていないのも現実です。
右図は私が考えるデータドリブン経営を支える3要素です。業務のデジタル化、DX人材を扱うビジネスオペレーションの観点、システム近代化やデータ基盤を扱うITシステムの観点、そしてデータマネジメントの観点です。どれも必要不可欠なものですが、ビジネスオペレーションやITシステムと比べると、データマネジメントは縁の下の力持ち的な扱いを受ける印象です。しかし、これなくしてデータドリブン経営を実現することはできないと考えます。今回はこのデータマネジメントについて考えてみます。

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<データマネジメントは難しい!?>
データマネジメントについては、データ基盤の検討時に運用チームとかベンダーに任せられることも多いようです。左図は、そうした運用チームがデータ利活用にあたって直面する様々な課題の例です。この膨大な課題リストを前にした時、やってしまいがちなのが難易度で優先付けしてしまうこと、ツールありきで解決してしまおうとすることです。目に見える成果をとにかく示さねばならない、といった事情もあるかもしれません。しかし、そのような場当たり的な対応では、データドリブン経営には到底届きません。戦略的、体系的に取り組みましょう。データマネジメントの範囲は広いですが、優先度をつけて実践することが肝要です。

次に示すのは、みなさんご存じのDMBOK2のDAMAホイールです。DMBOK2はデータマネジメントに関する知識を体系立てて整理しているので、現場で直面する課題に体系的に取り組む際に便利です。とはいえ、実際に取り組むにあたっては、どこから手を付けていけば良いか途方に暮れる方もおられるでしょう。しかし、ここでも行き当たりばったりではダメです。広範なデータマネジメントの領域にも、取り組むべきステップがあります。そこを押さえましょう。
第一にマネジメントされるべき対象の可視化がされなければなりません。ですので、データアーキテクチャやデータモデリング&デザインはデータマネジメントの第一歩です。次に、データ利活用の前提として正確なマスタデータやメタデータが整備されてなければなりません。これらは、データセキュリティやデータ品質を考えるうえで不可欠だからです。メタデータのなかでも、ビジネス観点でみたビジネスメタデータが特に重要です。こうした勘所を押さえた上で、他の領域についても組織の状況やニーズに応じてメリハリを付けて進めていきましょう。

<マスタデータ管理は難しい!?>
メタデータやマスタデータの管理はデータドリブン経営の一丁目一番地ですが、特にマスタデータ管理に悩まれている企業は多いです。経営層に対して投資効果を示すことが難しいという担当者の声も聞きます。マスタデータ管理の不在が、様々な弊害を引き起こしていますが、一方でその取り組みが前に進まない阻害要因も存在します。その狭間でにっちもさっちも行かなくなっている担当者も多いでしょう。ではどう考えるべきでしょうか?
マスタデータ管理は守りの施策にあたります。データドリブン経営の必要条件であり、その土俵にあがるための入場券と考えるべきです。総じて、データマネジメントやエンタープライズアーキテクチャの取り組みは、企業の価値基準で言えばオペレーショナル・エクセレンスに関わるものですから、「売上や利益に直結するメリットを経営層に示したい」という発想とは異なるものです。むしろ、マスタデータ管理に取り組むことなくデータドリブン経営を進められないものと心得ましょう。ではその意義が理解されたとして、その先は?その先の取り組みのポイントは、やはり可視化にあります。そして、可視化にあたってはエンタープライズモデリングのアプローチが不可欠です。このあたりの勘所は、過去にブログで取り上げていますので参考にしてください。

<プロダクトとしてのデータ>
ここからはデータ品質について、踏み込んで考えてみます。データ品質はデータマネジメントの重要な要素に位置付けられます。ここでは「データそのものの品質」にとどまらず、「データを使ったサービス実現プロセスに関する品質」と「データの整備から活用までの管理プロセスに関する品質」までを含めた、広義のデータ品質を考えてみます。今やデータはヒト(人、経営)・モノ(知的資産)・カネ(資産)と並ぶ重要な経営資産であることはご承知の通りです。そして近年、「プロダクトとしてのデータ」という考え方が広まりつつあります。自分の担当領域で管理するデータには、自分たちのデータ活用には関係ないデータも含まれているかもしれません。とはいえ、そうしたデータの管理をおざなりにしてしまうと、他者がそのデータを必要とした際に、うまく活用することができなくなってしまいます。データドリブン経営においては、自分のデータが他者にも利用できることも考慮し、質の高いデータの提供を念頭に置くことが求められます。そうした運用の形態が「プロダクトとしてのデータ」という考え方です。

