前回はビジネスプロセスの「構造」についてタートルチャートなどを使った見える化について書きましたが、今回はビジネスプロセスやそれを支える企業情報システムの中で使われる言葉の意味定義 (メタデータ) についてのお話です。目次はこちら。
目次
1. メタデータとは
2. メタデータ整備の効果
3. メタデータ整備の順番
4. まとめ
1. メタデータとは
今回のブログでは「メタデータ」や「用語」といった言葉を使っていますが、ここでは便宜的に同じものとしてご理解いただければと思います。
「メタデータ」の言葉の定義にはいろいろな表現がありますが、幾つかピックアップしてみました。
引用元 | 定義内容 |
JIS X 4181-3 メタデータ登録簿(MDR) | 他のデータを定義し記述するデータ (3.2.18) |
DMBOK v2 | データに関するデータ。 例としては、データモデル、テーブルおよびカラムの定義と説明、業務ルール、変換ルールなどの「ビジネスメタデータ」や物理データベースのテーブルやカラムの名称、アクセス権やCRUDルールなどの「テクニカルメタデータ」がある。(筆者による要約) |
IT用語辞典 | メタデータとは、あるデータに関する情報を持ったデータのことである。データそのものではなく、データについてのデータであるため、メタ(上位の)データと呼ばれる。 メタデータとして記載される主な情報としては、著者、作成日、文書タイトル、著作権情報や関連キーワードなどを挙げることができる。例えばHTMLにおけるTITLE要素やMETA要素などはメタデータであるといえる。 |
自分でピックアップしておいて言うのもなんですが、個人的に言葉の意味は分かるものの、目的や用途の説明がないと分かりにくいですね。。。ちなみにDMBOK v2では「第12章 メタデータ管理」に上記以外にメタデータについて詳しい説明があるのでそちらを読んでいただければより理解が進むと思います。
参考までにISO 9000シリーズで使用される用語の意味を定義している「ISO 9000:品質マネジメントシステム−基本及び用語」に「用語を定義する目的」が書かれているので紹介します。
これらを踏まえ、誤解を恐れず私の言葉で少しかみ砕いた形でメタデータの定義を表現すると以下のようになります。
具体例を使って補足します。
例えばご自身も含め、複数人がいる場で何の前置きもなく、「スポーツにおけるフォワードの役割は?」と問われた場面を想像してみてください。。
人によってはサッカー、ある人によってはラグビー、またある人によってはバスケットボールといったように、「あるスポーツ」に対して人それぞれ「隠れた前提による解釈」をしながら語ると思います。あるいはスポーツに詳しくない方はまったく語れないこともあると思います。そのような状態では会話は噛み合いませんよね。
この構図を抽象化して図解すると以下のようなイメージになります。
では企業における例を1つ。例えば、企業の中に「苦情管理システム」というシステムがあるとします。では「苦情」という言葉を聞いてみなさんはどのように解釈しますでしょうか?
このように一言に「苦情管理」と言っても「苦情」の定義が曖昧なままだと何をどう管理してよいか分からないと思いますし、再発防止策を考えるために苦情を分析しようとしても期待する分析ができない恐れがあります。
実際にISO9001:2015とその派生規格であるISO13485:2016(医療機器のQMS)における「苦情」の意味定義は以下のように異なっています。
ISO9000 (汎用的なQMS) | ISO13485 (医療機器のQMS) |
3.9.3 苦情(complaint) <顧客満足>製品(3.7.6)若しくはサービス(3.7.7)又は苦情対応プロセス(3.4.1)に関して,組織(3.2.1)に対する不満足の表現であって,その対応又は解決を,明示的又は暗示的に期待しているもの。 |
3.4 苦情(complaint) 組織の管理下からリリースされた医療機器の同一性,品質,耐久性,信頼性,ユーザビリティ,安全性若しくは性能,又は医療機器の性能に影響を及ぼすサービスに関連した不具合を申し立てるための文書,電子媒体又は口頭によるコミュニケーション。 |
それぞれの意味定義の説明は割愛しますが、この意味の違いにより、情報の扱い方も変わってきます。つまりそれを支えるシステムの仕様も変わってくるということです。
したがって、「XXとは」をきちんと定義することで「隠れた前提による解釈」ではなく、関係者の間で「合意された解釈」を生み出すことによって、会話が噛み合う状態になるということです。これを図解すると以下のようなイメージになります。
念のため申し上げておくと、あくまで「会話が噛み合う状態」を作ることが目的であり、「言葉の意味定義」はあくまでそれを実現するための手段であるということです。闇雲に言葉の意味定義をし始めると「手段の目的化」になりかねないのでそこは注意いただければと思います。極端な話、会話が噛み合わなくても将来に渡ってさほど問題にならないような言葉であればわざわざ定義する必要はないと思います。何事にもメリハリが大事ですね。
