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6Gが切り拓く2030年の未来と技術開発体制のあるべき姿(その2)

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3. 6Gの技術的課題と国内研究開発状況

次に、6Gの周波数帯である300GHz帯(サブテラヘルツ波/テラヘルツ波)を利活用する上での技術的課題を述べる。300GHz帯について、シャノンの定理からシャノン限界を考える。シャノンの定理とは、1948年の論文で発表された、通信におけるデータ転送速度の最大理論値(シャノン限界)を求める定理である。
Cを通信容量(速度)[bps]、Bを帯域幅[Hz]、S/NをSN比とすると、

ここで、帯域幅について、4Gの周波数帯1.5GHzで帯域幅15MHz、周波数帯3.5GHzで帯域幅40MHz、5Gの周波数帯28GHzで帯域幅400MHzとなるから、大まかに帯域幅 = 周波数帯×1%~2%程度となり、6Gの周波数帯を300GHzとすると、最大でも帯域幅5GHz程度になるのではないかと考えられる。よって、B = 5[GHz]とおく。
また、ボルツマン定数kB(J/K)と絶対温度T[K] ≒ 300[K]を用いて、

ここで、1[J] = 1[W・sec] = 1000[mW・sec] = 1000[mW/Hz] = 1030/10[mW/Hz] = 30[dBm/Hz]のように定義されるから、次式が成立する。

よって、雑音レベルNは

ここで、Sについて、送信アンテナ利得をGt、受信アンテナ利得をGr、伝搬距離をd、送信電力をPt、受信電力をPr、無線の周波数帯をfcとすると、フリスの伝達公式より、

ここで、Pt = 6[dBm] ≅ 3.98[mW]、Gt = 30[dBi] = 1030/10[倍] = 103[倍]、Gr = 30[dBi] = 1030/10[倍] = 103[倍]とすると、

よって、C = 100[Gbps]として、

以上の仮定では、6Gの周波数帯(300GHz帯)で100Gbps以上とする為には、「送信側と受信側間の距離が0.324m以内」という極めて近距離通信でないといけないことが分かる。
そこで、フェーズドアレーを用いてビームステアリングすることを考えると、送信アンテナを𝑛𝑇𝑋本、受信アンテナを𝑛𝑅𝑋本として、

ここで、送信アンテナ数と受信アンテナ数が𝑛本と等しい場合に、100Gbps以上となる最大距離を表2に示す。
なお、上記計算は、LOS(Line Of Sight)を前提としており、NLOS(Non Line Of Sight)の場合は約1/10程度の距離となる。

表2:300GHz帯で送信アンテナ数𝑛本、受信アンテナ数𝑛本の場合、100Gbps以上となる最大距離

送信アンテナ数(=受信アンテナ数) 100Gbps以上となる最大距離
1本 0.324m
4本 2.59m
16本 20.7m
64本 166m
256本 1330m

従って、6G以降では、カバレッジの問題で、ビームステアリング無しでは利活用の難しい領域となる。加えて、ビームステアリングをする際には、「効率的な端末位置推定方法」、「効率的なビーム選択方法」、「高効率なフェーズドアレーを含めた集積化方法」などが新しい技術的課題として発生する。
シャノンの定理に基づいて考えると、伝送速度100Gbpsかつ十分なカバレッジを達成する為に以下のような取り組みが必要である。
①:信号パワーの増強
②:信号劣化レベルの低減
③:新しい通信方式の開拓

④:帯域幅の拡張
④については、従来の周波数帯とのキャリアアグリゲーションは検討されているが、法的な問題や規制が存在する為、研究開発対象になることは少ない。そこで、④を除いて、①~③を細分化し、研究開発についてまとめたものを表3に示す。

表3:100Gbpsを達成する為の研究開発状況

取り組み 技術的課題と研究開発状況
①:信号パワーの増強 (1) 光と電気の中間領域であるTHz帯では、高出力のデバイスが存在しない。
⇒量子トンネリング効果を用いた共鳴トンネルダイオードの共振発振回路、UTC-PDを用いたフォトミキシング、バンドギャップがゼロであるグラフェンを用いたSPP波活用などのデバイス系研究開発や、GaNなどのようにデバイス基板材料のワイドバンドギャップ化に関する材料系研究開発が進められており、現在、300GHz程度で出力が10dBm程度まで実現している。

(2) アンテナ素子に関する実装実験が少なく、かつ最適制御が開発段階。
⇒ビームステアリングに用いるアンテナ素子数としては、現在50GHz~100GHzの周波数帯で数百本~数千本程度まで研究開発が進んでおり、光と電気を融合させることでさらなる集積化を目指し、アンテナ素子数を増やそうとしている。また、ビームステアリング技術の応用研究も多く行われており、アナログビームフォーミングとデジタルプリコーディングを組み合わせたハイブリッドビームフォーミング制御や機械学習などを用いた高性能な到来波推定アルゴリズムの研究開発が進められている。

