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エンタープライズアーキテクチャとは(2) -事業変革のアプローチ-

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4月21日に、弊社主催のプライベートセミナー「DX時代を勝ち抜くためのIT構想・企画とは」が開催されました。私も登壇の機会をいただき「ビジネス変革を推進するアーキテクチャ設計のセオリー」と題して、エンタープライズアーキテクチャ(以下、EAとあらわします)の実践的な進め方について語らせていただきました。また、参加くださった皆様から多くの反響をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。そこでお話ししきれなかったこともたくさんありますので、本ブログでも今後取り上げていきたいと思います。さて、前回はEAの必要性(Why)を述べましたが、今回は「EAとは何か(What)」について取り上げてみます。

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<EAとは何か>
前回、EAという言葉を紹介しましたが、いまひとつピンとこない方もおられると思います。そもそも、この「エンタープライズ(事業体)」の概念が多義的で曖昧(特に国内では)です。言葉の定義がどうであれ、多くの企業のEA取り組みをご支援してきた経験で言えば、単体の法人、その一部である事業単位、海外の子会社まで含めたグループ全体を含める場合など様々です。多くの方にとって、EAは大企業を対象にしたものというイメージがあるでしょうが、事業の大小はあまり関係ありません。ITシステムではITアーキテクチャを通してそのコンポーネントや仕組みを理解しますが、EAでは事業体そのものを対象に、その構成要素の概念と関係性を理解することを目指します。

事業体をシステムとして眺めてみることが、EAを理解する一助になると思います。世の中はシステムとみなされるものに満ち溢れていますが、これらシステムに共通する特徴というものがあります。例えば、システムはなんらかの機能を持ちます。機能を持たないシステムは存在理由がありません。事業体の場合ですと、事業のミッション(存在理由)や顧客への提案価値があるはずです。次に、システムはいかなるものも独立した存在ではなく、さらに大きなシステム(上位システム)に組み込まれた構成要素(サブシステム)であるということです。昨今は、ESG(環境、社会、ガバナンス)とかSDGsという言葉をよく目にします。このようにグローバルな目線で、上位システムを捉えることが求められてきたかと感じます。最後に、システムは構成要素(サブシステムやコンポーネントに相当)を持ち、その相互的な関係性によって機能します。事業体にとっての構成要素とは何でしょうか?それは、経営資産そのものです。経営資産と言えば現金、商品、設備など有形資産が頭にうかびますが、実際は数多くの種類の資産があります。特に近年は情報化が進み、無形資産(情報、技術、人など)の比重がますます高まっています。無形資産をいかに有効に活用していくかということが重要な経営課題なのです。こうした無形資産を中心にその概念と関係性(アーキテクチャ)を可視化し、経営に寄する事業構想を立案することこそがEAの目的といえるでしょう。それゆえ、EAとはベンダーから買ってこれるようなものではありません。ましてや、単なるIT導入ではありません。事業のありようを共有し、ありたい姿を描き、自ら行動していくことが、EAの本質だと思います。

<EAのセオリー>
事業体は様々な経営資産をもちます。そして、それら経営資産の概念と関係性を共有の知識とするために、可視化する手法がEAです。これらの概念と関係性の全体を、幅広く漏れなく捉えることが肝要です。そのためのフレームワークが数多く提案されています。有名なものでは、例えばザックマンフレームワーク、TOGAF、DODAFなどがあります。日本国内では、2000年前半に経済産業省が主導した経産省EA(現在、経産省HPから姿が消えアーカイブされていますが)があります。


EAの実践で広く取り入れられているフレームワークでは全体を4つの視点で可視化します。抽象的なビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャの下位層に、物理的な特性を持つアプケーションアーキテクチャとテクノロジーアーキテクチャで考えます。ポイントはITのテクノロジー面だけでなく、ビジネスそのものやそれを動かすデータの構造まで広く網羅的に把握することです。特にユーザー企業にとっての要は、上位のビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャとなります。テクノロジーの変化が激しい現代においては、ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャを押さえることが極めて重要です。本来、それらは少々の環境や技術の変化では変わらない部分であり、変化に適応しつつ時代を越えて安定しているということが、優れたアーキテクチャの条件といえるでしょう。ここで個々の視点を詳細に説明することはしませんが、ポイントとなるセオリーを取り上げてみます。

