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パーソナル・キャンバスのススメ -自分のビジネスモデルを作ってみよう-

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私はコンサル業務の傍らIasa(アイサ)という団体で活動をしています。IasaはビジネスとITアーキテクチャのプラクティスと知見に強みを持つNPOで、グローバルで通用するITアーキテクト専門職の普及をミッションとしています。国内においても有用なコンテンツ提供とアーキテクトコミュニティ形成のため、様々なイベントや勉強会をしています。関心のある方は、ぜひ日本支部のHPを覗いてみてください。今回は、その勉強会のなかでも何度か紹介したことがあるパーソナル・キャンバスをとりあげてみます。みなさんの会社でも専門職人材の育成に取り組まれているところは多いと思います。その一方で、苦労されている声もよく耳にします。昨今の技術進歩と環境変化に適応すべく自社の専門職定義もアップデートしたいが、正解もなく手探りの状況というところも多いのではないでしょうか。それに対する一つの取り組みとして、ひとりひとりが自分自身のモデルを描いてみることに意義があるのではないかと考えています。私なりに描いてみたパーソナル・キャンバスも載せていますので、楽しく読んでいただければ幸いです。
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<パーソナル・キャンバスとは>
ビジネスモデル・キャンバスをご存じの方は多いと思います。これは企業や組織のビジネスモデルを描くものですが、それと同じように個人についても描くことができます。それがパーソナル・キャンバスで、書籍「ビジネスモデルYOU」などで紹介されています。

具体的には、以下の9つのフレーム(枠)で区切られたキャンバスを使います。ビジネスモデル・キャンバスを使ったことがある方なら、馴染みやすいと思います。

顧客・・・誰のために役立つか
与える価値・・・どのように役に立つか
チャネル・・・価値を認知させ、届ける手段
顧客との関係・・・コミュニケーションの取り方
報酬・・・得るもの(報酬、保障、充足感、、、)
キーリソース・・・自分自身!関心事、正確、能力・スキル
キーアクティビティ・・・主な活動
キーパートナー・・・支援者・協力者
コスト・・・自己投資(時間、エネルギー、、、)

Iasa日本支部には、様々な企業や組織でアーキテクトとして活躍されている方や、その育成に取り組まれている方も多く関わっていただいています。こうした方々とお話しして感じるのは、一人前のアーキテクトであるような人材(もちろんプロジェクトマネジャーやビジネスアナリストも同様です!)を育てることは従来からその難しさがありましたが(幅広い経験と知識が求められるため)、以前にはなかったような役割が求められるようになってきたということです。ビジネス価値へ直接関与することや、多様性に適応するといったことがその背景にあります。今までのような画一的なやり方では対応できないということなのでしょう。そんな時代だからこそ、ひとりひとりが自身のビジネスモデル(パーソナル・キャンバス)を描いてみることをお勧めしたいと考えています。今回は、私が前職のベンダー時代の自分自身(今も本質的な部分は変わりませんが)を例にして、パーソナル・キャンバスを描いていきます。みなさんも、自身に置き換えて読み進めてください。

<フレームごとで考える>
・わたしの顧客は誰だろう?
最初にまず考えることは、自分にとっての顧客とは誰かということです。この掲載コラムの第一回でも触れましたが、私はユーザー企業におけるITシステム刷新プロジェクトに多く携わってきました。ですので、私にとっての顧客は、プロジェクトスポンサー、システム利用者/運用者、プロジェクトチーム(プロジェクトマネジャー、開発チーム)です。

・どう役に立ちたいのか?
次に、顧客にどう役に立ちたいと考えているかです。わたしの場合は、アーキテクトとしての仕事の目的(WHY)は何なのかということです。そういうものは外部(所属する組織からの指示や、お客様からの要求)から与えられるものと考えがちですが、自分はどうしたいかという思いも大切です。「できること」「やりたいこと」「やらねばならないこと」を兼ね備えられたら最強ですね。例えば、10人のアーキテクトを同じ部屋に入れて議論させたとしたら、恐らく10通りのデザインが出てくるでしょう。同じ要求や仕様にもとづいていたとしてもです。デザインは創造的と言われるゆえんですが、そこにはアーキテクトそれぞれの経験と知見に裏付けられた価値観があります。これは、ひとりひとりの仕事でも言えることです。ぜひ、自分にしかできない独創的なデザインを目指しましょう。私は、次の3つをあげてみました。