②:信号劣化レベルの低減 (1) 高周波になると、インピーダンスマッチングが取りにくいこと、表皮効果、非線形特性の表面化などにより、回路上の雑音レベルや損失が大きい。
⇒フッ素系ポリマーなどの導体損失を改善するFPC(フレキシブルプリント回路基板)材料開発などの研究開発や、高周波帯における増幅器の非線形劣化に対する歪み補償技術(例えばLLRに関する補償など)の研究開発が進められている。

(2) 高周波数帯の電波は直進性が高く、障害物に当たると反射し、かつ障害物の回折が難しい。また、大気中の減衰率も高周波の方が大きい。
⇒Massive MIMOと分散MIMOを組み合わせて、個別の通信環境と通信要件に応じて通信エリアをユーザーごとに構築するような、Cell-Free massive MIMの研究開発が進められている。また、カバレッジホールを解消する為に、RIS(反射波制御のみに着目したものはIRS)やメタサーフェスレンズの研究開発・実証実験にも取り組んでいる。例えば、メタサーフェスレンズでは0dB⇒24dBになった研究結果もある。

③:新しい通信方式の開拓 QAMの変調多値数が制御可能な限界値に近い。
⇒軌道角運動量(OAM:Orbital Angular Momentum)の性質を持つOAM多重伝送技術の空間多重数増加に関する研究開発が進められている。なお、OAMの性質を持つ電波は、電波の進行方向の垂直平面上で位相が回転しながら進行し(OAMモード:位相回転数)、同一位相の軌跡が進行方向に対して螺旋形状となる。この方式によって、周波数帯300 GHz、帯域幅25GHzを用いて、1ストリームで100Gbit/sの伝送を実現している。

その他の技術的課題としては、300GHz帯では低周波数帯のRFケーブル測定とは異なり、OTA環境での試験が必須となる為、OTA試験の検証(例えば、スプリアス試験、ETC試験、RRM試験など)も行う必要がある。6Gの社会実装に向け、数多くの技術課題を乗り越えるべく研究開発体制のあるべき姿について、次章で述べるものとする。

4. 6G技術開発体制のあるべき姿

従来ではデバイス系、回路系、材料系の研究が通信系の研究と比較して先行していたにも関わらず、技術課題を見て分かる通り、6Gではデバイス系、回路系、材料系、機械学習のような高度なアルゴリズム系の研究も大きな課題となっている。従って、これだけ多くの分野・多くの業界が係わる為、1企業・1団体では必ずリソースが枯渇してしまうと考えられる。
従来のような産・官・学の連携だけでなく、通信業界を超えた取り組みやユーザーとの交流、さらにはSDGsにおける環境・資源に配慮した活動を積極的に行う必要が有ると感じている。
ここで、日本国内の取り組みを見ると、2020年12月にBeyond 5G推進コンソーシアムが設立され、企画・戦略委員会として白書分科会を設けている。体制としては、白書分科会の中に「ビジョン作業班」・「技術作業班」・「WP5D対応Ad Hoc」を持つような体制となっている。白書策定のスケジュールとしては、2022年3月にver1.0を作り上げ、2023年3月にはver2.0を作り上げる予定となっている。
これらの推進体制を見ても、通信系企業が多く、一般会員(他企業)や個人会員(ユーザ)の意見が正確に反映できる体制となっているかが非常に懐疑的である。また、共創を生む為の交流活動は即座に売上へ直結しない事も多いが、企業の人事層・経営層は、このような交流活動や学会・イベントの聴講参加に対して、積極的に評価していくべきではないかと思う。
情報のオープン化とオープンな交流が進んだ為、今後は複数の分野・企業の共創で1つの大きな価値を生み出していく時代が来るので、分野を横断した「人と人をつなぐ人材・活動」や「レベニューシェア型の技術開発」を如何に構築出来るかが6G技術開発体制の鍵になると考えている。
5Gでは海外から大きく出遅れてしまったが、6Gでも同じ過ちを起こさないように切実に願っている。

【執筆者:ITI伊藤 成顕 プロフィール】

大手製造業にて、新設工場の大規模システム構築、IoT構築やAI含む高度なシステム開発などに従事。過去蓄積したノウハウを活用し、DX戦略、DX実現の支援を行うアイ・ティ・イノベーションにて、お客様と共にプロジェクトの成功に奔走している。


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