例えば、顧客に出荷するプロダクトであれば、従来から品質保証や製造工程内での品質の作り込みといった努力を、企業は積み重ねてきました。同じようにデータの品質を真面目に考えない道理はありません。「プロダクトとしてのデータ」を考える場合、その品質モデルやその測定、評価プロセスも他のプロダクトと同じように考えるべきです。あくまで私の考え方ですが、左図にデータドリブン経営の活動とそれを支える品質の考え方を表現してみました。ものづくりに関わる方ならお馴染みの、設計品質、製造品質、利用時品質(市場品質)という捉え方は、データ品質についてもあてはまると思います。データについて言えばそれぞれの品質は、データ設計、データ製造(企業活動そのものです!)、データ利活用の各局面に相当します。各局面で求められる品質特性はどのようなものかは、世の中に多くの標準やガイドラインが公開されていますので参考にしてみてください。ここでお伝えしたかったことは、これからのデータ品質はプロダクトと同列で考えるべきであるということです。実をいうと、「プロダクトとしてのデータ」に近い考え方は国内でも1980年代からありましたが、未だ浸透しているとは思えません。今後、その品質意識が高まっていくことを期待します。こうした広義のデータ品質を実現するための組織的な取り組みこそが、データマネジメント活動そのものであると捉え直される時代は近いかもしれません。

<データドリブン経営のための品質モデル>
データ品質を組織的な取り組みとした場合、それは全社的なデータライフサイクルを意識したものになるでしょう。データライフサイクルの考え方は様々なものがありますが、ここではデータ品質モデルの国際規格であるISO/IEC 25024を参考にします。本規格ではデータライフサイクルを、以下のように定義しています。
1.データ設計
2.データ収集,外部データの取得
3.データ統合
4.データ処理
5.プレゼンテーション,他の用途、データ保管
6.削除

近年では多くの企業でデータ人材の役割と配置について議論されていますが、データライフサイクルのなかで、品質を作り込むことを考えることがますます重要となるでしょう。他社事例を参考にするだけではなく自分事として自社におけるデータ品質の作り込みを議論しましょう。私なりにそうした観点で、ISO/IEC 25024のデータライフサイクルにデータ人材を配置し、それぞれの人材が責任をもつべき(作り込みに関与すべき)品質を描いてみたのが右図となります。
データアーキテクトがデータ設計品質に、データ提供者たるデータオーナーや開発者であるデータエンジニアは製造品質に関与します。データスチュワードの役割は広く組織設計によって様々ですが、データ利用者とのブリッジ役と位置付けて利用時品質に深く関与するとみなします。このような品質モデルをもとに、どういうステップを踏んで品質を作り込んでいくかといった視点で、組織的なデータマネジメント活動を考えることが、データドリブン経営実現への大きな一歩になると考えています。

冒頭で紹介した日経クロステックの記事では、経営だけでなく現場がデータを活用できる取り組みを維持すること、そしてデータドリブン経営は終わりのない長期の取り組みと意識して継続のための仕組みを用意することが成果を上げていくために欠かせない、と述べられています。その仕組みこそが、データマネジメントに他なりません。そして経営トップがデータマネジメントの重要性を真に理解しないと、データドリブン経営は絶対に実現しません。ぜひトップダウンで取り組んでいただきたく思います。

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今回はデータドリブン経営を支えるデータマネジメントの勘所を取り上げましたが、データマネジメント以上にみなさんの関心が高いのが、ITシステム構築の領域だと思います。この領域は、データ基盤やIoT、AIなど先端テクノロジーが群雄割拠するホットな世界です。一方で、そうしたシステム開発を貫く普遍的な原理原則が存在する世界でもあります。それがデータ中心アプローチという考え方です。次回は、このデータ中心アプローチを取り上げたいと思います。お楽しみに!

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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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