ここまで2つの例を挙げて「言葉の意味定義の大切さ」を説明してきました。スポーツの会話のレベルであれば会話の中で比較的すぐに「嚙み合わなさ」を認識し修正可能ですが、これが日常のビジネス会話や企業情報システムのシステム間連携の中の多くの個所で起きているとしたら、いろいろ大変になることが想像つくのではないでしょうか。
2. メタデータ整備の効果
メタデータ整備の効果は端的に言うと「時短」と「相互運用性の向上」です。効果を発揮する対象には以下のようなものがあります。
効果の対象 | 例 |
人財育成 |
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コミュニケーション |
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企業情報システム |
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正直、複数人が同じ文化、同じ言語、同じ空気感の中で長く過ごしている状態であればある程度「あうんの呼吸」や「代名詞」で会話が成り立つと思います。ただ、これまで成り立っていたものが今後も成り立つ保証はありません。というのも以前に比べ最近は人財の流動性が増していますし、M&Aなどで異文化の会社と一緒になったり、グローバル化により海外メンバーとコミュニケーションを取る機会が増えたりと、これまでの前提が変わってきています。その動きはますます強化されています。したがって、そのような状況下にある企業においてはメタデータの整備の必要性やそれによって得られる効果は増していくと考えます。
3. メタデータ整備の順番
もちろん一言に「メタデータ」といっても日常のビジネス会話で使うメタデータとITシステムで扱うメタデータでは粒度や精度が異なるので、整備する大変さは異なります。
当然ながら (整備の精度はともかくとして) 日常のビジネスメタデータが整備された上で、ITシステムで扱うメタデータが整備できるという順番もあります。これはEAの各レイヤーが存在する順番で言うとビジネスアーキテクチャよりも他のアーキテクチャ(DA, AA, TA)が先に来ることはないのと同じことですね。
まだご自身の会社に日常のビジネス会話で使う「用語集」的なものがなければ、それを作るところから始めてみてはいかがでしょうか。実際やってみると分かりますが、案外まわりの人の解釈と違っていたり、うまく言葉にできないことに気付くこともあると思います。
なお、メタデータ管理や用語集を運用するためには私の経験則から言うと、すでに誰かのボランティア精神や有志による運用が行われている場合であっても、それらを支える公式な役割定義と正当な評価を行うことでより確実に持続可能な運用ができると考えます。
ちょっとだけ宣伝。弊社では「メタデータ管理ツール」をご用意しています。気になる方はぜひ弊社にお問い合わせください。ただそう言いながらいきなり矛盾したことを言いますが、ツールの先行導入だけはやめたほうがいいです。その前にご自身の会社が抱えている、もしくは今後抱えそうな課題をきちんと整理するところから始める必要があろうかと思います。「目的を明確に!」ということですね。もちろん、「目的を明確に」というのも言うは易しで、複雑化した物事を整理するのにもノウハウは必要ですので、その辺りでお悩みであればぜひ弊社にご相談ください。
ちなみに、この「目的」というのは「ビジネスニーズ」から来ているはずですが、「ビジネスニーズ」については次回のブログで取り扱う予定です。
4. まとめ
今回の内容を3行でまとめるとこうなります。
メタデータについてはまだまだ奥深いものがありますので、もっと詳しく知りたいと思われる方は以下に紹介する弊社中山のブログや弊社が法人会員になっているDAMA日本支部の公式ブログを参照ください。
次回は「ISO 9001 4章 組織の状況」をみながらビジネスニーズやその洗い出し方について書いていきます。
タイトル (予定) | 内容 (EAとの関係性の解説) | |
第1回 | MSとEAを共通言語にしよう! | MSとEAの関係性 |
第2回 | ビジネスプロセスを見える化しよう! | ISO 9001 序文 プロセスアプローチ |
第3回 (今回) |
メタデータを整備しよう! | ISO 9001 3章 用語及び定義 |
第4回 (次回) |
ビジネスニーズをまとめよう! | ISO 9001 4章 組織の状況 |
第5回 | ロードマップを整備しよう! | ISO 9001 6章 計画 |
第6回 | 人財を育てよう! | ISO 9001 7章 支援 |
第7回 | 積極的に運用しよう! | ISO 9001 8章 運用 |
第8回 | 改善ポイントを見つけよう! | ISO 9001 9章 パフォーマンス評価 |
第9回 | 少しずつ良くしよう! | ISO 9001 10章 改善 |
ご一読いただきありがとうございました!