・ビジネスアーキテクチャ
ビジネスアーキテクチャの視点では、戦略、ビジネスモデル、プロセスを可視化します。昨今では、顧客エンゲージメントやバリューチェーンの変革が求められているため、この視点はますます重要となってきています。とはいえ、全体観を捉えることが目的ですので、詳細な業務フローまで定義する必要はありません。TOPレベルのビジネス機能、サブ機能まで把握できれば十分でしょう。
あえて戦略とビジネスアーキテクチャの関係について一つ言うならば、厳密には戦略はビジネスアーキテクチャを誘導するインプットであり、EAの前提に位置づけられるべきと個人的に思います。ただし、事業構造がブラックボックスでは戦略を描くことは出来ません。つまりEAなくして戦略なしです。国内企業は従来から戦略不在と言われますが、包括的なEAがないことがその一因なのではないでしょうか。
・データアーキテクチャ
ビジネスあるところにデータあり、データは現代の石油といわれています。DXの文脈においても、経営資産としてデータをいかに活用していくかが勝負となります。よって、これからのEAではデータアーキテクチャが最重要な視点となるでしょう。ここでは、事業体がビジネスを遂行するために必要な主要データが、どんな構造でどこにあるのかを明らかにします。何が主要かを判断するためには、ビジネスの仕組みを理解することが不可欠です。ですから、ビジネスアーキテクチャが上位階層にあるのです。ビジネスを理解すればどのデータに着目すべきかが見えてきます。
・アプリケーション/テクノロジーアーキテクチャ
クラウドサービス、モバイル等の普及により、事業体には数多くのアプリケーションやテクノロジーがもたらされました。規模により異なりますが、数百を超えるアプリケーションシステムを抱えている企業も多いと思います。これらも可視化の対象となりますが、全てを詳細に掘り下げる必要はありません。システムが複雑化した現代では、そうしたアプローチは無理でしょう。過去にも、国内でEAに取り組む企業は多かったと思いますが、継続した取り組みができているところは少ないと思います。なぜ、続かなかったのか?その大きな理由に、IT重視のボトムアップアプローチがあったのではないでしょうか。EAはトップダウンの活動でなければなりません。そしてメリハリをもつことがセオリーです。まずは主要データに関わるアプリケーションに着目することが肝要です。このように、EAで物理実装を意識しすぎることはアンチパターンですが、主要システムについては可能な範囲で適用技術を押さえておくのは望ましいです。採用している技術の賞味期限はいつか、今後メインストリームとなる技術への対応はどうか、といった点は把握すべきでしょう。そうした技術への対応スキルをどう確保していくのかといった人材戦略にもつながります。

以上、4つの視点でEAのセオリーを述べましたが、これらの視点を画一的に捉える必要はありません。例えば近年では、セキュリティやCX/UXなどの視点で経営資産を捉えていくことが求められます。何を重要な経営資産と捉えるかの意思入れが必要です。とはいえ、最初から完全を求めなくても大丈夫です。メリハリをつけながら継続的・段階的に取り組んでいくこともEAのセオリーです

このように事業体の経営資産を可視化することがEAですが、あるべき姿を描くこととそこに至るための計画(ロードマップ)を策定することも忘れてはなりません。EAは変革に向けての行動を導くものでなければ意味がありません。VUCAと言われる時代に、ロードマップなど描いて意味があるのだろうかと思われるかもしれません。しかし繰り返しになりますが、変化の激しい現代だからこそ、ビジネスの本質を突いたアーキテクチャ構想が求められます。これこそが変化の時代を乗り切る海図であり道標となるのです。結局のところ、EAとは事業体をよりよい体質へ変えていく、終わりのないトランスフォーメーションそのものなのですから。

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今回は、EAとは何かについて考えてみました。変革の時代だからこそ、EAに取り組む意義は大きいと感じます。次回は、原点に立ち返ってDXのあるべき姿を取り上げてみたいと思います。そして、これからのEAのあり方についても思いを馳せてみたいと思います。お楽しみに!


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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