✔顧客の思いを形にし、プロジェクトを動かすデザインとロードマップを描くことで開発への橋渡しをする
✔開発チームに対する設計監理の役割を果たし構想の具現化を主導する
✔アーキテクチャ維持のために人材育成をサポートする

・顧客との関係性を見つけよう
どんな思いがあっても、顧客にたどりつけなければその思いは叶えられません。プロジェクト体制のしがらみや様々な理由で壁があることも多いでしょうが、道はあると思います。小さなタイミングや機会をうまく活用して関係性を構築していきましょう。その際は、自分の役割をうまく演出することも必要です。役割が定まると、普段の立ち居振る舞いに軸を通し、周囲の評価も変わってくるでしょう。私の場合ではこうです。

<役割>
✔顧客との緊密な信頼関係を後ろ盾にもつ顧客の代弁者
✔アーキテクチャデザインを組織全体に浸透させることに熱い情熱を注ぐ宣教者

<チャネル>
✔顧客とのデザインワークショップ
✔プロジェクトチームとの協働
✔ステアリングコミッティ会議への参加

・パートナーとの関係性を見つけよう
仕事は一人だけではやり遂げられません。専門家として支えてくれるパートナーとの関係が鍵です。アーキテクトとして成果をあげるために、自分にないスキルを持つ多様な協力者を巻き込んでいきたいものです。敬意と感謝の気持ちであげてみましょう。私の場合、プロジェクトマネジャーと固有技術の専門家をあげてみました。

顧客、パートナーと手を組んで成果をあげていくために、私が行うべき活動と身に付けておくべきスキルは何か、ということも考えてみましょう。また、どのような報酬を期待しているか、そのためにどれだけの投資をするつもりがあるかも考えてみましょう。全てのフレームを書き込んだ私のパーソナル・キャンバスがこちらです。

 

<パーソナル・キャンバスとアーキテクチャデザイン>
パーソナル・キャンバスは全てのフレームを埋めたら終わり、というわけではありません。これは、ビジネスモデル・キャンバスもそうですし、他のモデリング成果物(エンタープライズレベルでは、例えばデータモデル図やビジネスフロー図など)でも同じことです。一旦モデルを描いたら、それを俯瞰的に眺めてみましょう。例えば、個々の要素が矛盾なく繋がるか、実感と比べて違和感がないでしょうか。全体としてその目的や価値が実現できる構造になっているかという視点も不可欠です。できれば、モデルの図式表現を文章や声に出して言葉にしてみましょう。他の人のものと見比べても楽しいでしょう。そして違和感があれば、どんどん直していきましょう。

モデルは描いてからが始まりです。

私たちアーキテクトが企業情報システムのありようをエンタープライズモデルで可視化することと、自分の仕事のありようを可視化することに、本質的な差異はあまり無いように思われませんか?どちらも全体像を決まったフレームでひとつひとつの要素に分解します。そして、ある要素同士はそのつながりを変え、旧いものは取り去り、新しいものを組込んでいく。その後にそれら要素を再び全体に組み上げ、求める目的や価値が満たせているかをみていきます。

そう考えると、どちらも同じ思考方法を辿っていることがわかります。これがアーキテクチャ思考の基本です。アーキテクチャデザインが少し身近なものに感じられるかと思います。より多くの方がアーキテクチャに関心を持っていただければ幸いです。(それとIasaにも)

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今回は、パーソナル・キャンバスの紹介をしました。アーキテクトをされている方もそうでない方も、一度ご自分のパーソナル・キャンバスを作ってみてはいかがでしょう。きっと、新しい気づきがあると思います。次回は、都市計画としてのアーキテクチャの続編を書いていきます。お楽しみに!


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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